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腕におぼえあり (異世界版)

 交易都市ヴィスマールに向かう街道を走る隊商の長い列とその後ろを走る乗合馬車が、森を抜けて草原に出た。

 草原をしばらく走れば、今夜の宿営地ロストクに着く予定だ。

 午後の日差しを浴びて走り続ける馬車の列の周囲には、結構な数の冒険者や傭兵が警護役として歩いている、隊商の差配者が雇った連中だ。


 うたた寝から覚めた俺は、乗合馬車の窓から外の風景を少し眺めてから、御者に尋ねた。


 「ロストクまで、後何刻(なんとき)くらいで着くんだ」


 御者はこちらに振り向いて言った。


 「お客さん、随分(ずいぶん)と古い言い方やんすね、後四時間ほどで着きまさあ」


 俺は御者にありがとうと礼を言って、もうひと眠りしようとまた目をつぶった。


 その直後、馬車が急に止まった。

 隊列の前の方が騒がしい。

 馬車が止まったことに驚いた客の一人が御者に怒鳴った。


 「な、何が原因で止まったんだ」


 「へ、へえ、隊列の前の方でトラブルがあったようで、それが原因で止まってんでさあ」


 俺は、客の質問に答える御者を見て、不審なものを感じた。

 御者の腰が少し浮いている、それに声もかすかに震えている。

 これは、もしかして・・・。


 俺は、御者に馬車の外に出る事を伝えた。

 御者は、おびえた目をこちらに向けたが、俺はかまわず外に出た。


 馬車を降りて(あた)りを見回すと草原が広がっていた。護衛に当たっていたはずの冒険者たちの姿が見えない。

 馬車の列の前方から、かすかに剣戟の音が聞こえた。

 車列の前方を見ると、土埃(つちぼこり)が上がっている。

 やはり、盗賊に襲われたようだ。

 近くに冒険者の姿がないのは、前方の馬車を襲った盗賊を撃退するために、応援に行ったようだ。

 

 その時、俺の耳に風に乗って、甲高い笛のような音がかすかに聞こえたような気がした。

 すると、馬車の周囲の草が不自然に揺れるのが見えた。

 

 何か来る・・・。


 俺は、やや腰を落として、いつ襲われてもいいように身構えた。


 草が激しく揺れ、何かがすごい勢いで迫って来た。

 だが、草がゆすられる音は、俺の方とは角度が違う方向に動いている。


 俺は御者に向かって叫んだ。


 「伏せろー!!」


 その声を聞いた御者は、あわてて御者台に伏せた。


 草むらから灰色の塊が飛び出して、御者の上を越えて反対側に消えていった。


 「ぎゃっ」


 離れたところで、誰かの悲鳴が聞こえた。

 他の馬車の御者が、灰色の塊にやられたようだ。


 「グレートウルフだ、グレートウルフが襲ってきた」


 「なぜだ、奴らが狙うのは馬のはずだ」


 御者たちが大騒ぎしている。

 グレイウルフが馬ではなく、自分たち御者を襲って来た事で恐慌状態に陥っているようだ。

 グレイウルフが隊商を襲うのは、腹を空かせて馬を食べようとしたときくらいだ。

 魔獣の中でも比較的知能が高いため、護衛が付いている隊商を襲えば殺される危険がある事を奴らは分かっているはずだ。

 ならば、グレイウルフが集団で人を襲うのは、テイマ-が命令している可能性が高い。

 しかし、分からないのはグレイウルフの集団を操れるほどのテイマ-なら、盗賊行為をしなくても貴族や大商人の護衛稼業で十分稼げるはずなのに、馬車を襲撃している事だ。

 

 罪を犯して普通の仕事に就けなくなった者か、盗賊の頭目(とうもく)に操られているのか。

 理由がどうであれ、この襲撃から我が身と馬車を守らなければ・・・。


 俺は、乗合馬車の後ろを回って反対側に出て、御者の横辺りで立ち止まった。

 さっきと同じように、草むらをかき分けて走ってくる気配が近づいてきた。

 馭者に、もうしばらく伏せていろ、と怒鳴ってから、気配の方へ体を向けた。


 俺は、草むらから飛び出てきたグレイウルフの鼻面に、背負っていた薙刀を抜き、刃を鼻面にたたきつけた。


 グレイウルフは勢いを殺す事なく、御者台を飛び越えて反対側に飛んでいった。その先で足を着いて二・三歩くと、ぐしゃと言う音とともに左右に裂けてその場に崩れ落ち、血まみれの肉塊になった。


 俺は、薙刀を袈裟掛けに一振りして、刃に付いた血を飛ばした。

 視線を周囲に飛ばすと、馬車周囲の草むらのあちこちで不自然に揺れている。

 一頭が倒された事で、他のグレイウルフたちが目標を御者から俺に変えたようだ。


 奴らに襲われて撃退するのはいいが、勢い余って馬車を壊されでたまらない。

 俺は、馬車から少し離れた場所へと走った。そして走りながら指笛を吹いた。


 俺が馬車の列から離れるように街道を走ると、草むらの揺れも追いかけてきた。


 うまく、引っかかってくれた。


 俺は、馬車列の最後尾からやや離れた場所に立ち止まり、薙刀を構えた。


 俺の邪魔をする奴を許す気は無い、グレイウルフどもは絶対に倒してやる。

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