先祖返り
「貴方が巨人の末裔と言うのは事実です。ですが本来ならそれは疾うに失われたはずの力、人と血が混ざる中で薄まり消えた力。ですが貴方は何故か巨人の血を色濃く受け継いだ……このまま成長すれば、かつての巨人の力を凌ぐほどの血を」
「リュツィは……知ってたの?」
「えぇ勿論。私を召喚した時から分かっていましたとも」
「どうして黙ってたの?」
「申し訳ありません、知ってらっしゃると思っていました」
嘘ではないのだろう、悪魔は嘘をつけない生き物だ。
グランは地面を握り締める。複雑な感情が彼の中に渦巻いていた。
自分が伝説の種族の末裔だなんてはいそうですかと信じられる訳が無い。けれどこの力が巨人の血を引いているからだと言われれば納得してしまう。
何故自分が、リュツィは先祖返りと言った。なら先祖返りでさえ無ければ普通でいられたのか?
魔法が使えて、両親から愛され、友達も出来て、そんな、普通の
握りしめた地面にヒビが入る。たったこれだけで容易くなにもかも壊すことの出来る怪力。こんな忌々しい力も、無かったはずなのに
「……マスター、落ち着いてくださいな」
「分かってる! ……分かってる」
怒鳴ってしまってからハッとする。リュツィはなにも悪くない、これはただの八つ当たりだ。
「大丈夫ですマスター。大丈夫、私がついています。だからどうか落ち着いて」
優しくて甘い声が荒れた心に深く染みる。彼の声は聞く人を夢中にされる魅力がある。悪魔なのだから当然だ、けれどその毒々しい甘さはグランにとっては薬のように感じられた。
「私が貴方に力の使い方を教えましょう。暴走すれば止めましょう。だからグラン、貴方は安心して成長なさい。それが貴方が受け継いだ力の謎を解く鍵でもあるのですから」
「力の、謎……?」
「えぇ、どうして貴方が巨人の力を唯一取り戻したのか、先祖返りとは言いましたがきっとそれだけではないでしょう。……その謎が解ければ、もしかしたら貴方の中の巨人を封じることが出来るかもしれない」
いつの間にか人型に戻っていたリュツィが優しくグランの頭を撫でる。
「私が貴方の従魔となった理由、まだお話していませんでしたね」
美しい悪魔はニコリと笑い、口を開く。
「私はかつて、神の元で巨人と戦っていました。遠い遠い昔のことです」
懐かしむように遠くを見ながら、悪魔は言葉を紡ぐ。
「貴方はその時戦った巨人と同じ魂を持っています。彼は美しく、気高く、そして強かった。私と彼は敵同士でしたが、同時に誰よりもお互いを理解する友でもあった」
グランを通して、誰かを見る。
「グラン、貴方は彼の末裔です。彼にそっくりな貴方を、私は放っては置けなかった。だから私は貴方に尽くすのです」
1度目を閉じ、今度はしっかりとグランを見ながら悪魔は笑う。
「マスター、私がきっとなんとかしましょう。だから貴方は今は集中して、出来ることをやりなさい」
「……うん、ありがとうリュツィ」
少し落ち着いた気がする。
途方もない話に現実感が湧かないというのもあるが、それよりもリュツィが心からそう言ってくれているのが分かったから。
「ではまずはこれからどうするか考えましょう」
リュツィが湖の方に視線をやる。それにつられてそちらを見ると、沢山の光が飛んでいるのが見えた。
「ここでクロック蝶を確保するか、それともシャリアル嬢達と合流して先程の出来事を教えるか」
「……リュツィ、クロック蝶の確保にはどれくらいかかる?」
「10秒もあれば」
「分かった」
本当は自分で捕まえたい。だがここでグズグズする訳には行かないし、それに折角のチャンスを棒に振ることも出来ない。
シャル、そしてジルと無事に試験を突破するために
「ここでクロック蝶を捕まえて、直ぐにシャル達と合流する!」
「畏まりましたマスター」