六月と猫と青毛の馬。
はい。
今回、六千文字です。
終わらないやつです。
切ろうとは思いました。ええ、思いましたとも!
思いましたけど、切りませんでした。
切ったら勢いなくなるもん?
私の小説で《勢い》とかね……ないんだけど。。。
でも、いいんです。
もういいんですよ、コレで!!
(やけっぱち)
シュン──。
シュタッ……。
無事に屋敷を出ることが出来た俺は、ひとまず鬱蒼と茂る木の枝の間に身を隠し、辺りを見回した。
誰もいない場所を見計らって、素早く地に降りる。
「えっと、俺の馬はっと……」
キョロキョロと辺りを見回すと、木々の間に隠れるように、小さな馬場が見えた。
……どう見ても、寂れている。
近くに厩舎らしきものはあるが、ひどく荒れていて、使われていないように見えた。
おいおいおい……。
まさか、ここじゃないよな?
俺は不安になる。
一応、『馬を用意した』と言うメリサの指示に従って、ここを着地点に決めたけれど、どう見ても、馬がいるような感じじゃない。
例えいたとしても、この空き家然とした、この厩舎。
え? 本当にここなの? ここって、大丈夫なの?
別に、メリサを疑うわけじゃないけど、ここにいる馬だよ?
果たして乗れるのか? 乗った途端に潰れたりしないよな……?
俺は急に心配になって、眉をひそめた。
そもそも、ここからサルキア修道院までは、かなりの距離がある。
普通の馬……というより、ある程度力のある馬が欲しい。普通の馬でも、下手をすると、途中で潰してしまうかもしれない。
別に俺が走っていけばいい話なんだけど、出来れば、体力は温存したい。
近くの西の森の状況も確かめたい俺にとって、馬はどうにか手に入れたい代物でもあった。
「んー……仕方ない。見るだけ見てみるか……」
俺はそう思い、厩舎に足を踏み入れた。
「あの。すみません……。誰かいますか……?」
俺は厩舎の中に向かって、声を掛ける。
だけど、返事はない。
ブルルルル……と馬の鼻息は聞こえるから、馬はいるようだ。
俺は恐る恐る、足を踏み入れた。
厩舎の中は、意外にも綺麗に整えられていた。
変な匂いもしない。
飼葉の柔らかな、優しい匂いがした。
うん。これなら、期待してもいいかも。
俺はホッとする。
キョロキョロと辺りを見回しながら、コツコツと中へ入った。
途端──!
「ゴラァ! 誰や! 勝手ん入って来よるとはっ!! ここば、どこち思うとっとか!!」
いきなり怒鳴られた。
「ひぃ……!」
俺は驚いて、跳ね上がる。
跳ね上がったけど……いや、一言断ったよ? 返事しなかったじゃん。
ぶすくれて声のする方を振り返る。
いいもんね。俺、怖くないもん。
いざとなったら、飛んで逃げるし。
必要があれば、魔法で姿変えればいいんだし……。
正直、泣きそうになりながら、表情だけは強気でいく。
見た目で負けたらダメだ。ここは気合いだ……! そう思って振り返った。
「……」
そして見た途端、俺は負けた。
完全なるノックアウト。
対戦する前に、負けた……と自覚する。
いやもう、ホント無理だから。
見た目的に、絶対無理だから……!
そこにそいつは、いた。
両足をグッと広げ、両手を腰に、ふんぬっ! と当て、ふんぞり返っている。
しかも、モサモサの毛むくじゃら。
あ……、あれ、あれって……。
俺はぶるぶる震えながら、目を見張る。
「……」
「なんや、お前! 文句あるつか!?」
そいつは唸る。
典型的な、九州弁だ。
あぁ、……異世界でもあったんだ? 九州弁。
妙なところで、近親感を持つ。
「……」
「おぉ!? なに黙っとっつか! バカにしとるつか? ウチ、これでも強かつよ!!」
やつはそう虚勢を張った。
……威勢はいい。
威勢はいいが……。
「………………」
ここで、ひとこと言っておこう。
え? 何がって?
いや、俺は一応、我慢したんだってことをだよ。
確かに俺は我慢した。
そーとーに、我慢した。
自分を褒めたいくらい、我慢に我慢を重ねた。
いやいや、《一応》とかじゃなくて、ホントしっかり、……しっっっかり、我慢したんだぞ! 本当だぞ!?
