またしても逃亡
「……っ、……ひっく……」
ひとしきり泣くと落ち着いた。
落ち着いた途端、恥ずかしくなる。
だって、俺って子どもじゃないし?
メリサは微笑んで、泣いてる俺の頭をずっと撫でてくれていたけれど、この状況ってどうよ? いやいや、早くここから出ないと、今度はフィデルがここへやって来る。
本格的に見つかる前に、逃げ出さないと……!
「メリサ! ここから出るぞ!」
「……こ、こ……」
必死に言葉を探して首を傾げる。
あぁ! もう! メリサの返事なんて聞いてたら、時間が足りないっ!
散々泣き喚いて時間を食った自分のことは棚に上げて、俺は少しイラッとする。とにかく、逃げるのが先だ!
俺は怪我をしているメリサの足の下から腕を差し入れ、メリサを抱き上げた。
「!」
メリサは驚いて目を見開き、小さく悲鳴を上げる。
「メリサ、しっかり俺に捕まってて! 絶対に護るから……!」
俺は叫ぶと、窓の方に走った。
「……っ!」
メリサが驚いて、ギュッと俺にしがみついてくる。
だよねー……怖いよね。ここ三階だし。
「……っ、大丈夫。信じて……っ!」
思いっきり助走をつけて、俺は窓から飛び降りた!
──びゅおぉぉおぉぉ……!
「……っ、」
耳元で、すごい風が巻き起こる。
「フィア……さ、ま……っ」
メリサの震えが伝わってくる。
だけど三階から飛び降りるのなんて、俺にはへでもない。
魔術のない前世ならいざ知らず、ここには魔法が存在する。
俺は空気中の水分を練り集め、少しずつ着地点に集める。
そう、俺が操れるのは《水》。
その水分を集め、徐々に密度を高めれば、難なく着地することが出来る。
──スタッ。
「ほら。大丈夫だったろ?」
「……」
地上に降り立ち、俺はメリサを見る。
メリサは意外にも普通に微笑んでいて、逆に驚かされた。
「あ……」
……信じてくれたんだ……。
そう思うと、心の中がじわりと熱くなる。
だって俺、メリサの事を置いていったのに。
だからこんな目にあって……。
「……っ」
思わず泣きそうになる。
だけどグズグズなんてしてはいられない。
現時点で、俺はフィデルとリゼを敵に回した。
……え? なんでリゼも含まれるのかって?
だって俺たちは、脱出前に、廊下で落ち合うことになっていた。俺は窓から飛び降りて、脱出することで、それを反故にしちゃったんだ。
要は、約束破っちゃったの。
だって、フィデルもだけど、リゼおかしかっただろ? あのままついて行く気にはなれなかった。
それにメリサには、怖い思いをさせてしまった。それなのに更に惨殺現場……なんかに連れて行けるはずもない。
……確かにメリサがその事を知っているかどうか……なんて分かんないよ? だけど知ってる可能性は高い。
これ以上、怖がらせるようなことは、したくなかったんだ。リゼには悪いけれど。
「……」
俺はメリサを抱き直すと、勢いをつけて飛び上がる。
メリサの分があるから、当然本来の力全部は発揮出来ないけれど、二人から逃げて隠れるくらいは出来るはずだ。
行先は……どうしよう?
「! そうだ……」
さしあたって……サルキルア修道院へ行こう。
あそこなら、守秘義務がある。
修道院自体は、弱い立場ではあるけれど、救いを求める者のことをペラペラと話す者はいない。しばらく身を隠すには打って付けだ。
それに西の森……。
修道院からそう離れていない西の森には、今、バルシクがいる。
バルシクに出会えば命は保証出来ないが、バルシクがいる為に、他の魔獣は恐れて出て来ない。
警備兵に見つからず忍び込めば、しばらくは身を潜める事が出来る。
「……よしっ!」
俺は決心すると、全速力で駆け抜けた。
× × × つづく× × ×




