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2 材料を買いに行こう

 私は学校を出てユウと二人でスーパーへ。

 クリスマス会のメンバーに見つかりたくないらしいので、裏門から出ることに。


「ねぇ……誰も見てない?」


 ユウはあたりをきょろきょろと見渡して、人目がないか確認している。


「大丈夫だよ、誰も見てないって」

「なら良いんだけど……」

「そんなに見られたくないの?」

「……うん」


 暗い顔で頷くユウ。

 彼女は人気者で、男子とも仲が良い。

 人付き合いでの苦労も多いのだろう。


 学校を出た私たちは最寄りのスーパーへ。

 普段利用している店だ。


 クリスマス・イブと言うこともあり、店内はお客さんでごった返している。

 この時間はできるだけ避けたいんだよねぇ。


「じゃぁ、まずは……」

「待って!」


 私はユウの腕をつかんで引き留める。


「え? なにさ?」

「いい? スーパーには回る順番があるの。

 まずは青果売り場へ行っておつとめ品をチェック。

 それから……」

「ちょ、待って! おつとめ品って何?」


 やれやれ、これだから素人は。

 半額ハンターの極意を伝授してあげよう。


「あのね、青果売り場には、

 傷んだ野菜や果物が置いてある場所があるの。

 そこをチェックしてから……」

「あのさぁ……」


 ユウから突っ込みが入る。


「私たちはケーキの材料を買いに来たの。

 大根やキャベツを買いに来たわけじゃないんだよ?」

「うっ……そうだった」


 ユウに言われてハッとする。


「必要なのはイチゴ。

 あとは適当に粉買って、生クリーム」

「え? それだけ?」

「ベーキングパウダーはうちにあるから。

 お砂糖もうちの使えばいいよ」

「もしかして作りなれてる?」

「そういうわけじゃ……ないんだけどね」


 ユウは目を泳がせた。

 何か隠してるな?


 ここで追及しても仕方がないので、言われた通り必要な材料だけ買っていくことに。


 とりあえずイチゴだが……。


「この冷凍のカットされた奴が安いんだよね」

「まった」


 冷凍庫の取っ手に手をかけた私の腕をつかむユウ。


「え? なに?」

「あのさ……イチゴだよ?

 ケーキに乗せるイチゴなんだよ?

 冷凍で済ませて良いと思ってるの?」

「でも……」

「お金は気にしなくていいから。

 ちゃんとしたイチゴ買お?」

「……うん」


 ユウの気迫に押された私は、彼女に同意せざるを得なかった。

 と言うことでイチゴ売り場へ……。


 色とりどりのフルーツが並べられたそこには専用のコーナーが設けられており、キレイにパック詰めされた宝石みたいな赤いイチゴが並べられていた。

 その値段……ひとパック500円!


「ごっ……ごひゃ……」

「とりあえず二つねー」

「ふっ⁉ 二つ⁉」


 なんのためらいもなく籠にイチゴを入れるユウの姿に目を疑う。


「いや、二つくらい必要になるでしょう」

「でも……」

「でもじゃなくてさぁ」

「ううん……」


 いや500円だよ。

 しかもそれを二つ⁉


 私にとって未知の領域だった……。


「じゃぁ、次は生クリームね」

「え? それ⁉」


 ユウは寄りにもよって一番高い生クリームを選んだ。

 一つ330円もする……。


「こっちの100円じゃダメなの?」

「あのさぁ……安心しなって。

 生クリームくらい買えるから」

「でも……」

「大丈夫だって、安心しなよ」


 笑顔でウィンクするユウだが……私は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 なんだか悪いなぁ……。




 買い物を終えた私たちはユウの家へ。

 私の家にはオーブンがないので、キッチンを借りることになった。


 ユウの家には何度か遊びに行ったことがある。

 いつもきれいに掃除されていた印象。

 遊びに行くのは小学校以来だろうか?

 

「おっ……お邪魔しまーす」

「何をそんなにビクビクしてるのさ?」


 ユウのおうちの玄関で靴を脱いで、借りて来た猫みたいになる私。

 久しぶりに見るユウのおうちは新鮮だった。


 匂いがあの時のまま……かな?


 でもなんか変だ。

 妙に暗いというか……。


 それにキレイに片付きすぎている。

 いや、普段から掃除してるからなんだろうけど……。

 無駄なものが目につかない。


 たとえば雑誌とか新聞とか。

 あるいはお菓子とか、ティッシュとかの消耗品。

 リモコンすらテーブルの上に置いてない。


 なんか……生活感がないのだ。

 全体的に。


「さぁさぁ、こっちこっち」


 ユウはキッチンへ案内してくれた。

 他に誰もいないのか、家はとても静か。


「牛乳と卵、冷蔵庫から出してもらっていい?」

「え? 分かった」


 他人の家の冷蔵庫を開けるのは緊張するな……。


 開けてみると……ほとんど食材が入っていない。

 ガラガラの状態だ。


 必要なものがあるのなら、さっき一緒に買えばよかったのに。


 ユウはキッチンの戸棚からホットケーキミックスと砂糖を引っ張り出し、必要な道具をそろえて行く。

 計量カップにふるい、そしてハンドミキサー。


 なんか手慣れてるな……。


「ねぇ、ケーキ作るの初めてじゃないの?」

「うん、練習したからね」

「え? 練習?」

「え? あっ……」


 しまったという感じで表情を固まらせるユウ。


「……どういうこと?」

「いや……その……えっと」

「ハッキリ言ってよ。

 もしかして、私のために練習したとか?」

「そう言うわけじゃ……なくないです、はい」


 気まずそうに俯いて、両手の人差し指を合わせるユウ。


「なんで? どうして私の為?」

「いや……なんて言うかその……。

 一度でいいからホールのケーキ食べさせてあげたくて……」


 そっか、私は彼女にずっと同情されていたのだ。

 なんだかとても情けない気分になる。


「はぁ……なんかごめんね。

 こんなに貧乏な私で」

「だから……そうじゃなくて……」

「何がそうじゃないの?」

「それは……ごめん、同情もしてるかも。

 でも……」

「でもじゃないよ」


 私はたまらなく自分が情けなくなった。

 貧乏で、ケーキすらまともに買えなくて、楽しいクリスマスとは疎遠な人生を歩んできた自分が。


「もういいよ、そこまでしてくれなくても。

 どうせお金だって一円も出してないんだから、

 私はケーキなんていらない」


 そう言って帰ろうとすると……。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  なんとか、第2話まで涙腺崩壊はたえた。  近くに、子ども3人の母子家庭を知っているだけに、  妙にリアリティがあるのだ。 [気になる点]  帰ろうとすると……。  なんだー! (*^^*…
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