だけど、だけどさ……。
……いや、コレは……反則……。
見た途端に、完全にノックアウト。
しかも前世で聞いた事のある、九州弁とか。
「……う、」
俺は唸った。
「《……う、》? コラ、なんか言えよ! 《う》だけじゃ分からんやろ!?」
そいつは言う。
ギロリ……と、つり上がった緑色の目が光った。
そしたらもう、俺の理性が吹っ飛んだ。
プツッて、本当になにかが切れた。頭の中で。
だって、なにか言えって、……なにか言えって、そいつが言ったんだよ? 必死で我慢してるこの俺に!
俺だって必死だったんだよ、我慢するの……。
俺だって、ちゃんと頑張ったんだ!
ダメだって、必死に自分に言い聞かせた。やっちゃったら、もう後には引けない。
だけど……だけどもう、限界だ……!
「……う、うわあぁぁあぁぁ!!」
俺は叫ぶ。
これは、叫ばずにはいられない。
そしたらそいつはビクッ! と体を強ばらせ、ピンっとヒゲを伸ばした。
俺はそいつに、突進した!
もう、我慢なんて出来ない……っ。
我慢なんて、できるはずがない!!
──がしっ!
俺はそいつを両腕で、抱え込む。
そいつは俺に捕まり、狼狽えた。
「え? な、なに? なになに!?」
そして俺は、思いっきり叫ぶ……!
それはもう、心の底から、腹の底から……!!
「うわぁ……。可愛い! 可愛い!! 可愛いぃ〜!!!」
ふわっふわのその胸に顔を埋め、俺は思いっきり頬擦りした。
「……」
そいつは当然、絶句した。
ひぃ〜可愛い。
ふわふわだぁ。
猫だ、猫だよぅ。
半泣きで俺はそいつに擦り寄った。
「なん!? なんなん!?!? なんなんなん!?!?!?」
ビシッと全身の毛を逆立たせ、俺の目の前で、その巨大猫は硬直した。
ま、そりゃそうだわ。
うん、分かる。
その気持ち、ホント良く分かるよ、俺。
あぁ〜でも、なんなの?
何なのこれ。
すっごく、可愛いんですけど??
──はい。
ここで一つ、説明を見る入れますとね。
この異世界では《猫》がいません。
……。
いないのよ。猫が……。
あのモフモフ生物が!
俺はね、猫派なの。
前世でも猫を飼ってたくらい、猫好きなの。
そもそも、天災級の魔獣『バルシク』……あれくらいなのよ? ここで見る猫って。
あれくらいしか見ないの。
だから、あの巨大猫の生首が、高値で売れる。
俺的に、その理由は簡単に想像がついた。ズバリ、可愛いから。
そしていい匂いだから。
まあ初めて見た時は思ったよ? 《えぇ? 生首かよ》……って。
けど、この世界には魔法が存在する。
バルシクのでっかい生首も、魔法でほどよい大きさにできるし、元々ごっつくて厳つい顔のバルシクでも、可愛らしい表情に作り替えられる。
人って、本当に恐ろしい。
いくら天災級だからって、そんな風にして売り飛ばすとか、いい性格してるよね?
……それだけ逞しいから、ここまで生き延びてるんだろうけど。
……。そしてさ、それって、俺も他人事じゃないんだよね。
だってバルシクのヒゲは、バニラビーンズなんだもん。
この世界でケーキを作るとなると、俺はバルシクを狩り続けなくちゃいけない。
……まあ、バルシクは、人……どころか、生き物全般に仇なす魔獣なんだけどね。
狩ってなんぼなんだけど……。
だけど、猫の姿をしているだけに、俺の心は微妙だ。
もっとさ、どうにかなんないんだろうか? 狩られた後のバルシク……。
だから、侯爵家に送られてくるバルシクの首は、大きいままの獰猛な顔つきのバルシクがほとんどだ。
加工されたモノは俺が嫌がるって知っているから、加工せずに送ってくる。
……まぁ、早く狩りの獲物を見せたいっていう、あれかもしれないけど……。
でもさ、思うんだ。
天災級の魔物でも、狩らなくちゃいけないやつでも、それなりの礼儀ってもんがあるんじゃないかって。
見せしめにするような、遺体を弄ぶようなことは、俺はイヤなんだよ……。
だからウチには、そのままのグロい感じで贈られてくる。
……それもどうかと思うけど。だけど加工されるより、まだいい。
あの後、あれがどうなってるかは知らないんだけど、ヒゲだけは、ちゃっかり俺が頂いちゃっているから、飾りに加工は出来ないとは思うけど……。
あの獰猛な顔つきのままだと、狩られるのも当然だと思えるから、罪悪感は薄くなる。結局、自分が許されたいだけなのかも知れない。
猫好き……と言いつつ、同じ《猫》のバルシクは狩る。……その罪悪感。
……同じ《命》なんだよね。可愛くても獰猛でも。
でも、バルシクが出たら、必ず狩らなくちゃいけない。
今のところ、『共存』は不可能だ。バルシクは、懐かない。それほど危険な生き物だ。だから殺す。
俺たちが生きていくためには、必要な犠牲でもある。
俺たちは、そんな犠牲をいっぱい背負って生きている……。
命を狩る側の俺……俺はそれを、絶対に忘れちゃダメだと思っている。
──俺たち人間の為に、失われる命。
少なくとも、俺は、バルシクが存在しているおかげで、お菓子が作れている。とても、有り難い存在。
で、
それでだ。
話は戻るけど、
目の前の、《コレ》……!
