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それぞれの役目を終えて

「遅くなりました」

「ジル! シャル!」


 トラキアを縛っていた2人の上空で声がする。

 振り返ると、大きな翼を生やしたリュツィと魔道具で浮遊するグランが上空から降り立つ所であった。

 それなりの速度であったがリュツィはピタリと、グランは魔道具の効果を切りそのまま落下する。

 シャル達にも分かるほどの衝撃が地面を揺らすが、グランは特にダメージを受けることも無くケロリとして2人に駆け寄った。


「こんなにボロボロになって……!!」

「問題ない、直ぐに回復する」

「ボク頑張ったんだよー! 褒めて褒めてー!」


 キャイキャイとはしゃぐ子供たちを微笑ましげに見守りながら、リュツィは水を差すようですが……と口を開く。


「神具の気配を辿り、この方々の主とやらの居場所を突き止めました」

「む」

「さっすがー!」


 そう、2人が刺客を引き付けている間に、自分とリュツィは奴らの首魁について調べていたのだ。

 あいつらが持っていた神具の気配を辿り、侵入してきた場所を突き止めた後はリュツィと共に校外へと行きその足取りを追跡した。


「場所はそう遠い所ではありません。ここから南西へと下った先にある"畢竟の峡谷"の麓にある小さな町です」


 だがそこに足を踏み入れる前に、何者かによって気配は絶たれた。しかしあの神具と畢竟の峡谷からは同じ精気が感じられたのだ。あそこに黒幕が居るのはほぼ確実だろう。


「町の入口には感知魔法を仕掛けておきました。あそこに出入りする生き物は全て把握できます」

「応急処置だけどね……」

「いや、それで十分だ。ありがとう」

「こちらこそ、刺客をお相手くださってありがとうございます。……傷だらけですね、回復しますので傷を見せてください」

「大丈夫だ、その内回復す──」

「見せてください」

「……分かった」


 リュツィの笑顔の威圧に負けたジルヴァラが渋々と患部を見せる。とは言っても1度には把握しきれない程に傷だらけなのだが。


「直ぐに済みます」


 ジルヴァラの患部が仄かな光に包まれ、見る見るうちに回復していく。流石だ、ここまでの回復魔法の使い手はそうはいないだろう。


「シャリアル嬢もこんなに汚れてしまって……」

「わっ」


 ジルヴァラの溜息とともに一陣の風が吹く。思わず目をつぶってしまったが、目を開けるとシャル、そしてジルとついでに自分の服もすっかり綺麗になっていた。


「これでよし」


 リュツィは満足気に頷いた、彼はどうも世話焼きなところがある。今もいそいそとシャリアルのリボンを直しているあたりこの読みは正しいのだろう。


「それでは刺客もお題も捕らえたことですし、このまま明るくなるのをまって出発するか、それとも暗い森の中を提出場までこの2つを届けるか。どちらになさいますか?」

「多数決を取ろう、俺は今直ぐ連れていくべきだと思う。こいつらが回復しないとは限らないし、それにお題を提出するまでの時間も成績に加味される。夜間の移動は俺がいればリスクにもならないしな」

「ボクもジルに賛成! まだまだ元気いっぱいだしね!」

「2人がいいなら僕も賛成だよ、でも大丈夫? 疲れてない?」

「グランは心配性だなぁ、確かに魔力はちょーっと使い過ぎたかもだけど、これぐらいなら直ぐに回復するよ!」

「俺も問題ない。リュツィが治してくれたからな」

「ふふ、お役に立てたのなら幸いです」


 方針は決まった、ならば直ぐにでも向かおうと木に縛り付けた2人へと振り向く。女の方はともかく、トラキアはあのままでは死んでしまうだろう。念の為リュツィに診てもらって……


「あれ?」

「……やられた」


 しかし振り向いたそこに2人はいなかった。

 後に残ったのは切り落とされたロープと少量の血のみ。

 確かに捉えたはずの刺客は、ジルが速攻で伸した3人を含め忽然と姿を消していた。


「後を追いますか?」

「いや、どっちにしろあの傷じゃ試験の間は手出ししてこないだろう。ゆくゆくは本拠地を潰すんだ、今は無理にアイツらを捕らえる必要は無い」


 今優先すべきはあくまで試験、無駄にあちらへと体力や魔力を削る訳にもいかない。それに何より他の生徒を巻き込みたくない。そうなればきっと今度は死者が出る。


「分かった、リーダーはジルだしね。僕達はそれに従うよ」

「それじゃあ試験場に向けてレッツゴー!」



 ー

 ーー

 ーーー



「いやー、強かったッスねぇ」


 男は森の中を枝を伝って走っていた。

 両手に3人の男を俵抱きで持ち、背中にはリーダーである女を背負っている。


「傷を治すので魔力はスッカラカン、短刀も使い切ったし仲間はこの有様、これは主に怒られるなー」


 そう言いつつも彼の顔には笑みが浮かんでいた。


「まぁでも、最低限の命令は達成したからお仕置はされないでしょ!」


 男の首には3つの首飾りがかかっていた。

 小さなカプセルが着いたシンプルな首飾り、その内の2つの中には何か赤い液体が、もう1つには青い紐のようなものがそれぞれ入っている。


「半精霊とダンピールの血、それに仲間が見つけた末裔の髪! 加えて俺の中には半精霊の魔力もある、まぁ十分でしょ」


 彼は上機嫌だ。

 楽しい戦いが出来た上に、命令も達成出来た。仲間を運ぶのだって苦にならない。そのぐらい今の彼は満足感に溢れていた。


「また戦いたいなぁ、今度は末裔もいたらいいな。それに……」


 最後、末裔と共に現れた1匹の悪魔。

 あれは恐ろしいものだ。

 神具の力が無ければ、きっと逃げる事なんて出来なかっただろう。


「楽しみだなぁ」


 上機嫌に彼は歌う。


「待ってるからね。ジルヴァラ、シャリアル、それに末裔と悪魔さん!」

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