悪魔の魔法、再び
高等精霊魔法が赤毛の男を貫くのを、リナはただ黙って見ていた。
技が決まったことに歓声を上げるライドネ。本当ならその隣に自分はいて、ライドネを褒めたたえていただろう。
だが
(……これだから貴方はダメなのよ)
これは先程見たパターンではないか。
あの猫、殺したと思ったそれは、あんなにも恐ろしかったじゃないか。
リナは冷めた目でライドネを見る。いい気になっている単純な男。精悍な顔立ちはしているが、それだって周りに比べれば多少整っている程度でしかない。
(やっぱりね)
案の定、赤毛の男は倒れない。体のあちこちに穴が空いているにも関わらず、その微笑みを絶やさない。
伊達に長いものに巻かれて生きてきたわけじゃない。こと強者の嗅ぎ分けに関しては、リナには絶対の自信があった。
倒れない赤毛の男にライドネが動揺する。なにか喚き散らしているがリナの耳には入らない。どうでもいい。
「なるほど、四重属性魔法ですか。人にしては中々なんじゃないですか?」
中々なんてものじゃない。本来属性魔法とは1つの属性のみで行うもの。複数属性を使うにしても、例えば火の魔法に風の魔法を合わせる等、片方の力を強くする為にもう片方を合わせるというのが主流だ。
それを四大元素全てを使い、打ち消し合うことなく相互に力を高め合う。更に中位精霊を呼び出し元素を支配下に置く。これは並の魔術師では出来ない所業だ。
中位精霊を呼び出す魔力、元素を支配下に置く精神力、属性のバランスを取るコントロール力。全てが高い水準でないと使えない高等魔法。
それを中々の一言で済ました男は美しい金の瞳を細め、その白魚のような手で手印を結ぶ。
「"ここに呼び出すは四大精霊"」
先程聞いたばかりの言葉が、男の口から紡がれる。
「"北には地の精霊・タロス"」
唱えられたその名に、リナは目を見開く。
「"東には水の精霊・ネレイド"」
ライドネが嘘だろと呟く。
「"南には火の精霊・イフリート 西には風の精霊・ジン"」
椅子に括り付けられた2人が愕然とした表情で男を見つめる。
「"相容れることはない四大元素、しかしここに例外あり"」
先程よりも大きな光が人の形へと変化する。
「"原質の力、この世の基本である四つの力、全て溶け合い混ざり合う"」
人の形へと変化した光が手を取り合う
「"ならばこれは有り得ざる原質、つまり混沌の幼体"」
光が混ざり、黒い泥へと変化する。
「"これは全てを喰らうもの、さぁその身を差し出しなさい"」
「"混・精霊四重奏"」