猫。
猫なんだけど……!
バルシクじゃない、猫!
でっかい猫!
人の言葉を喋る猫!!
ほんっと、初めて見た!! え? 獣人? 確かにこの世界には獣人が存在するけど、その数は少ない。
俺もその獣人を見たことがあるけど、《獣》といいつつ、たいていその獣人はワニとか、トカゲとかの獣人が多くて、……えっと、いわゆるリザードマン? ぐらいしかいない。
そもそもこの異世界で、存在しない《猫》……の獣人なんて、珍しい通り越して、本当ならいるわけない。だって、存在しないから。《猫》が。
いたけど……!
なに? なんなの? めちゃくちゃ可愛いんですけど……!?
嫌そうに、ムスッとして、俺を見てるのが、また何とも言えない。
しかも九州弁だよ?
もう、そんなのあったの!? っていうくらい、衝撃的だった。
貴族社会だから知らなかっただけかもね。帝都の外にも行ったことないし。
そうだよね? 方言くらいあるよね、異世界でも……!
そんなわけで、俺が抱きつかないわけがなくて……。
俺は必死に抱きついた……!
うわぁ、ふわふわ。
あったかい。
気持ちいい……!!
(リピート……)
当然、その喋る猫は、俺の腕の中でもがいた。
「お、おごぉ!? な、なんばすっと!? ウチ、怒っとるとに、なんで抱きついてくっと!?!?」
あぁ、九州弁。可愛い……。
……可愛い。可愛い。可愛い可愛い……。
もう全てが可愛い──!!
スリスリスリスリ……と、その胸に顔を押し付ける。
悔しいけど、俺よりデカい。
猫って言うよりクマなんじゃないの!?
あぁ、でも、そんな事どうでもいい……!
フカフカのぷにぷにの、もふもふもふもふ……。
「え、あの。あの……お客さん? ちょ、ちょ離して……!」
さっきの勢いはどこへやら、喋る猫はワタワタと焦り始める。
「あ、あれやろ? お客さん、六月さん? ウチ、馬、渡すように言われとった。忘れとった。……怒鳴ったの謝るけん、離して……お願い……」
語尾の《お願い……》は涙声だった。……可愛い。
「あ。ごめん。つい……」
さすがの俺も、謝って、(仕方なしに)手を離す。
「い、いや……いいけども……」
もじもじ……と喋る猫は、自分のしっぽを握りしめ、下を向く。
……それがまた、めちゃくちゃ可愛い……!
握りしめたしっぽの先が、ぴょこぴょこと動いている。
いや、……いや我慢しろ! 猫はあまり触ると、いやがるんだ……!
《うわぁ、可愛い〜》と思いつつ、それをグッと心の中に押し殺し、俺は目の前の喋る猫を凝視する。
……でも、いや、……ホント可愛い。
「あ、あの、ウチ……ウチ。ヨルって言います。……あの。メリサさんに頼まれて、馬。馬をご用意したんです……」
ヨル!?
もう、名前も本当に可愛いんだけど。
ヨルはその名の通り、夜のように、ほぼ真っ黒な毛並みの猫。ただ、一部が白い。
手足と口の周りには少し白色が入っていて、まるでマスクをして手袋と靴下を履いているように見える。典型的な日本猫だ。
……いや、違う……か? 耳が片方垂れている。スコティッシュ?
ついでに言うと、手足が太い。猫と言うより、ライオンとか、虎を思わせるような、太い手足をしていた。
「……」
……いわゆる、スタイルは良くない。見事な洋梨体型だ。
でも、そこが可愛い……っ!!
あ"あ"あ"あ"〜……もう、我慢出来ないぃぃぃー……っっっ!!
