8.タンク達の能力
晩飯を食べながらルゼとタンク達の事について話した。
「タンクさん達の憑代、変わり過ぎてませんか?」
「そうだよね。サイズもだいぶ大きくなったし、あんなに精密な感じじゃなかったよね」
「はい。あれはおもちゃじゃなくてメカです」
「だよねー。何でだろう」
俺達は疑問が増え続けるがわからないままだった。
「タンクさん達に何ができるか聞いたところ、自分達でもあんまりわかっていないみたいです」
「あーそうなんだ」
「モンスターにはステータスを見るって概念がないようで、テイムしていたら主のステータスから見れるんですけどね。主の可能性があるハルキさんのステータスが文字化けしちゃってますからね」
「そっかーじゃあ週末あっちの世界に行った時に、いろいろ確認しなきゃか」
「そうですね」
俺達はそのまま話しながら食事を進めた。
タンク達はくるくると部屋の中を動き回っていた。
▽ ▽ ▽
金曜日になった。
既にルゼが泊まりに来ていたこともあり、ルゼとリディア様の魔力は満タンになっていた。
土曜の朝にすぐ出発できるように、今日はルゼの家に泊まる。
「それにしてもすごいね。タンク君達」
「やっぱりリディア様とも会話ができますか?」
「うん。ルゼが言ってたみたいに、日本語での会話だけどね」
「なるほど」
俺が考えても謎が解けないのがもどかしい。
「それにだいぶ強くなってるように感じるよ?」
「タンク達がですか?」
「うん。たぶん進化をしたんじゃないかってくらい強くなっていると思うよ。憑代が変わるとこんなにも変わるのか」
「そうなんですね。俺には全然感じ取れません」
「まあこれでも元魔王だからね」
リディア様はドヤ顔でこちらを見ていた。
「お姉ちゃん、あんまり調子に乗らないの」
「調子になんか乗ってないよー」
ルゼはリディア様を軽くスルーして話を続ける。
「タンクさん達が居るおかげで、転移直後の不安が解消されますね」
「そうだね。タンク達がどれほどできるかまだわかんないけどね」
そういうと目の前にタンク達が飛んできた。
「任せろ。俺達は出会った時よりはるかに強くなってるように感じる」
「そうだよ!」
「任せてー」
「わかったよ。頼りにしてるぞ」
タンク達は嬉しそうにくるくる回っていた。
ロボットモードの時は顔も口もあるので表情が分かりやすいが、タンク達が球体モードが気に入っているせいで感情が声色と動きからしか読み取れなかった。
▽ ▽ ▽
翌朝、俺達は前に転移をした客間に集まっていた。
「2人共、魔力は大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ」
「平気です!」
「タンク達も準備はいい?」
「大丈夫だ」
「「いいよー!」」
「じゃあお願いします」
リディア様は息を吸った。
「ワールドトリップ!」
周りが真っ暗な空間になった。
足元が光って大きな扉が現れ、俺達は落ちるように扉に入っていった。
▽ ▽ ▽
今回は気絶せずに済んだ。
異世界は朝だ。
やはり異世界の時間経過は元の世界と近いようだった。
「よし、今日は森の捜索に行こう。タンク君案内を頼んでもいい?」
「任せろ」
タンク達はリディア様の頭上を飛び回っている。
「リディア様、捜索の前にやりたいことが」
「どうしたの?ハルキさん」
「タンク達がどんなことをできるかを確かめておきたい」
俺がそう言うとビュラとポンプがこちらに飛んできた。
「確認したいー」
「私も―!」
「わかった、なら早くやっちゃおう」
リディア様の許可が出たので、俺達は少し広い場所に移動した。
「ルゼ、お願いしてもいいかな?」
「はい。任せてください。まずはタンクさんから」
タンクはルゼの方へ飛んで行き、ロボットモードになった。
「じゃああの木に向かってお願いします」
「わかった」
タンクが右腕についている砲台を木に向ける。
「オラ!オラ!オラ!」
