その悪魔が言うには
「あ、ああ、あ……」
シッドは猿轡をされた口でただ呻くことしかできなかった。まぁ猿轡をされていなかったとしてもそれは変わらなかっただろうが。
男の呼び出した上位精霊による四重属性魔法は、不可思議な混沌となってライドネの四肢を喰らい尽くした。
黒い泥に包まれた手足が溶ける音、匂い、そしてライドネの悲鳴。それだけで恐ろしいのに、なんと四肢を失ったライドネは未だ生きていた。元は手足が生えていた部分は真っ黒で、ライドネも痛みはあるものの正気を保っている。普通なら死んでいるのに生きているのは、目の前の男の仕業なのかそれとも男が放った四重属性魔法の効果なのか。それはシッドには分からない。いや、アーウィンにもリナにも、そしてライドネにだって分からないだろう。
男の使った魔法はそれだけ高度なものだった。
「あぁやはりダメですね、なにぶん久しぶりにこの魔法を使ったもので。少々やりすぎました」
そう言って申し訳なさそうに笑う男。なにがやりすぎだ、そもこの魔法を使った時点で手加減などするつもりもなかったくせに。
……いや、本当に手加減しているのか?
手加減して、これなのか?
嫌な結論に冷や汗が流れる。
そうこうしている内に、四肢を失ったライドネが椅子に座らされる。
「うん、少しは見栄えが良くなったのでは? ねぇリナ嬢? 貴女もそう思いませんか?」
「は、はいっ! 貴方様の言う通りですわ!」
青ざめながらもニコリと笑ってそう返すリナ。しかしその足は微かに震えている。
「見学お疲れ様でした。もう話しても宜しいですよ」
男が指を鳴らすと、シッドとアーウィンの口枷が外れる。しかしなにも話せない。
言葉を発したら、男の足元にいる混沌が襲ってくるのではないかと、そんなことばかりが頭の中を巡る。
「お、俺たちが何したってんだよォ!?」
そう考えるシッドの横で、アーウィンが情けない声で怒鳴る。顔から出る液体を全て垂れ流し、醜く拘束を解こうともがきながら彼は怒る。情けない声で尚も怒鳴る。
「このイカレ野郎!! 拘束好きのサディストめ!! なんで俺がこんな目にあわなきゃなんねぇんだ!! さっさと解放しろこの悪魔!!!」
「おや正解です。丸を上げましょう」
しかし彼は怯まない。怒鳴り散らすアーウィンを楽しげに観察しながら言葉を続ける。
「その通り、私は悪魔です。主が貴方たちに大切なものを奪われてしまいましたので、取り戻しに参りました」
「はぁ!? な、なんのことだよ!!」
そう言いながらもアーウィンは目線を悪魔に合わせない。口ではなんのことだといいながら、その実彼らには心当たりが山ほどあった。
自分たちが恨みを買っていることは知っている。その上で、自分たちに報復する者などいないだろうと高を括っていた。
まさか想像もしなかったのだ、『悪魔』を呼び出してまで復讐しようとするなんて。それほどに自分たちが恨まれていたなんて。
「主は大変にお嘆きになった状態で私を召喚されました。たった1人の友を失い、この世に絶望しかないと言う顔で私に仰ったのです。『自分の命を差し出すから、友を生き返らせてくれ』と。私は感動しました。友を奪われた復讐ではなく、友を救う為に悪魔を呼ぶなど……」
悪魔がクスクスと笑う。
「とても、滑稽でしょう?」