交渉=脅し
「そうかそんなことが……」
僕たちの話を聞いたアクタイオンはふむと考えこみ……しかし直ぐに視線を上げた。
真っ直ぐと向けられる目線に気圧される。悪い事はしていないのに何故かその視線を見れない。真っ直ぐすぎる。眩しい。
「そのこと、先生方に報告は?」
「僭越ながら私が」
「そうか、君がしたのなら大丈夫だろう」
リュツィの言葉にそう頷く彼に驚く。リュツィのことを悪魔だと気がついていない?しかし彼程の実力者に限ってそれは無いだろう。
……いや、悪魔と分かっているからか。
悪魔は嘘をつく事が出来ない生き物だ。言葉巧みに騙すことはあっても事実と乖離したことは言えない。
「しかしこんなに高レベルの悪魔と会えるとは……是非手合わせを願いたいものだ」
「時間があれば何時でも付き合いますよ」
その言葉にアクタイオンとその後ろがソワッ……と仄かに沸き立つ。
アスレピーカ寮は身体強化を得意とする生徒が集まっている。そして彼らは往々に自他共に厳しく、人を見下しがちだがその分実力を認めた者には敬意を払う。プライドの高い武人タイプが多いのだ。そして戦闘狂、相手が強ければ強いほど燃え上がる彼らはきっとリュツィと戦いたいのだろう。
「試験が終われば、君たちは仮面の男達のアジトへと乗り込むのか?」
「そのつもりだ」
それも言っていた、というか言わされた。『まさかそのまま放置なんて考えてないよな?』と無言のオーラで圧された。
「俺も同行しよう」
「「「は?」」」
ジルとシャル、そして僕の声が合わさった。リュツィだけはおやおやと笑っている。いや笑っている場合じゃないんだけど。
あのシャルが真顔で驚いている。そりゃそうだ、まさか着いてくると言い出すなんて思わなかった。
「止めても無駄だぞ。どうせ先生方に許可を取るつもりなんて無いんだろう? ヴァイオテールに許可を出す先生もいらっしゃらないだろうしな。これを知ったらきっと先生方はお止めになるだろう、問題児のヴァイオテールが問題を起こしに行こうとしているなんて……ってな具合に。という訳で俺を置いていったらバラす」
「お、脅しだーーー!!!」
「私も! 私も着いていきますわ!」
後ろで待機していたアスレピーカ共も我も我もと手を上げる。バカなのかこの人たちは!? わざわざ危険と分かっている事に首を突っ込むなんて!!
「大人数いても邪魔だろ、行くメンバーは俺と…ルーチェルだな、この情報を手に入れられたのはお前のおかげだ」
「やりましたわー!!」
「勝手に話を進めるな!」
ジルが珍しく大声で怒鳴る。昼間なのにここまで元気なのは初めて見た。
それでも聞かないアクタイオン達に頭を抱えるジル、少し楽しくなってきたシャル、オロオロするしかない僕。カオスだ。
「まぁまぁいいではありませんか」
混沌としたテント内に優しい声が響く。
そちらを見れば、リュツィが相変わらず優しく微笑みながらアクタイオン達を見つめていた。
「見たところ彼ら程の実力があれば足でまといにはならないでしょう、例え何か起こってしまっても私が何とかします。それに」
なんでもない事のように彼は言う。サラッとまぁ私1人で何とか出来るのでという意味合いのことを当たり前のように。
「実戦は成長には打って付け、校外学習は大切ですからね!」
それはもう楽しそうに、リュツィはこの中で1番お気楽なノリでそう言い切ったのだった。