決着
「なんっなんですの貴方!!?」
彼女の攻撃が始まりどれくらいの時間が経っただろうか。何とか反撃しようとしてもその動きを捕らえることは出来ず、しかし無闇矢鱈に腕や足を振り回しても無駄な体力を使うだけ。
魔力を纏ったルーチェルの腕が鳩尾に埋まる。せめて顔だけは守らないとと腕を前に構える間にも蹴りがこめかみに突き刺さる。
そうこうしている間にも彼女の攻撃は続き……
「なんでピンピンしてるんですの!?」
「効かないからかなぁ……」
困った
確かに彼女の動きは捕えられないが、だからといって彼女の攻撃が効くわけではない。
有効打を出せないルーチェルと、攻撃を当てられない自分。完全に膠着状態だ。
しかしここで時間を食う訳にはいかない。
「よい……しょっと!!」
「!?」
速くて攻撃が当てられないのは仕方がない。だがそれなら攻撃が当たる範囲を大きくすればいい。
手の届く範囲で1番の大木をへし折り構え、そして
「痛かったらごめん!!」
「きゃあっ!!」
グランは周りの木を巻き込みながら、大木を思い切り横へと薙ぎ払った。
ルーチェルが悲鳴を上げる。しかし
「まだまだですわ……!!」
ルーチェルが強化した身体で大木を受け止める。
踏ん張った足が地面にめり込む。足で2つの線を描きながらも大木を止めたのを見て、肩に乗ったリュツィが感心したように声を上げた。自分も驚いた、まさか力で拮抗されるとは思わなかった。
「ふふん、驚きましたか? 怪力は貴方だけの専売特許ではなくてよ?」
「うん驚いたよ。力で止められたのは初めてだ」
「でしょう? 私これでも身体強化には精通していますのよ」
「見たいだね。本当に凄いと思うよ」
これでルーチェルを打ってその内に進むつもりだったが仕方がない。もう1つの手段だ。
「はぇ?」
ルーチェルがしがみついているのを確認して、グランは一気に大木を持ち上げた。
そしてそのまま片手で後ろへと引く。
「……ま、待ちなさいな! 貴方もしかして…!!」
「ごめん、着地は頑張って!」
槍投げの体勢をとったグランは、ルーチェルが制止する声を振り切り、思いっきり大木を投げ飛ばした。
「いや〜〜〜〜〜!!」
大木ごと投げ飛ばされたルーチェルの声が徐々に遠くなっていく。よし
「あまりお上品な戦い方とは言えませんね」
「仕方なかったんだよ」
ルーチェルも自分なんかに構うより、他の人の妨害をした方が本来の役目を全う出来るだろう。これはお互いのためだったのだ、だから仕方がない。
「私がやっても宜しかったのに」
「お前はやり過ぎるから駄目」
「ちゃんと弁えますよ」
「お前基準だろそれ」
ルーチェルが見えなくなるまで空を見つめる。それにしても変わった子だった。いや、真っ直ぐだと言うべきなのか。
また機会があれば話をして見たいなと思いながら、グランは再び目的地へと走り出した。