カピア
お久しぶりですm(*_ _)m
卒園式、無事終わりました。
今度は、書類地獄ですwww
(まぁ、そこまでないけどね)
と言いますか、今回6000文字越え。。。またかよ。
すみません。本当、すみません。終わらないやつです。。。
切れるかどうか考えたけれど。。。うーん。。。(;-ω-)ウーン
だって、切ったら、前半スカスカだもん!
(スカスカなんかい。。。)
「カっピア♪ カっピア♪ カピアはどこかなぁ〜」
俺は鼻歌交じりに、氷雨を操った。
その時の俺の頭の中は、もうすっかりモルモット似の魔獣カピアだらけ!
川が涸れた原因がなんなのかとか、水不足をどうにかしなくちゃいけないとか、その後宵闇国に逃亡するんだとか、そんなこと全部、俺の頭の中から、すっかり消えてなくなっていた。
一目だけでも、ふわふわのカピアを見たくって、そりゃもう夢中だったから。
見た目はウキウキとしながらも、俺の目はギラギラと光り、カピアを探す。どうしてもカピアが見たくって、触りたくって、ドキドキしながら俺は辺りを見回した。
絶対見つけてやるんだ! 可愛いカピア。どこにいるんだろう?
……そんな事しか、頭になかった。
ドルビー寄宿所から修道院までの道には、鬱蒼と広がる森が延々と続いている。
だからカピアが隠れそうな場所はたくさんあって、ただ馬で駆けているだけなら、きっと見落としてしまうかも知れない。
だから俺は当然、氷雨の速度を落として、茂みの蔭を覗き込みながら、進んで行った。
「あ!」
カピアは、すぐに見つかった。
いたぁ……。
林の影に隠れて、プルプル震えてる毛玉!!
茶色一色のふわふわとした小さなかたまりが、キュウキュウと甘えた声を出しながら、こっちの様子を伺っている。
うわっ、すげ、可愛いぃっ!!!
焦げ茶色のそいつは、クリクリおめめを俺に向けて、フルフルと震えていた。
ドルビー寄宿所で、カピアはたくさんいるみたいに言われたけど、どんなに探しても、カピアはそいつ一匹しかいなかった。
うーん残念。っていうか、あれって。
アレって、テディ……テディじゃん……っ!?
俺のテンションは、一気にMAXになる!!
だって、《テディモルモット》だよ!?
知ってる?
モルモットの種類の一つである『テディ』。……別に熊が出たわけじゃないくてね。あ、それは分かるって?
俺は一人でツッコミながら、ぷぷぷ……と笑う。
そう。《テディ》は、モルモットの種類で、短毛の縮れ毛というかカールというか、よくお店に売られている、ちょっとお高そうなテディベアのぬいぐるみと同じ毛質のモルモット。とにかくめちゃくちゃ可愛い。
あのモルモット特有のアホ面に、短毛の縮れ毛。それから、すこーし口が開いているような、そんな《ぽよん》とした顔で見つめられたら、もう……っ! もう!!
見た目的に、本当に、まんまテディベア。
お店のショーウィンドウに、ちょこんと座ってそうな、あのぬいぐるみそのまんま!
それが生きていて、プルプルしながらコッチを見てるって考えてみてよ! もう、抱っこせずにはいられないだろ?
俺はこれでもかっ! と言うほど、眉尻をさげて、氷雨をテディモルモットへと近づける為に手綱を操る。
……いや、正確に言うと、《カピア》だけどね。魔獣カピア。
『プイッ! ぷいぷい……』
俺の気配に気がついて、カピアが甘えた声を出す。ぴょこぴょこと、茂みの中から現れた……!
ひぃ〜鳴き声も、まんまモルモット……!
……いや、別に《プイッ!》って、そっぽ向かれたわけじゃないからな? そんな《鳴き声》なんだよ。モルモット……いや、カピアって。《ぷいぷい》って鳴くの。本当に可愛いんだ。
あのちっこい体で一生懸命、プイプイっとかキュウキュウとか、プルルルルル……って鳴く。
……変な鳴き声だけど、すごく可愛いんだ。
前世の家では飼えなかったけど、今の屋敷ならたくさん部屋があるから、いくらでも飼える。
あぁ、思い出すなぁ。俺、高校のモルモット舎を見ながら、いっつも飼いたいなぁなんて思ってたけれど、ついに……遂に夢が叶うんだ……!
