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最後の仕上げ

お仕置編ラスト

「あぁご安心下さい、お命まで取るつもりはありません。私、これでも人間を愛していますので」


 格が違う。

 目の前の惨状に、リナはそれをひしひしと実感する。

 目隠しをつけられ、四肢を失った3人。視界が隠されたことにより他の感覚が鋭利になり、さらにいつ襲ってくるかも分からない恐怖で錯乱しながら手足を食われるシッドとアーウィンは悲惨の一言に尽きた。

 そしてあまりの恐怖に殺してくれと叫ぶライドネに放ったのが先程の一言である。リナは痛感した、目の前の悪魔にとって人間とは、ただの愛玩動物に過ぎないのだと。この惨状も、彼にとっては本気でただの戯れなのだと。

 逃げたい。今すぐここから走り出したい。しかしリナは湧き上がる恐怖心をグッと堪える。悪魔が人間を取るに足らない存在だと思っているのなら幸いだ、彼だって反抗する野生動物よりも従順な愛玩動物(ペット)の方が可愛いだろう。


「こんなに凄い魔法を簡単に使いこなすなんて……きっと名のあるお方なのでしょう? ねぇ、悪魔様、どうか私に貴方の名前を呼ぶ権利をくださらないかしら」

「名前ですか?」

「はい、私は従順ですわ。きっと貴方のお役に立ちます」

「ふむ……わかりました」


 悪魔は少し考えた後、そう言ってリナに微笑んだ。

 良かった、これで私は見逃して貰える。そしてあわよくば彼を呼び出した術士に取り入って……。

 そう考えているリナに、1本の剣が差し出された。

 え? とその剣を差し出した悪魔を見ると、彼は先程と変わらぬ美しい笑みでリナを見つめていた。


「なら役に立つ証拠を見せてください」


 悪魔がリナに剣を握らせる。


「あ、あの……?」

「これで彼らを刺しなさい」


 悪魔がライドネたちを指さす。


「冗談で…」

「言ったでしょう?私は人間が好きです。()()人間を殺すつもりはありません、ですが彼らは酷く辛そうです。ならここはいっそ殺してあげるのが慈悲だとは思いませんか?」

「………私、は」


 剣を見る。

 短剣とは行かないが、そこまで長くはないシンプルな剣。これで刺したら、きっとその息遣いまでよく分かるだろう。深くまで刺すのなら、手がその肉に触れるかも知れない。それぐらいの長さ。


「私には、できな…」

「やり方が分かりませんか?なら一緒にやってあげましょう」


 悪魔がリナを背後から包み込むように立ち、握らせた剣の上から更に手を重ねる。


「い、いや…」

「遠慮はいりません、誰だって初めてのことはあります」


 何とか逃げようと藻掻くも、背後の悪魔はビクともしない。

 そのまま悪魔に押されるように一歩、二歩とライドネの方へと近づく。


「誰からやりましょうか。臆病なアーウィン? 卑怯者のシッド? それともやはりリーダーであるライドネ? ねぇリナはどう思います?」

「許して、いや、いや…」

「か弱い小鳥は殺せるのに、己より強い者を殺すのは躊躇う。うーんよく分かりませんねぇ」


 その言葉に、あの小さな鳥を思い出す。

 図体ばかりの落ちこぼれが可愛がっていた、みすぼらしい小鳥。ならこの悪魔はあの愚図が……グランが呼び出したのか。


「謝るから、グランに謝りますから! 許されるなら何だってやる、体だって好きにしていい! だからお願いします! 許してください!」

「だーめ、人のものを奪っておいてそれは虫が良いというものでしょう?」

「いや…いやぁーーーーーーー!!!」


 鉄の匂いが肺に満ちる。

 ライドネが叫ぶ。刺した衝撃で目隠しがずれ、目が合う。合ってしまう。

 生暖かい何かが手を伝っていく。悪魔は尚も刃を深く深く押し付ける。手が弾力のあるものに包まれる。

 引き抜き、また刺す。それを何度も何度も繰り返す。

 その内ライドネが動かなくなると、次の標的へと向き合わされる。

 せめて目を閉じたいのにそれが出来ない。シッドの、アーウィンの断末魔が耳に残って離れない。


「お疲れ様でした! 初めてにしては上出来でしたよ!」


 悪魔がニコニコと笑う。返り血など一切浴びず、ただその手のみを血に染めて楽しげに笑う。

 脂と血で剣が手から滑り落ちる。制服はすっかり赤く染まり、血に濡れていない所など探す方が難しい。


「あ、あぁ、ああぁ…」

「おや?」


 リナが震える手で再び剣を掴む。そして


「耐えきれず自死を選びましたか」


 日の光など一切入らない部屋の中、死体に囲まれた悪魔はただ満足そうに笑うだけであった。

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