010:ミミックVSゴブリン〝回転乱舞〟
私はボロボロになった体に鞭を打ち、1体のゴブリンに向かって体当たりした。
「キィイイイイ!!! (おらぁああああ!!!)」
私の攻撃方法なんて体当たりしかない。
舌を器用に使えば、棍棒を持てるだろう。重たそうな石斧だって持てる自信はある。
だけどそれをしなかった。選択肢になかったんだ。
だって私の体当たりは――
「じゅぐはぁあああ!!」
宝石の壁を砕くほどの力があるからっ!!
「キィイイ! キィイイ! キィイイイイイー! (どうだ! 見たか! やってやったぞー!)」
私の体当たりを受けたゴブリンの左半身は、どこかへと飛んでいった。
そして抉られた箇所からは、行き場をなくした青黒い液体がドバドバと溢れ出ていた。
ゴブリンは力尽き、人形のようにその場に崩れ落ちた。
直後、ゴブリンの死体は粒子となって消えていく。
他のゴブリンは死者を悼む素振りはなどは一切ない。仲間の死を悲しむ様子もない。
だが、私に対する殺意だけは格段に上がったと言えよう。
それだけモンスターという生き物は死と隣り合わせに生き、死を当たり前だと思っているのだろう。
初めてモンスターを殺した私だが、達成感のようなものを感じている。
誰かに自慢したい。誰かに褒めてほしい。
どうやら私は体だけでなく心までモンスターになってしまっているのかもしれないな。
そうじゃなきゃやっていけないんだけどねっ!!!
「「「じゅりゅらぁあああー!!!!」」」
お前たちもそうだろ?
この世界では命の奪い合いは当たり前だ。
だから私も遠慮なんてしない。躊躇わない。
この命が尽きるまで暴れてやろうじゃないかっ!!!
「キィイイイイイ!! (うらぁあああああ!!)」
2体目!
3体目っ!
どうだ! 私の体当たりの威力はー!!
宝石をも砕く体当たり。ボロボロの体でもこれくらいの威力は出せるんだよっ!!
「キィイイイイイ!! (どりゃぁあああああ!!)」
4体目ぇぇえ!!
4体目のゴブリンを倒した時、あることに気がついた。
粒子となって消失したゴブリンの代わりに石のようなものが出現していたことに。
これってもしかしてドロップアイテムってやつ?
ほら、モンスターを倒した時に入手できる戦利品のっ!
それならしっかりといただいておかないと失礼だよね。
すぐ近くに転がっていたドロップアイテムであろう石を私は舌で拾った。
そして口の中に放り投げた。 (いただきまーす!)
体の側面に飾ろうかとも考えたが、お洒落なんてしてる場合じゃない。
それに体がこの石を欲してたんだ。
たとえ下劣なゴブリンのドロップアイテムだったとしても、体が求めてたんだから仕方ないだろ。
きっと疲れてお腹が空いてしまったんだろう。だって石というのは私の――ミミックの空腹を満たす唯一の食べ物なんだから。
そうじゃなきゃ拒否反応を起こしていたに違いない。ゴブリンの石なんて嫌だもん。
――ガリガリガリッ!!!
石を齧った瞬間、体に違和感を覚えた。
いや、体じゃない。心の……魂のほうだ。
温かな光に優しく包まれているかのような心地良い感覚。
ありとあらゆる感情が同居しているような不思議な感覚でもある。
この感覚どこかで……
《個体名〝ミミックちゃん〟はレベル5に上がった》
突然脳内に響く謎の声。
その瞬間、覚えのある感覚の正体が脳裏に浮かんだ。
死にかけたあの時と同じ――ドラゴンカップルに殺されかけたあの時と同じだ。
あの時は確か宝石を食べた。それでレベルが上がったんだ。
今回もそう。宝石じゃないけど石を食べたぞ!
そうか。これがモンスターのレベルアップってやつか。
色々と疑問は尽きないが、今は受け入れるしかないよねっ!
私のボロボロだった体はみるみるうちに回復していく。
飛び散った体の破片も、どこかへ飛んでいった取っ手の部分も、いつの間にか元通りに。
いや、元通りなんかじゃない。元の体よりも強固になっている気がする。
いける。いける。いけるぞ!