しかも、夢のまた夢、テディモルモットだよ?
そう思うと、いても立ってもいられない。
やだ、どうしょう? どうやって飼おう。いっそカピアの為に一室全部使っちゃうか?
ぐふふ……と笑いつつそんな事を考えながら、俺は氷雨の手綱を引く。
「……ん?」
ぐいぐいっと引っ張り、氷雨をカピアの方に向けようとするんだけど、氷雨が言うことを聞かない。
「ちょ? 氷雨!? 動いてくれない? ほら、あっちだよ? あっちの林の影の方……」
鐙でトントンと横腹を蹴っても、氷雨は動かない。
「え? なんで? どうしたの? 氷雨!?」
必死に動かそうとするほどに、氷雨はブルルルル……! と鼻を鳴らし抗議した。
しまいには、クリクリお目目のカピアに威嚇のポーズを見せる。
「え、ちょ、やめ……」
焦って引き離そうと手網を引いたその瞬間、『待ってました!』とばかりに、氷雨は修道院めがけて走り出した……!
「え、なに? ちょ……っ!」
うわあああ……と叫ぶ俺を無視して、氷雨は一心不乱に走った。
元々ペガサスと馬の間の子。力は普通の馬よりも強い。
そんな氷雨に逆らわれたら、俺だってどうしようもない。俺は泣く泣く、その場を後にするしかなかった。
あぁ……カピアぁ。……テディモルモットのカピアぁ……。
振り返ると、遠ざかる林の影から、カピアがちょこちょこと歩き出て、もの悲しそうに、こちらを見てる。
あ"あ"あ"あ"~……! カピア、カピアがぁ……。
俺は涙に暮れながら、氷雨の背にしがみついた。
あぁ。抱っこしたかった。めちゃくちゃ可愛いかったのに……。
「……」
……てか俺、乗っかってるだけじゃん。何なのコイツ。
ムッとして氷雨を睨んだけれど、背中にいる俺がどんなに睨んだところで、氷雨は痛くも痒くもないに違いない。
「はぁ……」
だけど、お陰で思い出した。
……そうだった。修道院。
修道院の氷の解除、しなくちゃなんなかった……。
カピアなんかに、かまけている場合じゃない。
この窮地を脱して、俺は宵闇に……自由になるんだ。
「……ごめん。氷雨」
俺はシュンとなって、氷雨謝る。
氷雨はその事に気づいたのか、たまたまなのか、ピクピクと耳を動かした。
そうだ。俺はもう二度と、あの家には帰らない。
だから、カピアを飼うことなんて、出来ないじゃないか……。
「……」
短絡だった自分の思考を恥ながら、俺は改めて氷雨の手綱を握る。
いくら魔物であっても、命には変わりない。無責任な飼い方なんて、しちゃダメだ。俺は考えを改める。
確かに《魔物》と分類されるモノの多くは、人の生活を脅かす。カピアも例外じゃない。
手当り次第に、そこここにあるものを巣材にするカピアのおかげで、他国では、町が崩壊しかけた話も聞く。
可愛いから、傍にいて欲しいからって、先のことを考えないで連れて行っちゃダメなんだ。もっと、いろいろ考えなくっちゃ……。
「ぶるるるる……!」
まるで俺の考えていることが分かるかのように、氷雨は嬉しそうに鼻を鳴らすと、速度を上げた。
「……氷雨」
俺は苦笑する。
氷雨は、本当にいい馬だと思う。
いや、むしろ俺より頭が良いかも知んない。だって、俺の間違った行動を諌めてくれたから。
……たまたまかな?
氷雨……馬にそんな事まで、分かるわけ……、ないよ、な……?
そう思いなおし、苦笑しつつ、俺は氷雨と呼吸をひとつにする。
カピアは残念だけど、俺はする事があるから……!
