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5 プレゼントをあげよう

「お姉ちゃん……クリスマスおめでとう!」


 チエはそう言って袋を差し出す。

 ラッピングがされたベージュ色の袋。

 ピンクのリボンが巻かれている。


「えっと……これって……」

「開けてみなよ」

「うん……」


 ヒロに言われ、袋を開ける。

 その中にはピンクのシュシュが入っていた。


「え? これって……うそ」


 私はそのシュシュを手に取って眺める。

 これは……100円ショップなんかで売られてる奴じゃない。


「駅前のお店で買ったんだって。

 お店の人にも相談したらしいよ?」

「そうなの?」

「……うん」


 恥ずかしそうに頷くチエ。


「でも……お金はどうしたの?」

「お小遣いを少しずつ貯めたの。

 毎月、ちょっとずつ」

「私のために?」

「うん」


 少ないお小遣いをやりくりしてチエは少しずつお金をため、私にプレゼントを買ってくれたのだ。

 私は何も買ってあげたことがないのに……。


「ねぇ……チエ、どうして?

 どうして私のために?」

「お姉ちゃん……ずっと頑張ってた。

 だから何かお礼がしたいなって思ってて。

 ……気に入らなかった?」


 私は勢いよく首を横に振る。


「ううん、ずっと欲しかった」

「良かったぁ!」


 ぱぁっと笑うチエ。

 その笑顔を見て、思わず涙ぐんでしまう。


「ねぇ、チエちゃん。

 お手紙書いたんだよね?」

「あっ! そうだった!」


 慌ててチエは食器棚へ戻る。

 そこから可愛らしい小さな便せんを取り出して私の所へ持ってきた。


「はい!」

「読んでもいい?」

「うん!」


 中から手紙を取り出して内容を確認する。




『お姉ちゃんへ。


 いつも頑張ってるね。


 勉強もちゃんとしてて偉いと思う。


 でも一人で頑張らないでほしいな。


 私も一緒に手伝いたいな。


 これからは二人で一緒に頑張ろうね!


 一人で無理しないでね!


 大好きです』




 手紙を読んでいると自然と涙があふれた。


「チエええええええええええ!」


 私は思わずチエを抱きしめた。


「ごめんね……何もしてあげられなくて……。

 それなのに……それなのに……!」

「ううん、お姉ちゃんは私に沢山プレゼントをくれたよ。

 だからこれから少しずつ返していくね。

 今度は私がお姉ちゃんにプレゼントする番!」

「ううぅ……うわああああああ!」


 チエの言葉に、思わず声を上げて泣いてしまった。


 胸の奥で色んなものが混じりすぎて、それが口から勢いよく吐き出される感じ。

 感情と言う感情が体の中から抜けて行く。


 残って抜け殻になった私は、気づいたらチエとヒロの二人から抱きしめられていた。


「落ち着いた?

 そのシュシュつけてみたら?」

「……うん」


 私は髪を結わえていたゴムを外して、代わりにシュシュをつける。

 鏡の前で振り返りながら身に着けた自分の姿を眺めた。


 髪を束ねるピンクのシュシュが……とても美しく目に映る。


「ありがとう、チエ。

 ずっと欲しかったんだよね」

「えへへ! 喜んでくれてよかったぁ!」


 嬉しそうに微笑むチエがたまらなく愛おしい。


「ただいまー! ケーキとチキンを買って来たぞ……え?」


 そこへ母が帰宅。

 両手には某ファーストフードの袋とケーキが入っていると思われる袋。

 彼女は机の上のケーキと、私の髪を束ねるシュシュを交互に見やる。


「ええっと……これはどういう……」

「すみません、おばさん。実は……」

「え? ユウちゃん?」


 ユウは事情を説明する。


「そっかぁ……ケーキ作ってくれたんだ。

 ダブっちゃったねぇ……。

 あっ、こっちは明日食べればいいか。

 うんうん、そうだよね。

 そうすればいいんだ。

 ああっ……でも……」


 なぜか母は気まずそうに私を見ている。

 いや、私の身につけているシュシュを見ている。


「えっと……お母さん、どうかしたの?」

「いや、その……ねぇ。

 アンタずっと欲しがってたでしょ、ピンクのシュシュ」

「え? なんで知ってるの?」

「駅前のお店にアンタが出入りしてるって聞いたの。

 あそこの店員さん、私の友達だから」


 まさか店員さんに顔を覚えられていたとは……。

 しかも母と付き合いのある人だとは思わなかった。


 ううん……世間って広いようで狭い。


「だからね、思い切って買ったのよ。

 それと……同じやつ」


 母は気まずそうにハンドバックから包み紙を取り出した。

 チエがくれたプレゼントと同じ柄、同じリボン。


 これは……。


「あはは、親子で考えることが一緒だったんだねぇ」


 ユウがそう言って笑う。


「でもまぁ、買っちゃったしね!

 そうだ、これはチエへのプレゼントにしよう。

 そしてもう一つは私がつける」

「「「……え?」」」


 なんと、母はチエにも同じシュシュを買っていたのだ。

 同じものが三つ揃ってしまった。


「うわぁ、親子そろってお揃いだね!

 早速みんな一緒に身に着けてみましょうよ!」


 この状況を面白がっているのか、ユウが楽しそうに提案する。


 まぁ、別に嫌なわけじゃないので、三人そろって同じ髪型にしておそろいのシュシュを身に着ける。


 鏡の前に立つと……なんか変な感じ。

 チエと、私と、母。

 成長の過程を見ているような……。


「はいはーい! 写真撮りましょう、写真!」


 そう言ってスマホを構えるユウ。

 あれこれと注文を付けつつシャッターをパシャリ。


 とった写真を見てみると、腫れぼったい顔になっている自分の姿が写っていて、ちょっと恥ずかしかった。


 でも……。


「これは一生の思い出になるね!」


 ユウが笑ってそう言うと、恥ずかしさも吹き飛んでしまう気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  読んでいて、鼻のおくがツンツンでしたわ~。  そして、ほうれん草のお浸しも食ったし……。
[良い点] チエエエ!! いい話やぁ(´;ω;`)
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