008:私を性処理の道具に使うなー!
――ギシギシギシギシッ。
うぅ……ぅ……。
なんだろう。
誰かに揺さぶられてる感じがする。
――ギシギシギシギシッ。
この感覚、あれだ。
会社の飲み会で酔い潰れたときにみんなが一生懸命起こしてくれた時と同じだ。
特に先輩。
いやぁ〜、あの時は迷惑かけたなぁ。
――ギシギシギシギシッ。
酔い潰れた私に気を遣って、優しく揺さぶってくれてたな。
でも起こさないと店に迷惑がかかるから、時々激しく揺さぶってたっけ。
そんな優しい先輩に甘えちゃって、全然起きなかったんだよなぁ。
あぁ、懐かしいなぁ。
もうそんな飲み会もこの世界じゃできないよね……。
だってここ異世界だもん。
いや、待てよ。酒場とかあるんじゃね?
ギルドとかで木の樽ジョッキで乾杯とかっ!
憧れるなぁ〜。
――ギシギシギシギシッ。
ん? 待てよ。
この世界には先輩はいないはず。
それに私お酒とか飲んでないぞ!?
じゃあ、私を揺さぶってるのは誰?
優しく、そして激しくて揺さぶってるこれは何?
も、もしかしてイケメン冒険者!?
眠る前に妄想してたことが現実にっ!?
それなら早く目覚めないとっ!!!
夢と現実の境目にあった私の意識が覚醒する。
イケメン冒険者さ〜ん。
おはようございま……す……?
私の瞳に映ったのは、イケメン冒険者とは全くかけ離れたモンスターの姿だった。
小柄な体と深緑色の肌、鼻はピエロの付け鼻のように大きく、耳が少しだけ尖っている。
そしてよだれを滝のように垂らしながら、欲望に正直な表情を恥ずかしもなく晒している。
そんな下劣なモンスターが私の瞳に映っていた。
――ギシギシギシギシッ。
って、何を擦り付けとるんじゃーい!!!!
下劣なモンスターは、オスの特徴的な部分を――オスにしか存在しないあれを私に擦り付けていた。
「キィイイイイイイ!! (痴漢は犯罪よー!!)」
私は激しく抵抗し、下劣なモンスターを引き離す。
引き離したからこそ、下劣なモンスターの全体が見えはっきりと分かった。
この下劣なモンスターの正体はゴブリンだ。
「ぐずじゅ……ずりゅ……」
よだれを啜りながら近付くゴブリン。
啜ったよだれはすぐに垂れ落ちる。
それだけ大量のよだれが口内から溢れ出てるのだ。
うわっ、気持ち悪い。
というかこのゴブリン、私を……宝箱をなんだと思ってるんだ!?
宝箱を性処理の道具に使うのは自由だが、私を性処理の道具に使うなんて許すまじ!!!
私の清き体を弄ぼうとするなんて許すまじ!!!
この体はイケメン冒険者に捧げるって決めてるんだよ。
下劣なゴブリンなんかに触れられてたまるかっ!!
「キィイイイイイ。キィイイイイイ!!! (今すぐ私の前から消えろ。この下劣なゴブリンめ)」
「ぐずゅりゅ……じゅるるるるぅらぁあー!!」
うわっ、よだれを啜りながら咆哮しやがった!
よだれ飛びまくりだ。汚ねぇ!!!
こんな汚い咆哮見たことないぞっ!!
「じゅりゅり……」
って、おいおいおいおい。
なんて顔して近付いてくるんだよ。
これが犯罪者の顔かっ!?
性欲に正直すぎて気持ち悪いぞっ! (ブーメラン発言)
「じゅるりゃぁぁぁあー!!」
うわぁぁぁああー!!
襲ってきやがったー!!
ついに我慢できなくなって襲ってきやがったー!!
よっいしょっ!!
私はゴブリンを軽く躱す。
躱されるとは思っていなかったのだろう。
ゴブリンは壁に激突した。
そんなゴブリンを見て私は大声で笑ってやった。
「カパカパカパカパカパカパッ!!!」
遅い。遅すぎるぞ、下劣なゴブリンめ!
ドラゴンカップルとオーガから逃げ切ったこの私――俊敏なミミックちゃんからしたら、お前の動きなんて止まって見えるわー!
「カパカパカパカパカパカパッ!!!!」
我ながらに下品な笑い方だな。
「じゅるりゃぁぁぁあー!!」
そりゃそうだ。諦めるわけないよな。
でも私もお前の相手をしてる暇がないんだよ。
そもそも相手してもらえると思うなよっ。
私はゴブリンに背を向け飛び跳ねた。
そしてゴブリンから全速力で離れる。
エスケープ! エスケープッ!
あんな下劣なモンスターと同じ空気なんて吸いたくないっ!
半径1億メートル離れてほしいもんだっ!
「じゅりぃいいいいいい!!!!」
ゴブリンの悔しげな叫びが私の鼓膜を振動させた。
へっへー。悔しかったら追いついてみろー!
お尻ぺんぺーん。
お尻じゃなくて背中か? まぁ、どっちでもいいか。
お尻ぺんぺーん。
ドラゴンとオーガを見た後だとゴブリンなんて全然怖くないんだよーだ!
「じゅらぁあああああああああああ!!!!!」
ほうほう。そんなに悔しいか!
そんなに悔しいのかー!
そりゃそうだろうな。
こんなに可愛いミミックちゃんにフラれたんだもんな〜。
こんなにいい女、もう二度と会えないもんな〜。
最後に私の後ろ姿を目に焼き付けるんだなー!
それくらいは許してやろう。下劣なゴブリンめ。
それでは……
「キィイイイイ〜 (さようなら〜)」
私は叫び声続けるゴブリンに向かって別れを告げた。
その時だった――
なっ、なに!?
地響きが――!
もしかしてオーガ?
くっそ。しつこいなぁ。
でも地響きから推測するに結構遠い位置からだ。
それに地響きは私の後ろから……ん?
後ろと……右と……左からも……あ、あれ?
四方八方から地響きが!?
オーガじゃなくて地震か?
いや、違う。地震じゃない。
これは……何かがこっちに向かってきてる感じだ。
「「「じゅりゅりらぁああああああああ!!!!!」」」
ぎゃぁああああああああ!!!
大量のゴブリンだー!!!!
10? 20? 50?
いや、もっといるぞー!!
もしかしてさっきのゴブリン、悔しくて叫んでたんじゃなくて、仲間を呼んでたのか!?
さ、最悪だー!!!
やめてー!!!
こっちこないでー!!
「キィイイイイー!! (私を汚さないでー!! ) 」
「「「じゅりゅりらぁああああああああ!!!!!」」」
私の叫びは性欲に満ち溢れたゴブリンの下劣な叫び声にかき消された。