017:ミミックVSキングラット〝同じ土俵〟
あれからどれくらいの時間が経ったんだろうか。
1時間、2時間、いや、もっとかもしれない。
格上相手の戦術――我慢比べでなんとかここまでやってこれた。
本当は毒とか火傷とかのデバフ付与できたらよかったんだけどね。
私にはそんな能力ないから、気合いと根性だけで耐え抜いたぞ。
そのおかげで私のレベルは――
《個体名〝ミミックちゃん〟はレベル10に上がった》
レベル10にまで上がったのだっ。
ついに2桁に達したぞ!
お祝いしたいところだけど、お祝いに相応しいケーキがどこにもない。
いや、目の前にあるじゃないか。
大きなキングラットが。
こいつを倒して魔石を食べる。それが今の私の最大のお祝い。最大の贈り物だっ!
だからそろそろ決着をつけようじゃないか。
体力も精神もこの数時間でかなり削ったと思う。
それに比べ私はレベルアップしたばかり――元気ピンピンのミミックちゃん。
まあ、心底辛いのには変わりないけど……でもめげずに頑張った!
疲労困憊のキングラット。
レベルアップして全回復のミミックちゃん。
格上だった相手がやっと私の土俵にまで降りてきたんだ。
いける。いける。いけるぞ。
やっと対等に戦える。
そう思っただけでも苦労した甲斐があったってもんだ。 (疲れも吹っ飛ぶ〜)
ここまできたら心に余裕ができるもんだな。
いや〜、何度死にかけたことか。
では早速で悪いが、レベル10になった私の力試させてもらうぞっ!
あの時逃しておけば良かっただなんて後悔しても遅いんだからねっ!
必殺――体当たり攻撃ッ!!!
今までびくともしなかった私の体当たりだ。
どうだッ!?
「ズズズアァ……」
よしっ!
受け止め切れずに後ずさったぞ。
効いてる気がする。
「ズズズラァアアー!!!」
おっと、危ないっ!!
私の取っ手に手を伸ばしてきた。
やっぱり賢いな。しっかり弱点を狙ってきてる。
だけど躱しちゃえば問題なし。ノープロブレム!!
続いて――
必殺――回転攻撃ッ!!!
回転を加えて不規則な動きをすることによって、掴まる心配を無くす。
回転している私ごと掴んでしまえば意味がないって話だけど、今のキングラットの体力じゃ、そんなことはできないはず!
できるんならさっきの体当たり攻撃で、私ごと掴んで攻撃を防いでた。
ブラフなんて芸当ができるほど賢いとは思ってない。
それはこの数時間の戦いの中で分かったことよ。
だから大丈夫。このまま攻めて攻めて、攻め続けるっ!!
「キィイイイイー!! (うらぁあああー!!)」
回転速度が落ちてきたタイミングを見計らって距離を取る。
キングラットが怯んでいる隙に背後へと回る。
大きな隙だから逃ることだって可能だ。でもここで逃げるのは違う。
勝てる可能性があるんだ。私でも格上相手に勝てる可能性が――その光が見えてきたんだ。
だから攻撃をやめてなんてあげないんだからっ!!
必殺――噛み付き攻撃ッ!!!
この戦いの中で一番手応えがあった攻撃よ。
さっきは右尻だったから、今度は左尻を狙ったわっ!
平等に攻めてあげたこと感謝しなさい!
そして膝を折って倒れなさいっ!!
「ズズズズラァアアアー!!」
くっ、まだ倒れないか!
あっちの気合いと根性もすごいものだ。
でもこれならどうだ?
この戦いの中でヒントを得た噛み付き攻撃以外の新技――
喰らえッ!!!
私は跳躍した。
そして自由落下に全体重を乗せる。
必殺――尻落とし攻撃ッ!!!
私の体はキングラットの脳天に落下した。
お前のかかと落としから着想を得たこの技の威力はどうだー?