「はっ……!」
それから俺たちは修道院を目指して、夢中で駆けたのだった。
✻✻✻
「あぁ……! 六月さま……っ!! 六月さまがいらっしゃられなければ、どうなっていたことか……っ」
司祭が、涙、鼻汁出しつつ、感動にむせび泣いた。
修道院に着くなり、この司祭。今年齢七十になろうという、真っ白な髪と髭が特徴の、このサルキルア修道院の司祭は、俺が到着するとすぐに、泣きついて来た。《どうか氷のブロックを解除して下さい》と。
どんな言い訳して、氷を解除しようかと思っていた俺は、面食らう。
まさか、修道院の方から頼まれるとは……。
「あ、いや、……えっと。あ、あの? 俺、フィアじゃなかったのに、良かったのかな? 勝手なことをして」
逆に俺は焦る。
だって俺は、この国の人間じゃない事になっている。いくら司祭とい言えども、俺の正体までは知らないはずだ。
けれど司祭は頭を振った。
「良いのです。罰ならば、儂がこの身に全て受ける覚悟でございますゆえ……」
くしゃくしゃの笑顔でそう言われれば、断ることも出来ない。
俺は修道院にある、ありったけの氷のブロックの魔法を解除し、自由に使えるようにした。
……そして、このありさまだ。
熱烈な感謝を受けようとしている。
い、いや、……言葉だけで十分だから……。ハグは、絶対にイヤです!!
焦りながら、顔中、わけの分からない《汁》まみれになった司祭を受け流そうと、後ずさる。
けれど司祭も負けてはいない。ジリジリ……と両手を広げ、抱きついてこようとするその姿は、ゾンビよりもタチが悪い。と言うか、《怖い》。
えっと、……なんで? なんでこんなに歓迎される……?
「あ、ちょ、し……司祭さま? お、落ち着いてください。俺、困ります……っ!!」
冷や汗を垂らしながら、俺は逃げ惑う。
「おぉ、なんと……なんと! 謙虚な心の持ち主であろうか……! これほどまでに、皆の救いとなってくれていると言うのに……!」
もう高齢の司祭さまは、むせび泣いて、俺を追い掛け回すのに一生懸命だが、逆にシスターたちは、俺に見向きもしない。いつもなら司祭を宥めてくれる存在だったのに、今日はそんな事には構ってられないわ……! と言ったように、無視された。
……何故って、水を運び出すのに一生懸命で、それどころではないから。
「……」
どうやら、この帝国内では、温度差があるようだ。
……要は、騎士を養成するドルビー寄宿所は、帝国の管轄。貧民や救いを求める者を助ける修道院は、貴族たちの好意で成り立っている。
一応、修道院も帝国が建てた施設だけど、その運営は貴族たちの善意なる寄付でまかなわれている。帝国全体が一度に危機的な状況になれば、まず最初に救いの手が伸びるのは、帝国管轄の寄宿所。その後が修道院となる。
何だかんだ言いつつ、一番大切なのはお貴族さま。身分的弱者である《平民》は、いつも後回しだ……。
「……」
帝国管轄の寄宿所には、国からの援助として、すぐに水が支給されたが、国民の拠り所となる修道院には、水の配給はなかったと司祭は言った。
氷の解除に、ヴァルキルア侯爵家から、何かしらの話が来るかとも思っていたが、それもないと言う。
帝国宛で、嘆願書も送ってみたが、使者は苦い顔で『下手すると、この氷も持ってかれるかもな……』と言ったのだそうだ。
「……」
何だよそれ……。
モヤモヤが胸の中に広がる。
でも、確かにそうかも知れない。
水の備蓄が、どれだけこの帝国にあるかは分からないけれど、《水》は生死を左右する大切なモノだ。貴族たちが『足りない』と言えば、修道院にある氷が取り上げられる事も、あるかも知れない。
使者は意地悪でもなんでもなく、この嘆願書を出すことによって、修道院に水の備蓄があると知らしめれば、それを狙う貴族がいるかも……と、暗に言ったのだった。
「……」
俺は眉を寄せる。
ついでに言うと、カピア出現のために、入山規制が敷かれた。要は、助けを求めて、修道院に入ろうとする者たちまでも、制限される事になった。
水の運び手が足りなかったお陰で、使える水の節約になっていたそうだが、その水も底をつき始め、これからどうしていこうかと悩んでいたそうだ。
タイミング良く、氷の解除が出来るこの俺が現れ、この歓迎だったようだ。だけど俺の心は、複雑だった。
「だったら何故、ゾフィアルノ侯爵家へ要望を出さなかった?」
俺は眉をしかめる。
申請があったのなら、すぐさま俺はここに来たのに……。
