母達は強し
今この国は魔族との戦争中、そして劣勢。
16歳以上の男子は全員戦争へと駆り出されてはいるが、剣や魔法の熟練者である50代40代はなんとか攻撃はできているものの、その下である30代20代は援護するのに精一杯だ、そんな中の10代はまだ小便たれと言われてもおかしくないくらいまだ子供、低級回復魔法をかけるのでいっぱいいっぱい。
多少やんちゃで腕に自信があった者でも、間近で巨大なサイクロップスやドラゴンに腰を抜かしてしまう。
そしてドラゴンが火を吐き、もう男達が防ぎきれないと思った時だった。
…………………………熱くない?
もしかしてもう死んだ?誰もがそう思い瞑っていた目を開けると、そこには
「「「「「「かあちゃん!?」」」」」」
そこには戦士達の嫁やおかんが水の壁でドラゴンの炎を防いでいたのである。
「バカ野郎!なぜここに来た!」
「女は邪魔だ!」
「家にいる子供達はどうした!」
「かーちゃん、そんな細腕であぶねーよ!」
男達が様々な疑問や、驚きと怒りが混ざった言葉を投げ掛けると40代くらいのおかん、ナタリアが言った。
「バカはどっちだい?あんた達が死んだらどっちにしろ子供達も死んじまうだろ、あんた達にゃ言ってなかったけど、あたしら子供を産んだ女はな、五年も経てば四大属性全て使えるようになるんだよ」
「「「「「「よ、四大属性全部!?」」」」」
「日々の家事さ、水仕事は水属性、料理は火属性、田畑を耕したり花を育てるのは土属性、それらに必ず必要なのが風属性、だがその力は一人一人強くはない、だけどこれだけの主婦が集まればあんた達のサポートができるんだよ」
おかんたちは水魔法でドラゴンの炎を消し、風魔法でバランスを崩し、土魔法で植物の蔦を使いドラゴンを捕まえ魔族達の中心へと投げ飛ばしたのだ。
男達は開いた口が塞がらない、だがおかん達は更に土魔法で魔族側の足場を悪くし、こちらに向かってくる魔族の進行を遅らせる。
しかしここでおかん達の魔法をいともしないのがサイクロップスだった、10メートル以上はあるサイクロップスはドラゴンよりも強く頑丈な体をもち、水や火の壁、土をもっと強くした岩の壁すらもなんなく砕いてしまい、おかん達までが危機に!
その時風魔法を使い、孤児院のシスターが何人も上空から降りてきた。
「シスター達!?」
「私達は未婚…出産も未経験…ですが子育てなら乳飲み子から反抗期ティーンエイジャーまでほぼ同時に面倒見ております!そして今はもうシスターではございません!マザーの称号をいただきました!」
「そしてマザーの称号をいただくと、今までの子育ての経験から身体強化が使えるようになるのです!」
そう言い、シスターもといマザー達は身体強化で体がムキムキで二倍の大きさになり、サイクロップス達をバッタバッタと倒していく!
それに乗じておかん達と男達が一気に魔族を攻め、人間側が優勢だ。さあこの勢いで城を落とすぞ!と意気込んだが、城に入る前に扉はバタンと勢いよく閉まり城が全部氷始めた。
皆が火魔法で溶かそうとするが溶ける気配は全くない。
「これは…氷属性が作った氷…、これじゃあたし達で太刀打ちできないよ」
「かーちゃん、どういう事だよ?」
「氷は四大属性でも作る事はできる、水と風で温度調節してね、でも最初から氷属性を持ってるものにはかなわない、火属性の上位である炎属性であれば溶かせるけど……誰も炎属性を持ってないんだよ…」
「私にやらせてください!」
その声と同時に前に出て来たのはまだまだ若い20代の誰かの嫁さんだった。
「あんた…確か向かいのリリアさん!?危ないよ、あんた確か家事全般苦手で…」
「確かに家事全般苦手です、皆さんの様に全属性にはなりましたがうまく使いこなせません……だけどもしかしたら……」
「…わかった、やってみてくれるかい?」
リリアは城の前に立ち、手から火魔法を出す、だがその火はもう炎と言っておかしくない程の大きさと激しさ、ここにいるおかん達全員でもリリアのような炎を出す事はできないだろう。
「どういう事だ?なぜリリアが炎魔法を」
リリアの旦那が周りのおかん達に疑問を投げ掛ける。
「あんた…、一緒にいて気がつかないのかい?リリアさんはね、料理が一番苦手なんだよ…何度も教えたのに必ずおかずは消炭に、良くてダークマター、だからもしかしたらリリアさんは炎属性なんじゃと思ってたんだ」
そしてリリアの放った炎は城を包みこみ全ての氷を溶かした。
さあ、魔王を倒すんだ!おかん達!
おとん達の活躍はどこへ……?