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3 ケーキを作ろう

「待ってよ!」


 ユウは私の手をつかんで引き留める。


「……放して」

「放さない」

「痛いんだけど」

「我慢して」


 無茶苦茶言うな……コイツ。


「あのさ……勘違いしないで欲しいんだけどさ。

 可哀そうだからケーキ作ろって誘ったわけじゃないんだよ。

 ただ……ただ一緒にお祝いしたかっただけ。

 それが迷惑なら諦めるけど……」


 彼女の顔は真剣だった。


「はぁ……分かったよ。

 むきになってなんかゴメン」

「いいんだよ、私の方こそごめんね」


 なぜか謝罪し合う私たち。


 別に同情されたのが嫌なんじゃない。

 ユウのやさしさに耐え切れなかったのだ。


 ケーキでお祝いしてもらえる気持ちは嬉しい。

 でも、それが私を喜ばせたいとか、そう言う理由だったら、彼女の気持ちを受け止めきれなかったと思う。


 彼女の様子を見る限り、違うと思った。

 ユウはただ単に……。


「じゃぁ、一緒に作ろ!」


 ニコニコ笑うユウ。


 彼女は一緒にケーキを作って楽しみたいだけなのだ、多分。

 その相手にたまたま私が選ばれたと。


「……うん」


 私は彼女と一緒にケーキを作ることにした。




 それから紆余曲折あったものの、無事にケーキは完成した。

 見た目はちょっと不格好だけど、何処からどう見てもおいしそうなケーキ。

 真っ赤なイチゴが沢山乗っている。


「うわぁ……夢みたい!」


 それを見て私は目をキラキラと輝かせる。

 こんな大きなケーキを食べられるなんて夢みたいだ!


「んじゃ、さっそく持って行こうか」

「でも、どうやって?」

「ちゃんと箱も買っておいたのだ」

「すごい」


 ユウはケーキを入れる箱まで用意していた。

 何から何まで用意周到な。


「でも……なんでそこまでしてくれるの?」

「さぁ、ただの気まぐれだよね。

 て言ったらうそになるかな。

 ヒロの喜ぶ顔が見たかったって言うのがホント」

「そっか……」


 やっぱり喜ばせたかっただけか。

 でも……なんか違う気がするんだよね。


 ユウは本音を話していない。

 何を考えているのか分からなくて、ちょっと不安。


 作ったケーキを箱にしまって私の家へ向かう。

 歩いて10分くらいの所だから、このまま徒歩で向かう。


 外は日が落ちかけて暗くなり始めている。


「寒いねぇ、なんか雪降りそう」

「……そうだね」


 見上げると星一つ見えない暗い空。

 雲で覆われている。


 確かに雪が降りそうだけど……。


「あんまり積もらないで欲しいな」

「どして?」

「お母さんの仕事が大変になるから」

「あっ、そっか」


 母はいわゆる外回り。

 車であちこち走り回る仕事だ。

 雪が積もると大変だと、よく愚痴をこぼしている。


「そう言えばチエちゃんっていくつだっけ?」


 チエと言うのは妹の名前だ。


「まだ10歳だよ」

「そっかぁ……もう一人でなんでもできるの?」


 その、なんでもの範囲がよく分からない。

 家事のことを言っているんだろうけど……。


「一応一通りはできると思う。

 私が教えればだけど」

「そっか……」

「どうしてチエのことを?」

「いやぁ……なんとなくね」


 含みを持たせた言い方だった。

 なにか怪しい。


 それから数分後。

 私の家に到着。


 築30年以上経過している古いアパート。

 家賃もそれなり。

 でも、住み心地は悪くない。


「ただいまー! あれ?」


 玄関の扉を開いて違和感を覚える。

 チエの姿がないのだ。


「え? どうしたの?」

「チエがいない……」

「ねぇ……あれは?」

「……え?」


 リビングの真ん中にある机の上にメモ書きが一つ。

 チエの字で書かれたものだ。


『お友達とクリスマス会へ行ってきます。

 帰りは送ってもらうので心配しないでください。

 お姉ちゃんもクリスマス楽しんでね♡』


 カワイイ熊の絵が添えられている。

 なぜかその書置きを読んで不安になった。


「みせて」

「……あっ」


 ユウが私の手からメモをひったくる。


「これ、嘘だよ」

「え? なんでわかるの?」

「……カン」


 そう言いながら目を反らすユウ。


 彼女はこれが嘘だと確信しているが……どうして?

 


 ぴんぴろぴん♪



 スマホが鳴った。

 母からの電話だった。


「え? どうしたのお母さん?」

『学校から電話が来たの。

 まだチエが家に帰ってないんですって。

 職員室にいるって言うから、

 悪いけど迎えに行ってくれない?』

「うん……分かったよ」


 母からの電話でメモが嘘だと分かった。

 でも……。


「ねぇ、ユウ。どうしてわかったの?」

「それは後で話すよ。

 で……学校にいるんだよね、チエちゃん」

「……うん」


 私は小さく頷いた。


「今から迎えに行こう。

 早く行ってあげないとかわいそうだ」


 そう言うユウの顔はどこか悲しそうだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うぅ……。 物語全体に切なさがまとっている。 続きを待とう。
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