19.怠惰のマズドール
俺はビーとティーと暇を持て余していた。
待っている間、モンスターも現れなかった。
「ルゼ達遅いなー」
「そうですね!」
「どっか乗っていく?」
ティーはすぐにでも走りたそうにしていた。
「ダメだよ。全部終わったら、いっぱい走らせてあげるから」
「ありがとー!」
ティーは頭を俺に擦りつけてきた。
街の方を眺めていると声が聞こえてきた。
「「「「うおおおおお!」」」」
「え?」
良く聞いてみると怒号のような声だ。
城壁の上の方を見ると建物が一瞬見え、バラバラになって消えていった。
「もしかして、潜入がばれて戦闘になった?」
俺は急いで街に向かおうとするが、動けなかった。
「あれ?」
俺の服が何かに引っかかっている。
振り向くと、俺の服を白い肌の金髪ロングの男性が指で摘まんでいた。
服装は高級そうな貴族のような服を着ている。
「予定より早く帰ってきたが何が起きてるんだ」
金髪男は俺の服を摘まんだまま独り言をつぶやいていた。
金髪男と目が合った。
「おい。人族」
「はい?」
「何でこんなところに居るんだ?」
「え?」
「それにしても私がいない間に街がこんなに騒がしくなっているとは」
男性の声はもの凄く冷静だったが、顔は鬼のような表情になっていた。
俺は純粋に恐怖を感じた。
「人族。お前は関係しているのか?」
俺は何と返答すればいいのかわからなかった。
「何のことです?ところであなたは?」
俺が問いかけると金髪男の表情は戻った。
「この島にいて俺の事を知らないのか?」
「は、はい」
ドゴッ!
俺は金髪男に倒され、頭を踏まれた。
「ぐっ!」
「私の名前は怠惰のマズドール。しっかり覚えておけ。2度は言わない」
ドスッ!
俺は腹を蹴られた。
凄く痛い。喧嘩なんて何年もやっていない。
モンスターを少し倒したおかげでステータスが上がっているみたいだが、痛いのは変わらなかった。
このマズドールって男は絶対に敵だ。怠惰の悪魔はゴフェルって人だったはず。
それを受け継いでるってことは、ゴフェルは死んだってことか?
ダメだ。こいつを街に向かわせたら。
なんとかルゼ達が脱出するまで時間を稼がないと。
ドスッ!
マズドールは俺の頭をまた踏みつけた。
「それで私の街に何しに来た?」
「わ、わけのわかんない事言うな!俺はたまたまここに来ただけだ」
ドスッ!
俺は左腕を蹴られて吹き飛ばされた。
「うっ!」
俺は起き上がろうとするが力が入らない。
左腕は感覚がなくなっていた。
マズドールを見ると、ビーとティーが足止めをしていた。
「び、ビー!ティー!い、いいから逃げて!」
「だいじょっ!」
ビーが地面にたたきつけられた。
「ハルキはにげっ…」
ティーは蹴り上げられた。
「ビー!ティー!」
マズドールは瞬間移動をしたかのように俺の目の前に現れ、頭をまた踏みつける。
「な、なにすんだ」
「なぜ答えない。まあ答えてくれなくてもいい。俺はお前のような強情なやつを痛ぶるのは嫌いじゃない」
「くっ…悪趣味な奴」
マズドールは俺を踏んでいる足に体重をかけてきた。
「口のきき方には気をつけろ人族。まあ最近は私のお気に入りもいじめ甲斐がなくなってきたから、久々に楽しめてるがな」
「お、お気に入り?」
「この街には魔王軍に刃向った者が収容されているんだ。そしてこの収容所にいる鬼人族が私のお気に入りだ。あいつらはどんだけ痛めつけても口を割らないし弱音も吐かない。痛ぶり甲斐があったんだけどな、最近は声すらあげなくなって面白味がなくなったんだよ」
こいつはクソ野郎だ。絶対に許してはいけない。
俺はマズドールに髪を掴まれた。
「楽しい時間もそろそろ終わりだ。私も忙しい。人族、最後にもう一度聞く。お前が街の騒動に関与しているのか?」
「うるせぇよ。関与してたらどうするんだ?」
「なら死ね」
俺は腹を蹴られ、街の堀に落下した。
▽ ▽ ▽
身体がどんどん水の中に沈んでいく。
足掻くことができないくらい身体にダメージを負っていた。
このまま死ぬのか。息が出来ない。
身体が止まった。
さっきまで沈んでいったのに止まっている。
口も目も動かない。
俺は自分の状況を理解できなかった。
「おい。ちゃんとしてくれよー」
え?なんか声が聞こえる。
俺の耳には水の中なのに鮮明に男性の声が聞こえた。
「活躍できるように良いスキルを渡してるんだから。今回も特例だからな。もっとレベル上げをしてくれよな」
男性が言っていることが理解できない。
口が動かないせいで問いかけることもできない。
「まあ俺のせいでもあるか……。今後も少しは助けてやるから頑張ってくれよ」
男性の声が聞こえなくなった。
まだ身体が動かない。
すると目の前に小さなウィンドウが出てきた。
[スキル:『異世界装備』を取得させました]
俺はスキルを使おうとするが身体が動かないせいで使えない。
すると目の前に小さなウィンドウが出てきた。
[時間を動かしたら溺れ死ぬだろ。念じて『異世界装備』のウィンドウを出せ]
俺は念じると、目の前に始めて見るウィンドウが出てきた。
○異世界装備
頭:未装備
首:未装備
胴:未装備
下半身:未装備
右腕:未装備
左腕:未装備
右脚:未装備
左脚:未装備
○装備可能モンスター
タンク×(範囲外)
ビュラ○(範囲内)
ポンプ×(範囲外)
ビー○(範囲内)
ティー○(範囲内)
俺は理解が出来ていなかったが、装備できるものは装備してやる。
ビュラを胴・右足にビー・左足にティーを装備するように念じた。
すると俺の身体が光り輝いた。