今の私ならゴブリンに勝てる。
過信なんかじゃないし、レベルアップしたからって調子に乗ってるわけじゃない。
本能が訴えてきてるんだ。
こいつらが束になってかかってきたとしても、私には勝てないってことを。
だってそうでしょ?
あんなにボロボロだった私を殺せなかったんだから。
あんなにボロボロだった私に殺されたんだから。
「「「じゅりゅらぁああああー!!!」」」
証明してやる。
束になっても私には勝てないってことを。
そしてこの先も私は生きていける力があるんだってことを!!
「キィイイイイイ!!! (うらぁあああああ!!!)」
私は向かってくるゴブリンに向かって真っ直ぐに飛んだ。渾身の体当たりだ。
渾身の体当たりによって、5体のゴブリンの体を私の体が貫いた。
肉が爆ぜる音、骨が砕かれる音、血飛沫が舞う音。
そんな音が一瞬一瞬の時の中だけ聞こえたが、ゴブリンたちのなんとも汚い悲鳴にかき消されてしまった。
「「「じゅぐぁあああああああ!!!」」」
汚い悲鳴も、青黒い血も、その血の臭いも、ゴブリン自体も……なんて不快なんだ。
「キィイイイイイ!!! (だらぁあああああ!!!)」
体を回転させながら体当たりをする。
こうすることによって真っ直ぐにしかいかなかった攻撃もベーゴマのように方向転換が可能になる。
攻撃範囲がぐっと上がった。威力もそこまで落ちていない。
それに目も回らないっ! なんで? 不思議っ!
この回転攻撃は、大群相手だと有効かもっ。この状況にぴったりの攻撃手段よっ!
凄まじい勢いでゴブリンの死体が増えていく。
「じゅらぁああー!!!!」
なっ!?
止められた!?
そうか。回転が緩くなったから止められたんだ。
回転し続けるのは危険だな。今度はどこかのタイミングで回転し直さないと。
それと……やっぱり私の弱点というか欠点みたいなのはここか。
私の回転攻撃を止めたゴブリンの手は、私の取っ手をしっかりと握っている。
そのせいで回転を止められてしまったんだ。
だけどノープロブレム――問題ない!
回転を止められたからって回転できないわけじゃない。もう一度回転しちゃえばいいのだよ。ゴブリンごとね!!
うらぁああああ! 遠心力で吹き飛べー!!
気安く私に触ってんじゃねー!!
私に触っていいのは運命の相手――イケメン冒険者だけだコラー!! (イケメン勇者様も可)
「じゅあああー!!!!」
吹き飛んでいったゴブリンは別のゴブリンを巻き込んで壁に激突する。
他のゴブリンがクッションになってくれたおかげで、奴だけは生き残っているな。
なんて運のいい奴なんだ。その運を少しでも分けてもらいたいものだね。
でも、その運もここでよ。
私は生き残ったゴブリンに向かって思いっきり踏み込んだ。
必殺――体当たり攻撃ッ!!!
私は壁ごとゴブリンを砕いた。
物凄い衝撃が洞窟内に響いただろう。
そのせいで他のモンスターが寄ってこないか心配だ。
早く残りのゴブリンも片付けないとっ!!
必殺――回転攻撃ッ!!!
大勢相手だとやっぱりこの技が効果的だっ。
激突したゴブリンたちは次々に青黒い血飛沫を上げながら倒れていく。
そして粒子となって消失すると同時に石がドロップする。
石を拾ってる余裕はないけど、この石はレベルアップに必須のはず。
だったら隙を見て拾って食べてやる。
回転速度が落ちた頃合いを見て……石を拾う。
そして――口の中へ放り投げる。 (いただきまーす)
――ガリガリガリッ!!!
レベルアップは…………しないか。
経験値的なものが足りないって感じかな?
それならたくさん石を食べちゃえばいいんじゃね!?
そうと決まれば戦いながら隙を見て石を拾うぞ。
レベルアップさえすれば体力も回復する。壊れた部分だって回復するんだ。
ほぼ無敵じゃないかー!
「カパカパカパカパカパッ!!!」
さぁ、ひれ伏せゴブリン共!!!
私の経験値となるがいいっ!!
必殺――回転攻撃ッ!!!
どりゃぁああああー!!!!