反魂の魔術
「と、この様なことを精神世界でやっております」
「やりすぎだよ!!!」
猫に変化したリュツィが教室に入ると、暫くして次々といじめっ子たちが叫びながら飛び出してきた。そしてそのまま身構える自分の目の前で昏倒していったのだ。
どうしたものかとオロオロしているとリュツィが全員を教室に引きずり込み、そして彼ら全員精神世界に連れていかれていること、リュツィの分身が彼らと共にいること、リュツィが彼らに行ったことを事細かく説明された。
「しかし彼らはこうでもしないと反省しませんよ?」
「反省するだけの精神力残ってる?」
不思議そうな顔をするリュツィに、そもそも悪魔に人間の常識を求める方が間違っていたのだと気づく。
だが苦しそうな顔で呻いたり泣いたりしている彼らを見ているとまぁいいかという気分にもなってくる。だって本当に死ぬ訳じゃないんだし。
「では始めましょうか」
「う、うん…」
リュツィがルインの入った棺をグランから受け取る。
方法や対価は事前に聞いていたが、いざ始まるとなれば話は別だ。ルインは本当に戻ってくるのかと不安が込み上げてくる。
リュツィは机をどけた床に何かしらの魔法陣を描き、その真ん中に棺を置いた。
グランも魔法陣を覗き込んだが、なにがなんだかさっぱりである。古代文字が使われているようだが古すぎて読めない。
「"対価を捧げ、ここに反魂の祝詞を宣誓する"」
棺の前に立つリュツィが呪文を唱え始める。
「"要求するのはルインの魂、捧げるのは四人の魔の力"」
ライドネたちの体から仄かに光る何かが溢れ出る。
ルインの命の対価、それは彼らの魔力だった。
それは今の魔力だけではなく、将来手に入れるはずだった魔力も含め全てを捧げることでルインの命を取り戻す。
初めに聞いた時は躊躇った。魔法はこの世を生きていく上での必需品。魔法を使えない人間は差別の対象だ、それは身をもって知っている。
その上、元は魔法学園に通うほどの魔力の持ち主が突然それを全て失ったら。周りの反応も、そして本人たちの絶望も想像に固くない。
その責任を、自分は負えるのか。
彼らの未来を奪って生きていくことが自分に出来るのか。
正直に言って無理だ。自分にそこまでの覚悟はない。……ただ、
それでもルインが戻ってきてくれるのならば、その責任を自分は一生抱えていこう。
4人の人生を、未来を奪おう。
リュツィは奪い返すだけだといった、けれど自分はそうは思えない。
彼らの全てを奪って、大切なものを取り返す。
そう決心したのだ。
「"輪廻を廻す精霊王・オルクスよ 死の世界を守る冥界神よ"」
黒い炎が魔法陣を包み込む。
「"摂理を乱す行いを許したまえ、罰を与えたまえ
そして認めたまえ
対価は既に払われた、ルインの魂は吾が手の中に
再びこの魂が冥界へと旅立つまで、神王でもその魂に触れる事は叶わず
ここに反魂の道理は成立された"」
炎が更に激しく燃え上がり、鳥の──ルインの形を取る。
「"この世へと舞い戻りなさい、友が呼んでいる
ならば道に迷うことは無し"」
棺の中に炎が収まっていく。
「"ここに反魂の祝詞は読み上げられた
さぁその瞼を開きなさい──反魂"」
炎が消える。そして
「チチチ…」
「っ!!」
小さな声が棺から聞こえる。
慌てて駆け寄り蓋を開けた。そこには
「チッ! チチッ!」
「あぁルイン! ルイン!」
元気に囀る友の姿があった。