6 お別れをしよう
その後。
手作りのケーキを楽しんだ後は、チキンを食べてゲームをして遊んだ。
ユウがいてくれたおかげでとても盛り上がったと思う。
すっかり夜も遅い時間になったので、ユウを車で送ることになった。
歩いてすぐだからと彼女は断ろうとしたけど、母は女の子を一人ではいかせられないと無理やり車に乗せて送る。
「なんか悪いね……ごちそうになっちゃって」
「いいんだよ、ケーキの代金は全部そっちもちだし」
車から降りた彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「あの……ご両親はいらっしゃる?
一言お礼を言いたいのだけど……」
母が言うと、ユウは……。
「すみません、ちょっと今うち面倒なことになってて。
このまま帰ってもらえると助かります」
「でも……遅くなったし……」
「すみません、本当にすみません」
ユウは気まずそうに何度も頭を下げる。
母はそんな彼女の姿を見て、それ以上は何も聞かなかった。
「じゃぁ、ありがとね」
「うん……またね」
そう言って別れたわけだが。
なぜか胸騒ぎがする。
あんな楽しい時間のあとで……何故だろう。
「いいお友達だね、仲良くしなよ」
「うん……」
母の言葉に上の空で返事をした。
翌日。
母が買って来たケーキを昼に食べ、二回目のクリスマスのお祝い。
それから横になってダラダラと三人で過ごしていたら、インターホンが鳴る。
「はーい! ってユウじゃん、どうしたの?」
「いやぁ……そのぉ」
制服の上にスカジャンを来たユウが立っていた。
……なんだその格好は。
「お別れを言いに来てさ」
「……え?」
彼女の言葉が信じられなかった。
「えっと、どういうこと?」
「うちの両親、離婚するんだ」
「え? え?」
「でね、私はお母さんの実家に行くことになったの。
受験も向こうの学校受けることになってて。
昨日のはさ……最後のお別れのつもりでもあったんだ」
「そんな……」
突然のことに理解が追い付かない。
このままお別れ?
本当に?
とても信じられなかった。
信じたくなかった。
「でさ、これ……さっき写真屋さんに行って印刷してきたんだ。
昨日撮った三人の写真」
そう言ってカードに収められた写真を差し出すユウ。
「あの……でも……」
「いいの、いいの。そんな高いもんじゃないし。
それに……私ももらったから、一枚」
彼女はもう一枚、同じ写真を取り出す。
「それ……ユウが写ってない」
「いいんだよ、写ってなくても。
思い出って自分の姿を見ることだけが重要じゃないじゃん?
この写真を撮ったのは私なんだって。
私がこの思い出を作ったんだって。
そう思うとなんか誇らしくてさ」
照れくさそうに鼻の下を人差し指でこするユウ。
彼女は満足そうに微笑んでいる。
「ねぇ……本当にこのままお別れなの?」
「うん、でもずっと会えないわけじゃないよ。
定期的に連絡するし、SNSで繋がってられるでしょ」
「でも……」
ネットで繋がるのと、実際に関わりを持つのとは違う。
ユウが遠くへ行ってしまったら、お喋りするどころか触れ合うこともできなくなるのだ。
「私……何もお返し出来てないのに……」
「いいんだって、気にしないで。
この思い出が私にとってのプレゼントだよ」
そう言って写真をひらひらさせるユウ。
「なんか……色々とゴメン。
最後まで世話かけっぱなしで」
「だから気にしないでって言ってるじゃん。
私たちはずっと友達だよ」
「うん……ずっと」
私とユウは抱きしめあい、お互いの存在を確認する。
服を通して伝わる互いの鼓動が、気持ちの強さを表していた。
それから家族そろってユウを見送った。
と言っても、彼女はすぐにこの街を発つわけではない。
数日後に出発する予定だという。
「お姉ちゃん……」
心配そうにチエが私を見る。
「大丈夫、心配ないよ」
彼女の頭をそっと撫でた。
その数日後。
私は彼女の所へ最後の挨拶に向かった。
意外と持って行くものは少ないようで、軽自動車が一台止まっているだけ。
服や貴重品だけを持って行って、あとは全て置いて行くという。
「娘がお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ……」
頭を下げ合う母とユウのお母さん。
彼女のお父さんは姿を見せない。
「じゃぁ、元気でね」
「そっちこそねー!」
ユウはそう言ってにししと歯を見せて笑う。
この子は最後までこんな感じだった。
「じゃぁ、さよなら」
ユウは最後のお別れを簡単に済ませて、車へ乗り込もうとする。
「まって……」
私はユウを抱きしめて耳元でささやいた。
「私、今年のクリスマスのこと忘れないから。
ずっとずっと忘れないから。
この思い出は私にとって最高のプレゼントだよ」
「うん……私も忘れない。
ヒロがくれた想い出は最高の贈り物だった。
ずっとずっと覚えているからね」
「うん……うん!」
彼女を抱きしめたまま涙を流す。
ユウも泣いているのか、鼻をすする音が聞こえた。
「それじゃぁ……さようなら」
「向こうへ行っても元気でね」
「そっちこそ!」
目をごしごしと腕で拭って乗り込むユウ。
走り出した車はすぐに遠くへ行ってしまった。
「お母さん……私、高校行きたい」
「えっ!?」
私が言うと母は大げさにリアクションする。
「ダメかな?」
「ダメじゃないよ!
むしろ全然ウェルカム!
受験頑張らないとだね!」
そう言う母の瞳には涙が浮かんでいた。
私の部屋には写真が飾ってある。
私と、母と、チエの三人が並ぶ写真。
おそろいのシュシュを身に着けてほほ笑む私たちの姿。
その写真を見て思い出すのは撮影してくれた親友の笑顔。
ここに写らない親友こそが、この思い出をプレゼントしてくれたのだ。
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この作品はXmas贈り物'21の参加作品です。
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