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4 妹を迎えに行こう

 私とユウはチエの通う小学校へ向かった。

 到着したころにはすっかり暗くなっていた。


「すみません……妹が……」

「ああ、職員室へどうぞ」


 校門に立っている先生に説明すると、すぐに中へ通してくれた。

 職員室だけに明かりがともっている。

 無論だが、校庭には子供の姿はない。


「失礼します、チエの姉です」

「ああ、こっちこっち。

 チエちゃん、お迎えだよ」


 女の先生が手招きをする。

 その隣でチエがしょんぼりした顔で椅子に座っていた。


「チエ、手紙読んだよ。

 何かあったの?

 もしかして……仲間外れにされたとか?」

「…………」


 チエは黙って首を横に振った。


「じゃぁ、嘘だったの?

 どうして……」

「――ヒロ」


 ユウが私の肩をつかむ。


「あんまり責めないであげて」

「……え?」

「どうして嘘ついたのか、言わなくても分かるよね?」

「ええっと……」


 ヒロはいつになく真剣な顔で私を見ている。


「とりあえず、家に帰って話そうか」

「そうだね……。

 あの、チエが迷惑をかけてすみませんでした!」


 私はぺこりと頭を下げて謝罪する。

 チエの担任は「謝らなくて大丈夫」と言ってくれた。


 その後に「ちゃんとよく話を聞いてあげてね」とも。


 私はいつだってチエの話を聞いている。

 そう……どんな時だって。




 チエが小学校に入学した最初の遠足。

 前日に一緒にお菓子を買いにスーパーへ行った。


 楽しそうにお菓子を選ぶチエ。

 カゴ一杯に入れようとしたので、300円までと言い聞かせるのが大変だった。

 それでも泣きそうな顔でこちらを見るチエを前に、私は強い言葉を使えなくなってしまう。


 子供を思う親心ってこういうものなのかな。

 当時はまだ小学生だった私は、生意気にもそんな風に思った。


 私にも遠足のおかしを買った記憶がある。

 あの頃はまだお父さんが家にいて……。

 お母さんとお父さんと、まだ小さかったチエと一緒にお菓子を買いに行ったんだ。

 楽しかったなぁ……。


 ねぇ、お父さん。

 今どこにいるの?

 どうして帰って来てくれないの?


 ねぇ……お父さん。




 家に着いた。

 テーブルの上にはケーキの入った箱。


 そんなものに目をくばる余裕もないのか、チエはしょんぼりと部屋の隅で体育座りしている。

 彼女を問い詰めるのは気がひけた。


「ねぇ……ユウ。

 もしかして何か知ってる?」


 私は彼女に疑問を投げかける。


 どうして急にケーキを作ろうなんて言い出したのか。

 なぜ彼女はチエの行動を予期したかのような言動をとったのか。

 ことの真相を確かめなければなるまい。


「実は……ね」


 ユウはポツリ、ポツリと話し始めた。


 少し前に彼女は公園で一人で遊ぶチエを見かけて声をかけた。寂しそうにしていたので、仲間外れにされたのかと思ったが違うらしい。

 どうも一人で悩んでいたようで、相談に乗ると言って話を聞いた。


 チエはクリスマスをどう過ごすかで悩んでいたらしい。


 彼女がいると私が面倒を見ないといけない。だからクリスマスの日に家にいたら私がパーティーへ行けなくなる。それは可哀そうだと。


 私はチエに同情されていたのだ。

 ……情けない。


「そうだったの……だからケーキを作ろうって?」

「まぁ、口実はなんでも良かったんだよね。

 チエちゃんとヒロが一緒に過ごせればさ」

「そっか……」


 ケーキを作るかどうかは問題ではなかった。

 問題は私とチエが一緒に過ごせるかどうか。


 私はチエの隣に腰かけて話しかける。


「あのね、チエ。

 私は別にクリスマス会なんて興味ないんだよ」

「……嘘だよ」

「どうして嘘だって思うの?」

「だって……クリスマスの日、とっても寂しそうにしてたもん」


 チエは目に一杯涙を浮かべて言う。


「お姉ちゃん……いつも寂しそうだった。

 私のために頑張ってご飯を作ってくれて、

 家のこともほとんど一人でやってて……。

 クリスマスくらい楽しいんで欲しいなって思って」

「…………」


 愕然とした。

 まさか妹に気を使われるなんて……そんな。


「これで分かったでしょ、ヒロ。

 アンタはずっとチエちゃんのお世話をしてきたけど、

 それが負担になってたんだよ」

「え? じゃぁ、私のせいってこと?」

「違う、そうじゃない。

 もう少しチエちゃんを信じてあげたら、って話。

 お手伝いも半分は任せちゃえばいいんだよ。

 その方がお互いに楽になるんじゃないかな?

 身体も、心も」

「…………」


 思えば私は一人で家事をやってきた。

 チエには任せられないと思って、こちらから何かを頼んだ記憶はない。


「そっか……そうかもしれないね」

「分かってくれて良かったよ。

 はぁ……ずっと秘密にしてたんだよねぇ。

 ばれないようにケーキ作りに誘って、

 チエちゃんと一緒にクリスマスを過ごそうなんて思ったけどさ。

 ちゃんと二人に話さなかったから面倒なことになっちゃった。

 報告、連絡、相談って大事だね」

「うん……そうだね」


 苦笑いするユウ。

 私もつられて力なく笑う。


「それはそうと、チエちゃん。

 お姉ちゃんに渡したいものがあるんだよね?」

「……うん」


 ユウが言うと、チエは立ち上がって食器棚へかけて行った。

 めったに開かない大皿がしまってある場所に手を入れて何かを取り出す。


 それは……。

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