斬首
仮面をつけた女が懐から何かを取り出した。
何をするつもりなのかと黙って見ていたジルヴァラは、取り出されたそれが放つ威圧感に即座に距離をとる。
シャリアルが持つ闇の力とはまた違った、粘つくような深く暗い魔力。
唯の黒い玉にしか見えないそれは、ただそこにあるだけの筈なのにジルヴァラの手足に纒わり付く。
だがそれがなにかは分からない。リュツィなら知っていたかも知れないが、自分にあの悪魔ほどの知識はない。
「ふんっ!」
「!!」
黒い玉をどうするのか警戒していると、女は突然それを握り潰した。宝玉のように見えていたそれは腐った果実のようにドロリと溶ける。
溢れ出した黒い液体は下に落ちることなく女の腕を伝い、そのまま全身へと広がっていく。腕から胴へ、胴から足へ、そして顔へ。
「ぐrrrrrr……」
「禍々しいな、禁呪かはたまた混沌でも呼び出したか…」
剣を構える。
女はもはや人とも呼べぬ何かへと変じていた。
身の丈は3m以上はあるだろうか、二足歩行の獣のような姿をしており、恐らく目と思わしき部位は赤く光り輝いている。
その全身はドロドロと溶けており、触れた植物はたちまち黒く枯れ最後には塵となる。触れたらどうなってしまうのかなど想像に難くない。
横目でシャリアルの方を見るが、向こうも向こうで手一杯なようだ。なによりもシャリアルが食い止めている男にはまだまだ余裕があるように見える。
「手こずっていられないな」
「おtnaしksろ!」
女が液体の腕でジルヴァラへと迫る。
それを身を捻って躱し、下から上へと剣を振り上げ腕を切り飛ばす。
早い、だが自分には及ばない。
灰色の瞳でモンスターとなった女を見る。ジルヴァラの目は夜でもはっきりと全てを映し出す。女は即座に腕を再生して再び襲いかかってくるが、人よりも余程優れた動体視力を持つジルヴァラにその腕が触れることは無い。
再び腕を切り落とし、そのまま地面を蹴って女へと迫る。
あまりに早いジルヴァラの動きに女はついて行くことが出来ない。すぐさま防御体制を取るが、腕が再生するよりも早くジルヴァラの剣がその胴体へと食い込み……
「なっ!?」
ジルヴァラの足を何かが掴む。
そのまま体制を崩してしまったジルヴァラの上に女が覆い被さった。
「……!!」
声が出せない。全身に焼き付くような痛みが纒わり付く。
ジルヴァラは痛みに震える手で何とか剣を掴む。そして
ザンッ──
「はa…?」
自分の首を切り落とした。
己の手で、躊躇うこともなく。
突然の奇行に女の動きが止まる。その隙に、首を失った身体がその首を地面と女の隙間から放り投げる。
それは地面へと転がり、ピタリと動きを止める。
それと同時に、残された身体が灰となった。