「あー……あの? 聞いてます?」
のたうち回る俺を見て、ぴょこんと首を傾げ、ヨルは不安げにこちらを見る。
くりくりとした澄んだ緑色の目が、キラキラと光った。
あぅ。……困った。連れて帰りたい……。
俺はどうにか自分を抑え、しかめっ面で頷いた。
「聞いてる。馬……見せて」
「……こちらです」
「……」
俺のしかめっ面が、怖かったのかも知れない。
ヨルはシュン……として、トボトボと案内してくれた。
……違う。違うんだ!
断じて違う!! 怒ってるとか、そんなんじゃない!!
気を許すと、抱きつきそうになるから、必死に耐えてるんだあぁぁ……。
なんで、……なんで、こんなところに猫。
でもダメだ。俺にはしなくちゃいけないことがある……。
俺は必死にそう言い聞かせ、ヨルの後をついて行った。
「こちらです」
テシテシ……と歩いて行くその先に、一頭の馬がいた。
「うわ……っ、すご……」
いったい、どこで手に入れたんだ……と思うような立派な馬が、そこにはいた。
俺に馬のことなんて、そう分からないよ?
だけど、コレは誰だって分かる。
俺が驚くと、ヨルは人懐っこそうな笑みを浮かべて、誇らしげに言った。
「えへへ、そぎゃんでしょ。コレね、ウチが育てたと。ウチ、こんなナリしとるけん、嫌われとるとだけど、動物には好かれとるとよ? コイツも良い奴だけん、可愛がってやって?」
そう言った。
「いやいや、これって、動物に好かれるとか、そんなやつじゃないでしょ……」
目の前の馬は、普通の馬ではなかった。
ペガサスと馬の間にできる希少種で、空は飛べないけれど、力はある……そういう馬だった。
そう言うと、ヨルは笑った。
「あー……まぁ、そうなんだけどね、よく言うとね……そう、なんだけど……。悪くいうと半端もん。ウチと一緒たいね。こいつは飛べもせん。少し寸胴だし、力はあるけれど、色が……」
良くない……とヨルは遠慮がちに、小さくそう言った。
……《半端もん》。
それって、俺もだよ。
言いはしなかったけれど。
いいじゃん。半端もん。
俺にピッタリ。
渡された馬は、確かに変な色合いだった。けれど見事な青毛だ。
「……」
馬の《青毛》と言えば、真っ黒な馬だけど、こいつは本当に《青い》。
氷のように冷たい青。
ついでに言うとまだらだ。
まるで氷の結晶のような不可思議なまだら。
……本当なら、高値で売れるはずなんだろうけど、この色合いは売れないのだと言う。見た者全ての者が、気味悪るがるのだそうだ。
「……綺麗なのに」
俺はポツリとそう言って、馬を撫でた。
撫でられてそいつは、嬉しそうに鼻を鳴らす。
ヨルも満更ではないようで、ほんのり目の端に、涙を浮かべながら笑った。
俺は青……嫌いじゃない。
この模様も、いい味出していると思う。
俺は氷を操るから、似たもの同士だな。俺はそう言って笑った。
ヨルがつけてくれた鞍は、真っ黒な鞍で、青毛と相まって凄く綺麗だった。
俺はヨルにお礼を言って、先を急ぐ。
この馬なら、力があるからサルキア修道院まで、楽勝で行ける。俺は満足だった。
潰れないどころか、普通の馬より速く走ってくれた。
俺はグズグズしては、いられない。
全てが終わったら、俺は宵闇へ行く。
その時は、この馬も連れていこう。ヨルとはまた、会えるだろうか? 出来ることなら、また会いたい。
その為には、誰にもバレないうちに、早く事を済ませたかった。
はい。ここで質問。
私って、本当に《猫》……出さなかったですかね( ̄▽ ̄;)?
もし、《猫》を見かけたら、お知らせ下さい。
消しにいきます(✧"✧)
あー、アレみたいですね。
絵本『はじめてのおつかい』
後ろの掲示板に、『ネコをみかけたひとは……』って
電話番号が書かれているヤツ。
あれ、出版社の電話番号で、
しばらく本当に子どもから『猫ちゃん○○にいますよ』
って掛かってきてたんだって。
今は電話番号変わって、掛からないらしいけど。
アレ、市外局番なかったしね。
どこの都道府県かしら? やっぱり東京かしらね?
そこは聞かなかったけど。
なかなか、憎い演出ですな(´-ω-)ウム
あ、私の場合は猫『消す』んで。
最低やなw




