第一試験、開始
そして時は過ぎ、実力テスト当日
「がんばろーね! えいえいおー!」
「お、おー…」
「…おー」
「にゃー!」
シャルの大きな声に注目が集まる。正直やりたくはなかったが、やらないとシャルは僕が乗るまでやり続けるだろう。それの方が嫌だ。
そして早朝ということもあり半分寝ているジル。……このテスト、大丈夫だろうか。
「それではお題を配る、代表者は前へ!」
「ジル、呼ばれてるぞ」
「……ぐー」
「仕方ないからボクが代わりに行ってくるよ!」
「ごめん、お願い」
「まっかせてー!!」
シャルがぴょんぴょんと跳ねるように箱を持った教師の方へと向かっていく。あの箱の中にお題が書かれた紙があり、それを1人ずつ引いていくのだ。
「見てよあれ」
「落ちこぼれのヴァイオテールじゃん、参加してたんだ」
「あの銀髪誰だ?見たことないな」
「どうせ大した実力じゃないでしょ」
「それにあの図体だけの無能もいるしね」
「魔法使えないくせにねぇ〜」
クスクスと嘲笑う声に聞かないふりをする。
今まで散々言われている事だ。……それに、事実だし。
「…グラン」
「え?」
ふと、ジルの目線がこちらを向いていることに気がつく。彼は真剣な目でこちらを見つめ、口を開いた。
「気にすることはない」
「……うん、ありがとう」
その言葉に少し救われる。それと共に足を引っ張ったらどうしようという不安も湧いてくるが、それをグッと押し殺す。
「キャーッ!」
「いってぇぇぇ!!」
突然背後から悲鳴が響く。
何事かと振り返ると、さっきまで僕たちの悪口を言っていた生徒が、皆腕や足を押さえて蹲っているのが見えた。
「ボクたちの悪口言うなんていい度胸じゃーん!」
そしてその前には紫のショートカットの少女。
上に向けた掌に禍々しい黒と紫の渦を作り出し、そこから伸びた複数のヘビが生徒たちを襲っているようだった。
「シャ、シャル!!」
「そこ! テスト前の争いは減点対象ですよ!」
お題の箱を持っていた先生に注意され、シャルは渋々と渦を引っ込める。
「全く……貴方たちも下らない陰口を叩いている暇があったら、テストの対策でも話し合っておきなさい」
先生がヘビに噛まれた生徒たちを回復していく。
「今回は大目に見ますが次はありませんよ」
「はーい……」
ブスっとした表情で返事をするシャルに溜息をつき、先生は再びお題配りへと戻って行った。
「悪口言ってたアイツらが悪いんじゃんねー?」
「お気持ちは分かりますがグッと堪えるのも大切ですよ。ところでお題はなんだったのです?」
「あ! そうそうそれね!」
シャルが2人と1匹の前に勢いよく紙を突き出す。
「「「クロック蝶の鱗粉?」」」
「そう! クロック蝶ってなーに?」
「クロック蝶とは夜にしか現れない魔法生物の一種ですね。魔法能力は低いですが、彼らは時間を飛ぶという少々特殊な力を扱います」
「うそ!? すっごいね!」
「クロック蝶は陽の光を浴びると溶けてしまうので、朝になる前に次の日の夜へと飛びます。捕まえること自体は大して難しくありませんが、なにせ希少種。生息地を把握すること自体が難しいでしょう」
「……夜なら、任せて」
ジルがグラグラと揺れながら宣言するが……まぁ、夜なら大丈夫なのだろう。きっと。
「昼の間に生息地のアタリをつけておきましょうか」
「このクロック蝶ってどんな環境を好んでるの?」
「月明かりがよく届く場所、そして水辺ですね」
「地図にはいくつか該当場所があったね! それぞれ別れて張り込みかなー?」
「……妨害がおーけーなら、1人になるのは危ない…」
「なら二手に別れよう。別れ方は僕とリュツィ、ジルとシャルでいい?」
「寂しいけど仕方ないよね」
「……問題なし」
知識豊富なリュツィがいるお陰で話し合いはテキパキと進んでいく。そうこうしている内に、くじを引いていないのは後三名となった。
「そろそろ準備をしておいた方がいいかと」
「うん、分かってる」
被っていたフードを脱ぎ、上着の袖を捲る。
この第一試験は妨害アリのなんでもあり、定められた期間内にお題のものを取って来れなかったら失格だ。
「おいおい、落ちこぼれがなんかするつもりか〜?」
鶏みたいな髪型の生徒が話しかけてくるが無視する。どうせ録な内容じゃない。
「へぇ、無視とはいい度胸だなぁ!?」
鶏生徒の周りに、恐らくチームメンバーであろう生徒たちが集まってくる。
……丁度いい。
「スタートの合図が鳴ったら、まずお前らから潰してやるよぉ!!」
お題の箱を見る。
丁度最後の1人が紙を取り、そしてそれをメンバーに見せる。
先生が彼らに了承をとり、そして
「それでは…第一試験、開始!!!」
「食らえや"暴れる風"!!」
「……」
鋭い風が飛んでくる。
それはグランの体を切り裂き……
「は?」
しかしグランには傷一つない。
狼狽える鶏生徒を横目に、グランは一つ深呼吸。そしてもう一度深く息を吸い…
「ふっ!!」
拳を地面へと叩きつけた。