けれど司祭さまは頭を振る。
「六月さまは、他国の方だから、ご存知ないのかも知れませんが、運悪くフィリシアさまもフィデルさまも、謹慎処分を受けなさったのでございます……」
ヨヨヨ……と司祭さまは嘆く。
「あ。……謹慎……」
俺は絶句する。軽い目眩がした。
そうだった。俺は、謹慎処分受けてたんだ……。
話によると、俺たちが謹慎を受けているために、申請は俺には届かず、王宮の皇太子の手に渡ったらしい。
(あー……そうか、それでラディリアスはウチに来たのか……)
ラディリアスとフィデルが妙な言い合いをしていたのを思い出す。
結局のところ、婚約解消するのかしないのかの話に擦り変わって、俺までしっかり話が伝わって来なかったアレの事か……。
「……」
何もかもが、後手に回っているのを感じて、俺は頭を抱えた。
ごめん。全部、俺のせいだ……。
真っ青になって頭を抱える俺を尻目に、司祭さまは説明を続ける。
「なんでもフィリシアさまが、皇太子さまとの婚約を嫌って、不義の証拠を捏造したとのことで謹慎処分に……。あの、あのお優しいフィリシアさまが、フィリシアさまがあぁぁぁ……」
あー、……そこのくだり知ってるから。説明要らないから……。
俺は居心地が悪い。
「よほど皇太子さまが、お嫌いなのでございましょう。六月さまがこの国の方であったのなら、フィリシアさまとお似合いでありましたのに……。儂は、儂は悔しゅうて、なりませぬぅぅうぅぅ……」
いやいや、フィリシアも六月も俺だからね。お似合いもへったくれもないからね。
俺は妙な汗を搔く。
「いえいえ司祭さま? 例え六月さまが他国の方でも構わないではありませんか! 六月さまにはフィアさまが、とてもお似合いでございますよ!!」
満面の笑顔で汗を拭きつつ、シスターがこっちを振り返って言う。
……いやいや、なんてこと言うんだ。
話がややこしくなるから、やめろって……。俺は青くなる。
目を細め、シスターを睨んだが、当のシスターは水を運ぶ作業をしながら話しているので、俺の睨みは通じない。
もう! 何なんだよっ! コイツらは!!
すると司祭さまは、ポン! と手を打つ。
「おぉ! そうであるな、そうであるな! 六月殿は確か子爵さま。貴族であられるのであるなら、条件は満たしておりまする!!」
言って、ニコニコと笑みを向ける。
「い、いや……。俺の好みだって、あるからな……?」
俺は焦る。
「なんと! それではもう既に本国では、ご婚約をされていると……!?」
えー……。なんでそうなる?
「い、いや、……そうではないが……」
「ならばならば、想い人が彼の国におられるのか……? あぁ、なんと残念な……」
ヨヨヨ……と泣き崩れる。
いやいや、残念なのは、司祭さまの思考だよ!
無理だから! フィアは俺だし!
するとシスターがものすごい顔で、ツカツカ……と俺の前に来た。
え……なに。今度は何……?
「六月さま……!」
「え、は……はい……」
「六月さまが、どのような方を好いておられるのかは、存じ上げませんが、フィリシアさまほどのお方は存在致しません! どうか、お考え直し下さいませ!」
えぇー……。今度は、ソレ? だから、フィアは俺なんだってば。
俺が俺と、結婚出来るわけないだろ??
俺は何も言えず、絶句する。
「六月さま? ご結婚あそばされるお相手は、是非、フィリシアさまになさいませ。フィリシアさまと六月さまであるならば、これほどのご縁はありません」
シスターは自分の両手を握り、ウットリと目を細める。
「い、いや、俺、フィアのこと知ってるし。……いや、ない。ないから、それは絶対ないから……!」
必死に否定していると、目の前のシスターとは別のシスターが、ものすごい剣幕で俺に詰め寄って来る。
「何ですって!? フィリシアさまのことを悪く言うと、このわたくしが許しませんわ……!」
「あ、いや、そうではなくて……」
言い訳をしようとすればするほど、深みにハマる……。
私も私も……! と、ワラワラと外野がやって来た。
あーもう! 何なんだよっ!!
俺はヤケになって叫んだ。
「分かった!! 分かったから! 前向きに検討するよっ! それでいいだろ……?」
わっ! と歓声が上がる。
……あ。しまった。やらかした……。
「……」
そう思ったけどもう、遅い。
後の祭りだった。
俺は自分の口を、慌てて手で塞いだが、もうどうする事も出来なかった。




