天使の翼
俺の名はトリックスター、悪魔界のニューウェーブだ。
俺様に盗めないものはない。
今日は、なんと天界から天使の翼を盗んできた。
昼寝中のバカな天使から、いただいてきたのさ。
もちろん引きちぎったわけじゃないぜ。
天使の横に、無造作に置いてあったんだ。
まさか取り外しができるとは思わなかったから、ちょっと驚いちまったが。
俺は地獄にある四畳半の自宅に戻ると、さっそく布団の上に翼を乗せてみた。
天使の翼を布団にして、お昼寝をすることにしたのさ。
思ったよりゴワゴワするし、微妙に臭い気もしたが、悪魔はそういう事気にしちゃだめだ。
こう、豪快に……バサって、バサって寝転ぶ感じで……。
ドガン!! ガン! ガン! ガガン!!
いきなりドアを叩く音がした。
しかも、三回ぐらい居留守を使われた後にキレ気味で殴ってくる威力を、初回からぶつけてきやがる。
「はい? どなたですか?」
おずおずと、ドア越しに確認してみる。
「あた、あたし、あたあた、あたたし」
女の声で、世紀末の拳法でも使いそうなぐらい「あたあた」言ってくる。
かなり怖かったが、相手が女という事もありドアを開けた。
「み……みず、水。もしはハイボール」
肩で息をしながら汗だくの女が、かなり図々しいことを言ってくる。
「はやく、はやくハイボール」
なんで一択になった?
「とりあえず落ち着けよ」
そう言いながら、手早くハイボールを作ると、女に渡した。
グラスの中で、氷がチリンと鳴る。
「これ、角角の高いやつじゃん」
美味そうに半分ほど飲んだ後、女がニヤニヤしながら馴れ馴れしく話してきた。
「でも、鳥鳥の安い味のほうがあたしは好きかなあ」
「いいから要件を言え!」
人の家のウイスキーの文句を言いだした女に、イライラしながら声を荒げた。
「ちょっと待って。話を整理するから」
女が、文句を言いつつ飲み切ったグラスを置く。
「あたし、はね、ない。はしって、きた」
なんで整理したら片言になるんだ?
「ようするにお前、この翼の持ち主か?」
俺が布団の上に置かれた翼を指し示すと、女は怯えた顔で「なんてことを……」と呟いた。
「その翼は持っているだけで危険なの!」
あながち冗談とも思えない迫力で、女は続ける。
「あなたもその呪いを受けることになる」
そう言うと、女はどこからともなく一本のボトルを取り出した。
「この聖水で浄化を……」
女がボトルを片手に翼に近づくと、ボトルのラベルが見えた。
【ダニ・ノミ駆除剤】
「おい! お前マジで!」
俺は叫びながら、翼を布団から蹴り飛ばした。
女は自分の翼にもかかわらず、ひどく不快な顔で翼を摘まみ上げるように持つ。
「ひどいなぁもお。とりあえず帰りますね。じゃ」
「じゃ、じゃねえよ」
俺は女から駆除剤をひったくると、自分の布団に振りかけた。