撲殺聖女伝
電波が降ってきたので、いまいち進みが悪いウィズプリのリハビリもかねて勢いで書きました。
タイトルが全てを語っている頭悪い感じの話です。
「ねえシスター、ちょっと愚痴に付き合ってもらってよろしいかしら?」
「ええ、どうぞ」
某県潮見市の端っこにあるお嬢様学校、聖心堂女学院。地域に開放される形でその敷地の隅っこに併設された聖心教会。
そこに住み込みで奉仕しているシスター・レベッカ今年二十歳は、今日も今日とて悩める子羊の人生相談に笑顔で付き合っていた。
「……なるほど。婚約者の方からのあたりが最近きつい、と」
愚痴、の名にふさわしく長々と回りくどく、しかもあちらこちらに飛びまくる相談者、桃山花蓮の話を軽く相槌を打ちながら真剣な表情で聞き、サクッと一言で要約するレベッカ。
その内容に、我が意を得たりとうなずく花蓮。
「ええ。それも年度が替わってから急に。何か気に障るようなことをしてしまったのかと省吾様やご家族、お友達などにも聞いたのですが……」
「その御様子ですと、周囲の方も心当たりはなく、婚約者ご本人は聞かれたこと自体に腹を立てている、といったところでしょうか?」
「ええ」
北欧系の顔立ちと南米系を連想させる小麦色の肌を併せ持つエキゾチックなレベッカの美貌に内心で微妙なコンプレックスを抱きつつも、正直に困りごとについて説明する花蓮。
愚痴などと言ってはいるが、なかなか深刻な内容である。
「あの、シスター・レベッカ。シスターの目から見て、私に何か至らぬ点がございましょうか?」
「そうですね。人間、誰しも欠点の十や二十は持ち合わせているものですが、正直に申し上げますと、あなたの場合は悔い改めねばならぬほどとは思えません。イライラしているときなどは気に障ることもありましょうが、そんな時は誰が相手でも気に障るものです。気に障るものなのですが……」
そこまで告げて、澄んだ青い目を宙に向けて少し考え込むレベッカ。
その様子を見て、怪訝な顔をする花蓮。
「あの、何か気になることがあるのでしょうか?」
「あるにはありますが、それはあなたではなく婚約者の方についてです」
「そうなのですか?」
「ええ。詳細は伏せますが、最近似たような話をよく耳にするので、何かあるのかも、と」
「似たような話?」
「大部分は根も葉もない噂話なのですが、立場上詳しく説明できない形で聞くこともあります。おそらく偶然の一致で、あなた方のこともたまたま一過性のものだろうとは思うのですが、変なものに引っ掛かっている可能性もなくはないかも、と」
どう説明すればいいのか迷いつつ、具体性のない内容を口にするレベッカ。
花蓮のほうも良家のお嬢様だけあって、その態度に守秘義務的なものを感じ取ったようだ。
「つまり、私の責任ではない、ということでしょうか?」
「相手の方の話を聞かねば何とも言えませんが、恐らくは。ただ、あなたの知らないところで婚約者の方の意識が変わった結果、今まで気にならなかったことが気に障るようになってしまった、という可能性は十分ありえます。そうであってもあなたが悪いとは申しませんが、神に仕える年長者として、自己反省と自己研鑽を怠らぬようにと一応は注意をさせていただきます」
「ええ、心得ていますわ。本日はありがとうございました」
立場上一応は注意をしてくるレベッカに、どことなく吹っ切れた笑顔でそう告げ、一礼して立ち去る花蓮。
それを見送った後、首から下げているものとは違うロザリオを自室から持ってきて、花蓮が座っていた椅子の前で聖書を片手に何やら始める。
「……今週に入って三件目。年度が替わってからすでに十件を超えたとなれば、いくら未熟な私の探査術でも痕跡ぐらいはたどれますか」
真剣な表情でそう呟き、霊感のないものには見えぬ光の筋を辿っていくレベッカ。
そろそろ日も落ちるため、ある意味絶好のタイミングともいえる。
「今回は、穏便に説得に応じていただければいいのですが……」
望みは薄いだろうなあ、など内心あきらめつつ、レベッカは元凶のもとへと足を運ぶのであった。
「やはりですか……」
光をたどった先にあった光景を見て、思わずため息をつくレベッカ。
そこには予想通り、何者かが行った悪魔召喚の儀式の痕跡が残っていた。
