変化
「ほら出ておいでよ、グランの好きな林檎のパイもあるよ〜」
「恥ずかしがる事は無い。グランだって気に入っていただろう」
「それはそうなんだけどさぁ〜〜〜」
翌日、最終試験初日。
テントの前で彼らは揉めていた。正しくは駄々を捏ねる1人を残りの3人があやしていた。
「カッコイイから大丈夫だよ! 自信もって!」
「はい、我ながら会心の出来かと」
それでも出てこないグランに、リュツィの顔が曇る。
「そうですか……どうやらお気に召さなかったようで。すいません、直ぐに戻しますね…」
「落ち込むなリュツィ」
「泣かないでリュツィ」
「泣いてはいませんが」
罪悪感アタックである。態とらしく落ち込むリュツィを、これまた態とらしい程の大声で慰めるジルヴァラとシャリアル。どう見ても罠だが、これはグランには効果が抜群であった。
わ、わかったよ! と叫びながらこうなればヤケクソだとテントの外へと踏み出す。
「ほら背筋を伸ばして、俯かない!」
「ネクタイが曲がっている、貸してみろ」
「ほら早く行くよー」
リュツィに背中を叩かれ、ジルヴァラにネクタイを引っ張られ、シャリアルに前へ前へと押される。
集まる視線、今すぐにでも逃げ出したいが3人に周りを囲まれそれは叶わない。
諦めて心を無にして足を進める。大丈夫、僕が見られている訳じゃない。僕は石ころ僕は雑草僕は空気。
そんな事を心の中で必死に念じていたグランは、周りからの視線の真の意味に気づくことは出来なかった。
「え……ねぇあれ誰?」
「かっこいー、あんな子いたっけ?」
「ヴァイオテールの奴だろ? 彼処の1年は3人だけの筈だけど……」
前髪をかきあげ、伸びた髪を後ろに纏めた長身の青髪の男。垂れ目がちの赤い瞳は長い睫毛に囲われ、太めのしっかりとした眉は意志の強さを感じさせる。
背が高くスラッとしているがヒョロい訳ではなく、むしろ体格は凄く良い。服の上からでもその逞しい筋肉が分かる。長い脚に長い腕、スっと通った鼻梁の上に乗せられたメガネは知的さを演出しており、まぁざっくり言うと物凄くイケメンであった。
その男の周りを、小柄で妖しい魅力のある少女、クールな銀髪美少年、そしてこの世のものとは思えない程の美貌を持った中性的な男が囲っているのだ。正直物凄く目立っていた。
順にグラン、シャリアル、ジルヴァラ、そしてリュツィである。普段はジルヴァラは日除けのフードを被っているし、リュツィは猫の姿をとっていることが多い。だが今日は朝から曇り、ジルヴァラはフードを外すしリュツィは態と人間の姿をとっている。それはもう周りの目線を奪っていた。
そして彼らはそんな事歯牙にもかけずに目的の会場へと向かう。良くも悪くも注目される事に慣れきっているからだ。
彼らが去った後、話題はヴァイオテール一色であった。人間は綺麗なもの、格好いいものが好きなのだ。加えて事前に配られたヴァイオテールが現在1位であるという情報。
この試験の中、落ちこぼれで問題児ばかりだと嫌煙されていたヴァイオテールを見る目は、確かに変わりつつあった。




