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テスト対策、その1

「グラーン!! むっかえにきたよー!!」

「あまり大声で呼ばないで…!!」


 約束通り昼休憩に迎えに来たシャルの口を慌てて塞ぐ。周りにジロジロ見られているのが分かるが振り返る勇気はない。シャルを小脇に抱えてグランは急いで教室を出た。


「凄い凄い! 相変わらず力持ちだねぇ!」

「目立つことしないでよ!」

「この状況の方が目立っているかと」


 リュツィの囁きにハッとする。小柄な女子を抱えている大柄な男子、傍から見れば確かに目立つ。


「えぇーもう下ろしちゃうの? このまま食堂まで行こうよー」

「やだよ! 僕は目立ちたくないんだ」

「恥ずかしがり屋さんだねぇ」


 シャルがポンポンと頭を撫でようとしてくる。全然届いていないが。しゃがんでよ! という声を無視してグランとリュツィは食堂へと向かった。




 ◇

「お待たせジル! 席取りありがとー!」

「……別に、大丈夫」


 昼時で騒がしい食堂内、込み合った席の端の方に1人の少年が座っていた。

 輝く銀の長髪に白い肌、鈍い灰色の瞳は眠たそうにトロンとしている。

 彼の名前はジルヴァラ、シャルと同じくグランの同寮であり同級生である。普段は部屋に引きこもって出てこないのだが、調子のいい日はこうして学園内にいることもある。


「…その猫、初めて見た。使い魔?」

「そう、リュツィって言うんだ」

「にゃーお」

「ふぅん…」


 ジルがじーっとリュツィを眺める。だがリュツィは特に気にしていないみたいだ、呑気に毛繕いをしている。


「それでシャルはなんで僕たちを呼び出したの?」

「そろそろ実力テストでしょ?ボクたちも話し合っておかないといけないかなって」

「…そう言えば、そうだったね」


 席に着くと目の前にメニューが現れる。適当に1つを選ぶとメニューが消え、暫くして料理の乗った皿が翼を生やして飛んでくる。


「いっただっきまーす!」

「いただきます」

「……いただきます」


 目の前に着地すると羽は消え、ただの皿となる。同じく飛んできたカトラリーを手に持ち、シャルはオムライスを頬張りながら話を続けた。


「寮内の何人かでグループを作らなきゃ行けないけど、それはボク達には関係ないからまぁいいじゃん?」

「…問題は、俺たちに情報が無いこと」

「マスター、実力テストとは?」


 リュツィが小声で聞いてきたので、2人に聞こえないようにそっと概要を教える。

 実力テスト、正式名称は『学内対抗・学年別実力テスト』。その名の通り寮ごとに得点を争い、合計ポイントが多い寮が優勝するというイベントだ。

 優勝した寮には様々なご褒美があるが、その中でも1番各得点の多かったグループは『ブロンズ』と呼ばれる称号が与えられる。

 学園は度々イベントがあり、そこで優勝な成績を収めると初めは『ブロンズ』、次に『シルバー』、そして『ゴールド』とランクが上がっていく。


「ランクが上がると色々特権が貰えるから皆必死なんだよ。勿論、称号が貰える分実力テストの内容は厳しいんだけどね」

「んー? どうしたのグラン? 話聞いてる?」

「あ、ごめんごめんなんだっけ?」

「もー! しょうがないなぁ、次はちゃんと聞いててね!」


 シャルに話しかけられたので説明を中断する。


「他の寮の子たちは先輩や寮監の先生から話聞けるからいいけど、ボクたちの寮の先輩は皆校外に行ってるし寮監の先生もいないじゃん?」

「…いつ聞いても、この寮酷いな」

「まぁまぁいいじゃんジル、その分自由だしさ! 兎も角、このテストは毎年情報不足のグループから脱落してく……らしい! だから情報収集をしなきゃ行けないわけだけど」

「どうやって? ……僕ら、正直他の寮生に嫌われてるじゃん…」


 言ってて悲しくなってきた。だけど事実だ。

 変わった力を持ち、そして協調性があるとは言えない僕らは良くて腫れ物扱い、悪くて差別対象だ。

 僕は魔法が使えない上に暗い落ちこぼれ。

 シャルは実力はあるけれど、バカにしてくる奴を何人も病院送りにしている暴走機関車。

 ジルに至っては引きこもりでマトモに魔法を使ったところを見たことがない。


 今も僕たちの周りには誰も座らない。関わりたくないと思われているのだ。

 このテスト、別に1番になりたい訳では無い。そもそも人数の少ない寮は配慮はされるとはいえ不利なのだ。でも失格にはなりたくない、魔法の使えない自分はこういう所でしっかりと点数を取っておかないといけないのだ。

 どうしようかと3人で頭を悩ませていると


「ならば私にお任せ下さい」


 肩に乗っていたリュツィが机へと降りそう言った。


「ちょ、ちょっとリュツィなんで喋って…!」

「あ! やっぱリュツィ情報収集(そういうの)出来るよね? やったぁ!」

「…悪魔なら、出来て当然だ」

「へ……?」


 悪魔は忌避されるもの。だからバレないように猫に化けてもらっていたのだが、シャルとジルはいきなり話し始めたリュツィに驚くことも無くすんなりと受け入れている。


「どうしたのジル?」

「え、2人とも、リュツィの正体……」

「……見ればわかる」

「魔力の質が独特だもんねー」


 なんだと

 つまり、シャルとジルは初めから分かっていて、リュツィもそれを分かっていて、分かってなかったのは自分だけで


「分かっていなかったんですねマスター」

「わざわざ言葉にしないで……」


 リュツィが慰めるように前足を腕に乗せる。

 シャルとジルも黙って料理のおすそ分けをしてくれたが、その憐れみの視線にグランは耐えきれず両手で顔を覆った。

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