痕跡、などと表現してはいるが、霊気の残滓が微かに残っているとかそんな生易しいものではなく、やるだけやって後片付けもせずそのままほっぽりだしており、証拠隠滅も何も考えていないことは間違いない。
しかも、見るものが見ればわかるが、その儀式は偶然成立した類の出鱈目なもので、プロなら間違ってもやらない類のものである。
つまり、誰かがネットか何かで見つけた儀式を、面白半分で試した結果たまたま条件がそろってしまい悪魔召喚が成立、呼び出された悪魔が好き勝手にやっているというのが、ここしばらく続いた相談事の原因だったのだ。
出てきてすぐに暴れたり見境なく魂を刈り集めたりするタイプではなかったのは不幸中の幸いなのかもしれないが、逆にそういうタイプなら出現したその日のうちに討伐が終わっている。
そもそも、そういうタイプが相手だとたまたま現場に居合わせたか他に手が空いている人員がいなかったかのどちらかでもない限り、対応速度の問題でレベッカの出番などない。
「さて、魔法陣の中に隠れておられる悪魔の方、そんな雑な隠蔽で誤魔化そうとせず、出てきてはいかがですか?」
「やはり、この程度で本職の目を欺くのは無理か」
「というより、私程度に捕捉されている時点で、あなたは詰んでいますよ」
「どういう意味だ?」
「知らないということは幸せなことですね。というより、知っていればこんな地雷原でタップダンスを踊りながら目の前の火薬庫に向かってロケット花火の束を打ち込むような真似はしませんか」
「何を言っている!?」
「分からないなら分からないで結構です。今ならまだ間に合います。せっかくそこまで力を得たのですから、無駄に死に急がずここはお引きなさい」
有名な上位悪魔に匹敵しうるほどの力を持ちながら、驚くほど無知な悪魔。
そんな悪魔を、敵だというのに説得しようとするレベッカ。
神に仕える身でエクソシストでもあるレベッカだが、実のところ肩書きほどの信仰心も持ち合わせておらず、悪魔は絶対に滅するべきなどという過激思想とも縁がない。
そもそも、彼女がかかわる除霊や悪魔払いの類は、大体においてノーギャラのボランティアだ。
説得に応じて引いてくれるのであれば、わざわざ危険を冒してまで仕留める理由もない。
が、悪魔にとってはエクソシストなど不俱戴天の仇でしかなく、今までこの手の交渉が通じて引いてくれたことは一度もない。
もっとも、そういう柔軟性がある連中は神だなんだがごろごろいる潮見という土地で、レベッカごとき小物に発見されるようなミスは侵さなかろうが。
「何を言っているかはわからんが、せっかくおいしい獲物がいくらでも歩いてくる餌場を見つけたのだ。ここで引く意味もなかろうが」
「この土地があなたのような存在にとって、どれほど危険なのか分からないのですか?」
「これだけ時間があって、出てきたのが貴様のような小娘一人。どこが危険なのだ?」
「自分のところまで飛んでこない限り、いちいち蚊やハエを叩き潰しに行かないでしょう? 誰か一人でも出てきた時点でろくなことにならないのですから、今のうちに逃げることをお勧めしますよ、本気で」
「いい加減しつこい!」
何度も何度も引くように告げてくるレベッカの言葉に、馬鹿にされていると感じた悪魔が交渉を打ち切ろうと闇の塊を発射する。
悪魔にとっては小手調べでありながら、殺傷力は下手な銃器をはるかに凌駕し、何より銃弾なんかより圧倒的に速いその一撃を、レベッカは何事もなかったかのようにあっさり回避する。
「何!?」
「やはり聞いてはいただけませんか」
予想外に鋭い動きをするレベッカに、驚愕の声を上げる悪魔。
そんな悪魔の行動にため息をつくと、レベッカは胸の前で祈るように両手を組む。
「主よ、再びこの両手を血に染めることをお許しください」
その言葉と同時に修道服でも隠しきれていないグラマーで肉感的なボディラインを強調するかの如くレベッカの全身が光り、その豊かな胸の谷間から聖痕が浮かび上がる。
浮かび上がった聖痕がレベッカの左右の拳に宿り、足元から吹き上がった風が修道服の裾をはためかせベールを吹き飛ばす。
ベールが吹き飛んだ拍子に三つ編みがほどけたらしく、素晴らしい金髪が風にたなびく。