私のプリプリのお尻の威力はー!
お尻と言っても箱の底面なんだけどね。 (結構硬いぞ?)
フラフラになるキングラット。
そしてついに――片膝を折ってくれた。
千載一遇のチャンスだ。一気に畳み掛けるぞ!!
必殺――体当たり攻撃ッ!!!
膝をつくキングラットの背中に容赦無く体当たり攻撃を喰らわせる。
からの……
必殺――尻落とし攻撃ッ!!!
跳躍からの落下。
この攻撃でついにキングラットは倒れた。
まあ、私が乗って無理やり地面に突っ伏せさせたんだけどね。
でも倒れたことには変わりないでしょ。
これで倒されてくれればいいんだけど……
やっぱりね。そう甘くはないよね。
「ズズズズラァアアーッ!!!」
激しい咆哮と共にキングラットは立ち上がった。
モンスターって本当にタフだね。
私の攻撃が弱いってのも原因のひとつかもしれないけど。
よしっ!!!
倒れるまで何度だってやってやるよ。
こっちだって気合いと根性で生きてるんだッ!!
必殺――ん!?
私が力いっぱい踏み込もうとした直後、キングラットは勢いよく倒れた。
そして――粒子となり消えた。
残されたのは大きな鼠色の魔石のみ。
かなりの長期戦だった。
それに激闘――いや、死闘だった。
それなのに最期は実に呆気ないものだった。
「チュチュチュチュッ……」
おっ!?
ネズミさんたちが急に活発に!?
で、どっかに行っちゃった。
そうか。
キングラットの支配から解放されたんだ。
忠誠心なんかじゃなくて恐怖政治――テロルってやつだったのか。
良かったね。ネズミさんたち。
これからは自由に生きるんだよ。
さてと、食後のデザート――頑張った私へのご褒美といこうか。
私はキングラットの魔石へと近付く。
そして舌を伸ばして魔石を掴み、口の中へと入れる。
まだまだ口に入るけれど食べるってなるとこれがギリギリの大きさだな。
それにしてもこんなに大きい魔石は初めてだぞ。
レベルアップも期待できるんじゃないか?
そうそう。格上相手を倒した時の経験値ってとてつもないものだしね。
もしかしたら一気にレベルが5くらい上がるんじゃね?
いやいやいや、10くらい軽く上がっちゃうかもよー?
楽しみ〜。
それじゃ、いただきまーす!!
――ガリッ!!!
飴玉を噛み砕くように魔石もガリッと一口で噛み砕いた。
やっぱり私の牙と顎は強靭だな。
――ボリガリッ、バリボリッ!!!
味はまあまあだな。可もなく不可もなくって感じ。
ということは、レベルアップは……
……しないよね。
この世界のレベルアップって結構シビアじゃない?
私30レベルくらいの頑張りはしたと思うんだけど?
キングラットを倒したのに1レベルも上がらないってどういうこと?
まあ、戦いの最中に5レベルは上がったんだけど。
でもでもでも、こんなのあんまりじゃない?
あっ、でも、そうか。
キングラットが集めてた金銀財宝のコレクションは全部私のものになったのか。
この宝の山が報酬だと考えると悪くないな。
それにこの縄張りも私と戦う前は荒らされた形跡がなかった。
よしっ!
しばらくの間ここを私の拠点にしよう。
ここに残ってるネズミさんたちは、危害を加えて来なそうだし共存できそうだ。
金銀財宝がたくさんあるし拠点もできた。
さっきはあんまりとか言ってたけど、撤回撤回。
最高の報酬だよ。粒子になったキングラットには感謝しないとね。
私も強くなったし、キングラットのおかげだ。
安全なうちは、食って寝て食って寝てを繰り返してやる。
太っちゃうだって?
問題なし。ノープロブレムだよ。
ミミックちゃんは太らないのだ〜。
「カパカパカパカパカパカパッ!!!」
これぞ勝利の笑顔だー。