18.ガジャール夫妻
私はポンプさんについて行き、地下へ到着した。
地下の牢屋は、他の牢屋と違ってとても不衛生な場所だった。
鬼人族はこんなところで15年も囚われていたのか。
すぐに助け出さないと。
牢屋に到着した。
中にはほとんど動けない状態で拘束されている鬼人族がいた。
その中にはファジャの両親であるガジャールさんとランスンさんもいた。
ビュラのおかげで怪我などは治っているようだが、鬼人族の目は雲っているように見えた。
私達のせいで…。
私は涙を堪え、声をかけた。
「ガ、ガジャールさん。ランスンさん。遅くなってすみません。ルゼ・グラント二ス、今戻りました」
ガジャールさんとランスンさんはゆっくりこっちを向いた。
私の声に気付いた他の鬼人族も私の方に顔を向けた。
ガジャールさんはゆっくり口を開いた。
「ルゼ様。無事だったのですね」
ランスンさんも口を開く。
「良かった…」
私は深く頭を下げた。
「はい…。みなさんのおかげで助かりました。助けに来るのが遅くなってすみません」
「ぐわははは!今日は祝いだなみんな」
ガジャールさんは笑い出した。
「そうですね。お頭!」
「こんな拷問で鬼人族が根をあげると思ってるのか?」
「鬼人族を舐めてるなこれは」
「俺はあと10年は余裕だ」
「私は20年は余裕よ」
鬼人族のみんなは私に気使って元気なふりをしてくれている。
だが私にはみんなの声が震えているのが伝わってきた。
「本当に遅くなってしまいすみません!」
私がそういうとガシャールさんがまた口を開く。
「ルゼ様。帰ってきたってことはそういうことだよな?」
「はい。謀反を起こしたやつらを倒して、魔人領を良い方向に進めたいと思います」
「ぐわははは!それじゃあ我々の力が必要だよな」
「また力を貸してくれるんですか?」
「当然!」
私は涙を抑えきれずしゃがみこんでしまった。
その様子を見たタンクさん達が牢屋を開け、鬼人族を解放していった。
▽ ▽ ▽
私はランスンさんに抱きしめられていた。
泣いている私を落ち着かせようとしてくれたみたいだ。
「ごめんなさい。ありがとうございます」
「いいのよ。助けてくれてありがとね」
ランスンさんは私の頭を撫でてくれた。
まだ完全には助けられていない。
私は自分の顔を叩き、気合を入れ直した。
「みなさん。後程改めて謝罪させてください。まずはこの街を制圧します」
私がそういうとガジャールさんがこちらを向いた。
「ルゼ様。今の状況を教えてくれ」
「私とお姉ちゃんは協力者を連れてきました」
「お姉ちゃん?」
「すみません。魔王様です。詳しい話は落ち着いたら説明します」
ガジャールさんとランスンさんは首を傾げていた。
「私達は鬼人族のみなさんを探している途中にファジャと蟻人族に出会いました」
「ファ、ファジャは生きているのか?」
ガシャールさんはすごい勢いで顔を近づけてきた。
「あんた、近いよ」
「す、すまん」
ランスンさんに注意をされてガシャールさんは元の位置に戻った。
「ファジャさんは蟻人族の街で50人の鬼人族の長として生活しています」
「ファジャが長……」
ガシャールさんは言葉を失っていた。
「蟻人族についても後程説明します」
「わかったわ」
ランスンさんは驚いていないようだ。
「みなさんを救出するために私と協力者はこの街の偵察を、リディアとファジャは他の虫人族に協力を仰ぎに行きました。ここにいるタンクさん達が制圧可能と判断したので、この建物を制圧してみなさんを救出しました」
鬼人族のみんなはタンクさん達をジロジロ見ていた。
「タンクさん達は協力者のテイムモンスターのようなものなので、失礼の無いようにお願いしますね」
私がそういうとみんなは目を逸らした。
「それでこの後はどうするんだ?」
「はい。みなさんの怪我や体力を回復したんですがどうですか?」
「ああ。全快だ」
「ガジャールさんとランスンさんには捕虜になっていた方々を率いて、この街の居住区にいる兵士の捕縛と捕虜の奪還をお願いしたいです」
「わかった!」
「任せて!」
そういうと鬼人族のみんなは地上階へ向かって行った。
ビュラさんが私の目の前に現れた。
「ルゼー」
「ど、どうしました?」
「武器がいっぱいある部屋見つけたよー」
「本当ですか?案内してください」
「いいよー」
私はビュラさんに教えられた倉庫で武器を回収し、ガジャールさん達に渡した。
みんな武器を持ち、私の元に集まってきた。
「みなさん。助けに来るのが遅くなりすみません。そして、また力を貸してくれてありがとう」
みんなの視線は暖かかった。
「まずはこの街の制圧をします。兵士は捕縛でお願いします。少しくらいの怪我でしたら、こちらのビュラさんが回復させますので」
「「「「「「はい!」」」」」」
「ではガジャールさん。お願いします」
ガジャールさんがみんなの前に出た。
「よし。俺達に苦しい思いをさせた、あのマズドールのクソ野郎に一泡吹かせてやるぞ!」
「「「「「「「「「おおおおおお!!」」」」」」」」
「行くぞー!」
ガシャールさんは居住区に走って向かって行った。
捕虜だった人達もそれに続いた。
ランスンさんは呆れたようにみんなを歩いて追いかけていた。
「ランスンさん!」
私はランスンさんに声をかけた。
「ルゼ様、どうしたの?」
「マズドールって悪魔族で金髪ですか?」
「そうだけど。知り合いなのかい?あのクソ野郎と」
「マズドールがこの街の責任者?」
「そうだよ。今は怠惰のマズドールらしい」
「えっ!」
私はこの街の責任者が私達の学生時代の同級生だと聞いて驚いた。
▽ ▽ ▽
戦況は優勢だった。
15年も捕まっていたみんなは鬱憤を晴らすように戦っていた。
みんなの様子を見ていると、タンクさんが近づいてきた。
「ハルキは呼ばなくていいのか?」
「あっ!こんなに騒音がしていたら、さすがに心配しちゃいますよね」
「そうだな」
「すぐ迎えに」
ドゴーン!
城壁がものすごい勢いで崩れ始めた。
「あっちはハルキさんが待機していた方向」
私とタンクさんは壊れた城壁の方へ向かった。