その場を濃密な神気が包み込み、レベッカの戦闘準備が整った。
「そのようなこけおどしが通じるとでも!」
あまりに強烈な神気に押されて動きが止まっていた悪魔が、気を取り直してマシンガンもかくやという連射速度で闇の塊を射出し、濃密な弾幕を張る。
さすがにこれはかわせまいとほくそ笑んだのも一瞬、レベッカが放った恐ろしい手数のジャブが一発残さず闇の塊を迎撃する。
それもただ迎撃しただけではなく、角度によっては闇の塊を吹き散らしたジャブの衝撃波が悪魔本体をぼこぼこに殴り倒す。
「な、なんだと!?」
「人間を、甘く見ないことです」
散々殴られて驚愕の声を上げる悪魔に対し、懐に潜り込みながらそう告げるレベッカ。
そのまま、先ほどの弾幕などぬるいと言わざるを得ないほどの手数のラッシュを容赦なく叩き込む。
あまりの威力と手数に消滅しそうになりながら、せめて一矢報いんと最後の賭けに出ようとする悪魔。
悪魔の最後の悪あがきに気が付いているのか否か、ラッシュの仕上げとばかりにコークスクリューのストレートでハートブレイクショットを叩き込むレベッカ。
悪あがきを行おうとしたタイミングで飛んできた必殺の一撃に耐えきれず、あっさり消滅する悪魔。
悪魔が消滅したのを確認し、再び祈りのポーズをとるレベッカ。
「主よ、この哀れな子羊に救いの手を」
我ながら白々しいと思いながら、絶対にありえないとわかっている祈りの言葉を告げる。
こうして、誰がやったのかも分からないまま、悪魔召喚事件は表向きは誰にも知られずに幕を下ろしたのであった。
「シスター!」
「あら、今日はなんだかご機嫌ですね。何かいいことがありましたか?」
「省吾様が元に戻ったのです!」
「それはよかった。やはり、たまたましばらく虫の居所が悪かっただけでしたか?」
「そのようです。どうしてあんなに何でもかんでも気に食わなかったのか自分でも分からないと、ものすごく申し訳なさそうにしょげておられまして」
「人間、そんな時もあります」
「そうですね。私も他人事ではないでしょうし、成人したら夫婦になるのですから、病める時、雨の時にこそ受け止め支えあえる間柄になれるように頑張ります」
「まだ人生長いのですから、あまり気負わずにお二人のペースで進んでくださいね」
「はい」
レベッカの言葉に、嬉しそうにうなずく花蓮。
その時、花蓮のカバンの中から呼び出し音が鳴る。
「あっ、省吾様が迎えにいらしたそうです」
「そうですか。それでは気を付けてお帰りなさい」
「はい。シスター、いろいろありがとうございました」
レベッカに見送られて、お辞儀をして帰っていく花蓮。
「……平和ですね。いいことです」
ピタッと止まった不穏な噂と幸せそうな少女の笑顔に、今だけの平穏だと知りつつしみじみそう呟くレベッカ。
シスター・レベッカ。今は亡き南米系マフィアの地下女子ボクシングの元チャンピオンにして、神から聖痕を授けられたエクソシスト。
業界では彼女のことを、畏怖を込めて「撲殺聖女」と呼ぶ。
一応背景設定その他は大体決まっていますが、出オチ全開の一発ネタでそこまでぶっこんでも長くなるだけ、ということでバッサリ切ってます。
潮見市という地名から、私のほかの作品を読んでいただいている方にはフェアクロの日本と同じと察していただけるかと思うので、レベッカがしつこく悪魔に引けと言っていたのはそういうことだと断言しておきます。
なお、今回のサイコロ決定要素は
1.グラマーなエロボディ
2.スレンダーなモデル体型
3.特に語ることのない標準体型
4.エタロリ(巨乳)
5.エタロリ(つるペタ)
からレベッカの体形をサイコロの神様に選んでもらいました。
今のところ連載する気がないので
1.処刑用BGM
2.レベッカ以外の聖心堂女学院関係者
3.レベッカのフルネーム
4.フェアクロとの時系列
は決まっていません。
実際のところ、この作品の場合、導入と事件の内容、敵の仕様が決まればいくらでも書ける類のものではありますが、どうせお祈りしてからラッシュしてとどめ刺すまでの流れは同じなのでマンネリが避けられないという致命的な欠陥があります。
次こそはウィズプリ書かないと……