砲台から弾が飛んでいき、木に穴が開いていく。
タンクのサイズが小さいから、弾もビー玉より少しくらい小さいサイズだ。
しかし威力が高いのと連射がそこそこ早いので、木はボロボロになっていった。
「こっちもだ!」
左手からはBB弾のような球が、マシンガンのように飛んで行った。
右腕の砲台ほど威力はないが、連射力は高かった。
「タンクさんありがとうございます。次はポンプさん」
「はーい!」
ポンプは木に近づくと、右手の銃口を向けた。
「行くよー!」
銃口からは火が出てきた。火炎放射器のようだ。
ただの火炎放射器でなく、火を出し続けたり、火の玉を出したりしていた。
「ポンプさん!森が燃えてしまいます」
「大丈夫!」
ポンプは左手の銃口を向けた。
銃口からは水が出てきた。
水は燃えている木を消火していく。
右手と同じように、水の球も出すことが可能のようだ。
「続いてビュラさんお願いします!」
「うん!」
ビュラの右腕の銃口からは光の球が出てきた。
だがいくら当てても木にダメージが入らない。
「それはもしかして」
ルゼはそういうと、自分の爪で腕に傷をつけた。
「え?ルゼ?」
「大丈夫です。ビュラさん、私の腕の傷にその球を飛ばしてください」
「うん!」
ビュラの銃口はルゼに向き、光の弾が発射された。
ルゼの傷に光の弾が当たると、みるみる傷が塞がれていく。
「やっぱり。これは回復の効果があります」
「なるほど、救急車だからか」
「そうですね」
「でもルゼ、確認のために自分を傷付けないでくれ。そういうのは俺がやるから」
「わ、わかりました」
ルゼはなぜか照れていた。
▽ ▽ ▽
タンク達の能力の確認も済み、俺達は鬼人族が居ると思われる森へ向かった。
「オンナ!メシ!オンナ!」
「メシ!オンナ!コロス!」
何か不快な声が聞こえてきた。
「ん?なんか聞こえる。女、飯、殺す?」
ガサッガサッ
草むらから何かが飛び出してきた。
「うわ!なんだ?ん?ゴブリン?」
2匹のゴブリンだった。
「ハルキさん!ゴブリンです。気をつけてください」
俺はゴブリンの言葉も分かるようだ。
「おい、お前達!俺らは危害を加えないから退いてくれないか?」
俺がそう問いかけるとゴブリン達は、一瞬俺の方を向くがすぐに視線はルゼとリディア様に向いた。
「オンナ!コロス!」
「オンナ!オンナ!」
「おい!聞いてるのか?」
俺は叫ぶが、ゴブリンに無視し続けられた。
「ごめん。ルゼ、リディア様。話しかけても無視される」
「ハルキさん!ゴブリンは本能で動くようなモンスターです。知能が低いモンスターとの対話は難しいかもしれません。それにゴブリンは雑食で人も食べますので、倒してしまわないとダメです!」
「…わかった」
俺は少し残念だった。もし対話が出来れば、少しでも殺生を減らせると思った。
「これが異世界か。慣れないとダメだよな」
俺は決めた。初めて出会うモンスターとは対話を試みるが、対話できなかった場合は容赦をしてはいけない。
「タンク!ポンプ!」
俺が叫ぶとタンクとポンプは球状のままゴブリンの方へ向かって行った。
「オンナ!メシ!ン?ナンダ?」
「ジャマ!ナンダ!ギャッ!」
タンクの撃った砲弾がゴブリンの頭を貫通する。
「ナンダ?テキ?コロス!アアアアア!」
ポンプが火の玉を飛ばし、ゴブリンは燃えていく。
燃えていくゴブリンは叫び続けた。
「アツイ!イタイ!アツイ!タスケ…」
ゴブリンの断末魔が終わった。
俺の耳にはゴブリンの断末魔がこびりついていた。
「大丈夫ですか、ハルキさん」
ルゼが俺のもとにやってきた。
「いや、モンスターの声が聴けるってなかなかきついね。ゴブリンの断末魔はなかなかきつかったよ」
「大丈夫ですか?」
「うん。少しずつ慣れていくようにするよ」
「…はい。でも無理はせずに、私を頼ってくださいね」
「うん。ありがとうルゼ」
俺は初めてのモンスター討伐を経験した。