不気味な人影。
──「こっちで、物音がした! ……フィア? そこにいるの?」
「!」
聞き知った声が、すぐ近くでした。
私の肩が跳ねる。
なぜ?
何故、こんなにも早く、いつも居場所を知られてしまうのだろう?
このままでは見つかってしまう。
私は青くなり、意識を失ったフィリシアさまを抱き寄せた。
逃げなければいけないのは分かっている。けれど近すぎる。
今動けば、見つかる可能性が高かった。
「……っ、」
私はジリジリと下がりながら、路地裏の影に身を潜ませる。
──「フィデルさま。それでは私が見て参りましょう……」
「!」
聞き知った、少しの含み笑いを感じさせる、いやらしいあの声!
間違いない! リゼだ。
私はフィシリアさまを抱いた手に、更に力を込める。なんとしても、このフィリシアさまだけは、お助けしなければ……!
でも、どうすればいい?
仮にも相手は、ゾフィアルノ侯爵家の諜報員として訓練を受けた者だ。一筋縄でいくとは思えない。
しかも私には今、守らなければならない者がいる。
「……」
私はちらり……とフィリシアさまを見た。
一度意識を取り戻されたけれど、再び倒れたフィリシアさまの顔は、ひどく青白い。
大量の血液を失って、きっともう危険な状態だ。
どうしよう……。
私は歯ぎしりする。
抱えて逃げるには、魔法を展開しなければ無理だ。けれどかと言って展開すれば、その余波で気づかれる。
フィデルさまはフィアさまよりも速くはないけれど、私なんか問題じゃない。すぐに捕まるのが目に見えていた。それに、先程フィリシアさまが吐いた血を片付け損ねている!
「っ!」
私はギリッと、フィアさまが作ってくれた真っ赤な剣を握りしめた。
いざとなったら、これで……。
確かに傷を負った私では、すぐに負けてしまうだろう。でも、でも私は他にも手を打った! それが間に合いさえすれば……。その時までに、時間を稼ぎさえすればいい……!
──「いや待て、お前は行くな!」
──「し、しかし……!」
「……」
私はハッとして顔を上げる。
再び聞こえたその声に、耳をそばだてながら、フィリシアさまを自分の体の後ろへと隠した。
剣を構え、声のする方を睨む。
主に楯突くのだ。もう私の命はない。
だったら、何を恐れる?
両手足の傷はひどくいたんだけれど、それも少しの間だけだ。きっと直ぐに楽になれる。
そう思って、二人を待った。
……けれど二人は、なかなかやっては来ない。
どうやら、言い合いをしているようだった。
──「いいから、後は俺でどうにかする。お前は屋敷に帰れ!」
──「い、いやです。フィデルさま……どうか……」
──「くどい! ……分かっているだろ? お前は信用できない。フィアの様子がおかしい。……お前まさか、フィアに会ったんじゃないだろうな!?」
──「なにを仰せに……。そのようなこと……」
──「……。事実はフィアを見れば分かる。
私はお前の能力を知っているからな」
──「な!」
──「確かに、フィアの力はお前よりも大きい。
だが今のフィアは、いつものフィアじゃない。弱ったところにお前の術を行使されたら、いくらフィアでも抗いようがない」
──「お待ちください。フィデルさま……!」
──「なにを待つのだ? やはり、やましいと思うところがあるのだろ? だからもう、お前は下がれ……!」
そこで、リゼが息を呑む音が聞こえた。
私は少なからず、ホッと安心する。
確かにフィデルさまも油断はならないけれど、リゼよりはまだマシだ。常識が通用する。
それにフィデルさまも本来は、リゼを嫌っているはずだ。大切なフィリシアさまを下賎な欲の目で見たリゼ。その能力を認めたとしても、絶対に相入れることはないはず……。
けれどリゼは引かなかった。
──「いいえ。……いいえ! フィデルさま!
私も、私もフィアさまが心ぱ──」
「!」
リゼの言葉は、最後まで聞き取れなかった。
──ごおぉぉおぉ……!!
火柱が上がる。間違いない。フィデルさまの魔力だ。
私は息を呑んだ。
──「『お嬢さま』だ! 確かに戸籍上お前は、俺たちの義理の姉に当たる。けれどそれは周りの不安を消すために取られた処置だ。本当の姉だとは思うな! フィアの愛称を呼ぶこと……いや、名前を呼ぶことも許さない……!」
──「フィ、フィデルさま……!!」
──「お前がフィアに危害を加えていれば、俺にはすぐ分かる! そのときは覚悟してろよ……!」
その言葉と共に、コツコツと足音が近づいた。
「フィア? そこにいるの? もしかして、怪我をしてる? お願いだから、出てきて欲しい。俺は絶対に危害を加えないから……。
メリサを見て、動揺したの?
さすがに許す訳にはいかなかった。フィアを誘拐したと思っていたから……。でも、もう手は加えない。だからフィア! お願いだから……っ!」
「……」
明らかに焦っているのが見て取れた。
優しげなその言葉とは裏腹に、靴音は落ち着きがない。
路地裏という路地裏を覗き見ながら、探し回る気配がする。
私は身構える。
もう逃げられない。覚悟は決まった。
後はこの剣で不意打ちを……。
「!?」
目の前が翳った。
ゾクッとした殺気を感じた。
もしかして、見つかった!?
私は顔を上げた──。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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