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第6話『インフィニティ・テラポーション-2』

「くそっ、こう弓矢で戦われたんじゃ『決戦結界』すら届かねえ……。防御力には自信があるがポーションもあと一個……もうあとは時間の問題だ……」


 男の体力は残り五割。短剣使いの男とは違い、弓矢で遠距離攻撃をしても体力の減少は微々たるものだ。だが、先ほどとは違い一対一の決闘だ。二人の攻撃を集中して受けないよう下がりながら戦っていたが数の減った今では積極的に近づける。


「……『クロノスマーキング』っ!」


 左手の短剣を投げ、男の腕に刺す。そして、男の背後に瞬間移動して右手の短剣で斬りつける。男は急に背後に飛んでくるとは思っていなかったらしく、攻撃の対処に遅れる。その隙を逃さず続けてスキルを発動する。


「『黒刻(こっこく)』、『影閃乱舞(えいせんらんぶ)』!」


 それぞれ二連撃、五連撃の暗殺術の近接攻撃スキルだ。だが、二刀流のパッシブスキル『連撃』の効果で物理攻撃系スキルの回数が増加している。男に計十回の攻撃を当て、体力を残り三割強まで削る。


「だが近接戦闘になればこっちのもんだ! 決戦――」


「『シャドウアサルト』っ!」


 背後から男の体を貫通して一直線に突進する。移動距離も長く、MPの消費も少なくクールタイムも短い。気軽に使いやすいスキルではあるがその分、威力が低く男の体力はほとんど変化していない。また、密着状態の至近距離でしか発動できず敵に急接近するスキルと合わせなければまず発動すらできない。


「避けられた……いや、それだけじゃねえ。また、このパターンかっ! 卑劣な奴め……!」


 弓矢に持ち替え移動しながら一方的に攻撃する。

 雪が頬に付き、溶けて水滴になる。どうやら次のエリアに移動したようだ。『氷弾審判地セルシウス』、推奨レベル425だ。もはやここまでくればレベル300も400も変わらなくなってくる。相手のポーションが切れているとするならばあと三分ほどで決着がつくだろう。集中力を欠くことなく粘り強く戦おうとしていたが突如雪が雹へと変わり、体に直撃する。八割を保っていたHPが七割と半分ほどまで減っていた。


「いたっ……! な、なにこれ……」


「うおっ、これ……まさかステージギミックか?」


 どうやら相手も同じように体力を削られているらしい。




「……おいおいなんだあれ」


 エリアの境界線で三人はその状況を見ていた。短剣使いの男が二人のHPを見て驚いている。


「ここに来るのは初めて? あれが『氷弾審判地セルシウス』のステージギミックよ。三秒ごとにエリアにいるプレイヤー全員に最大体力の五パーセントのダメージを与える」


「は……なんだそれ、入るなって言っているようなもんじゃねえか」


「持続回復のスキルもしくはアイテムと合わせてこまめに回復すれば大したことはないよ。ほら、『リジェネレーション』」


 三人に持続回復の強化効果(バフ)が付与される。


「おお、ありがとな。俺も慈愛の技能取ればよかったかもな……」


「大人数のパーティーだったら需要あるけど、二、三人程度の小規模パーティーなら回復はアイテムで火力に専念した方が強いからそのままでいいと思うよ」


「ほーん……この世界のヒーラーってそんな感じなのか」


「ほら、せっかくリジェネかけたんだからこんなところで突っ立ってちゃ勿体ないでしょ。早く進むよ」


「お、おう……」


 無口な少女もコクリと頷き、三人は並んでエリアに入る。




 三秒毎に体力を削られる雹の中、移動しながらの攻防が続いていた。斧使いの男の体力はポーションで回復してもこの雹と遠距離射撃でみるみるうちに削られ、一割を切っていた。さらに周りには白銀のゴーレムがゆっくりと不規則に歩いている。


「はあ、はあ……ステージギミックに周りにはアクティブモンスターか。どうやら俺はここまでのようだな……って言いたいところだがこのままじゃタップスに顔向けできねえからな。相打ち覚悟で行かせてもらうぜっ! うおおおおっ!」


 男が斧を構えて危険を顧みずに突進してくる。このエリアの敵は皆、近づけば無条件で攻撃してくる。上手くその警戒範囲に入らないよう避けながら移動していたが、男はそれを無視して何体ものゴーレムに気づかれている。

 いくらこの黎明の魔眼のステータス上昇効果があってもレベル400を超えたゴーレムたちとは渡り合えない。男がこのまま死んだら周りのゴーレムたちは次に自分を襲うだろう。

 突進の勢いに任せて振り下ろされた斧を受け止めたところで男の体力がゼロになる。青白い魂になるがまだ戦いは終わっていない。このゴーレムたちを振り切らなくては。


「くっ、『ハイド』っ!」


 姿を消し、逃げようとするがゴーレムたちは姿を見失うことなく一直線に追いかけてくる。その数六体。移動速度は遅いがこうも並んで追いかけられればいつか終わりは来る。追手のゴーレムをこれ以上増やさないよう警戒範囲に気を付けてさらに奥に進む。

 青い岩が積み重なってできた天然のアーチを通り抜けようとするが、足が止まる。目の前にはゴーレムの比ではない大きさのドラゴンが立ちはだかっていた。当然、このドラゴンもゴーレムと同じように近づけば襲ってくる。そして、その警戒範囲に――入ってしまった。

 終わりだ。口を開き、その鋭い歯で噛み砕かれる未来が見えた。左腕を前に出して目を閉じる。


「……はあっ!」


 誰かの声が聞こえた気がした。目を開けて自分の体力を確認する。エリアの雹で徐々に削られてはいるものの依然と高体力を保っている。目の前のドラゴンは横たわっていた。自分の目の前には赤いマント羽織った黒髪の剣士が立っている。

 ボクは彼を知っている。


「……やあ、無事かい?」


 彼はほんの少し前に小城で出会ったあの黒髪のプレイヤーだった。

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