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第5話『インフィニティ・テラポーション-1』

「は、ははっ、ほら見たかガラハド。正直に答えてくれるわけねえだろ」


「ああ、どうやらそのようだ。もう残り少ないから必死で騙そうとしているんだろうな! よし、このまま畳みかけるぞ!」


 二人は各々ポーションを飲んで再び戦闘態勢に入る。


「ええ……本当のことなのに……」


 どうやら二人は一ミリも信じていないようだ。


「けど、この目をくれたマスターのためにもボクは負けられないっ!」


 武器を切り替え、短剣の二刀流から弓に持ち帰る。距離を取りながら戦闘技能『弓術』のスキル『ラピッドシュート』で五連撃、さらに距離を放すために『バックステップ』で後方に飛び下がりながら二連撃を短剣使いの男にお見舞いする。いくら回復に余裕があるとはいっても一対二では分が悪い。先に防御力が低そうな軽量装備の者から倒す。

 ラピッドシュートのクールタイムは六秒、バックステップのクールタイムは十秒だ。この二つのスキルを主軸に上手くエリアを移動しながら地道に削っていくしかない。先ほどの結界内の戦闘で位置も入れ替わり道を引き返すことは不可能となった。好戦的な高レベルモンスターに目を付けられれば一気に体力を失うことになるがそれは向こうも同じ。


「これ以上奥に進まれると厄介だな……これで一気に終わらせたいが……『ハイド』!」


 短剣使いの男がまたしても姿を消す。


「ならボクも……『ハイド』!」


 合わせるようにしてハイドを使い、互いに姿を消す。


「退路は断ってやる、任せな! 『イグニスインパクト』っ!」


 天高く飛び上がり斧を地面に向かって振り下ろす。ゴンっと鈍い音が響き渡り地面に扇形の亀裂が入る。亀裂から炎が噴き出し、炎の壁が退路を阻む。これで逃げるという選択肢が失われたが元より逃げる気はない。使用者がこの炎の壁の向こう側にいるということは追いつけるようにするために数秒程度でこの壁は消えるのだろう。

 退路を断ち、ハイドしているボクの位置を絞り込むものだろう。しかし、それは向こうも同じだ。ハイドを看破するためあちらもすぐ近くにいるはず。攻撃を仕掛ければハイドは解ける。そしてその攻撃を外せば自分の居場所だけが相手にバレて状況は不利になる。この一撃を当てて優位な状況に持って行くしかない。


「……ここっ! 『聖炎双陣』っ!」


「な、なにっ!」


 炎の壁から数歩離れ、効果範囲が無駄なく行き届くよう調節する。二本の短剣を地面に突き立てそれぞれの剣から円形の魔法陣を展開する。戦闘技能『二刀流』のスキル『聖炎双陣』だ。二つの陣から白炎が発生し、範囲内の相手を燃やし尽くす八ノ字型の攻撃だ。それに加えて自身の弱化効果も解除する優秀なスキルだ。消費MPは多いがそれに見合うだけの効果はある。といっても、二刀流技能のレベルが低すぎて習得できるスキルを自由に選べなかっただけなのだが。

 炎に焼かれ、ハイドしていた男の姿が見えるようになる。同時に攻撃を仕掛けたことによってボクもハイドの効果が切れ、互いに姿を晒す。そして、退路を塞いでいた炎の壁が消えて斧使いの男が合流する。


「タップス、大丈夫か!」


「ああ、なんとかな……耐久力もそうだが火力ヤバいな……」


 先ほどの攻撃で男の体力を五割まで削ることができた。あとはまた下がりながら攻撃するしかない。


「チッ、また逃げる気か!」


「距離に合わせて即座に弓と短剣を切り替えて攻撃……か。戦い方も初心者のそれじゃねえぞ。いったい、何者だこいつ……」


 左上に表示されているエリアは『絶対零度の跡』、推奨レベルは350だ。エリア表示の色は超危険を表す赤色。エリア名の下には『危険! 推奨レベルと離れすぎています!』と注意喚起のメッセージが表示されている。それでも足を止めない、止められない。さらにエリアを移動する。『極夜の谷』、推奨レベル375だ。谷間を潜り抜け、弓矢で遠くから一方的に射撃する。




「……ちょっと、どこまで行くのよあいつら。このままだと地獄のエリアに着くわよ……」


 森の入口からずっと戦況を見ていた二人。すぐに決着がつくだろうから遊び感覚で戦いを見ていたが、その戦いはもう四十分の激戦にまで変わっていた。一向に終わらない戦いに飽きるかと思いきや戦いが長引けば長引くほど勝敗が気になって仕方がなかった。そうさせたのは間違いなくあの謎の低レベルプレイヤーだ。

 格上のレベルの男たちを相手に互角、いや優勢にまで持ち込んでいる。見たこともない装備に初心者とは思えない手馴れた戦い方。


「さすがに弓矢相手に遠距離攻撃がないのはきつそう……。スゥの銃なら余裕なのにね」


 弓の射撃に成すすべなく男たちはただ走るのみ。移動しながらの射撃は速度が若干落ちるため、男たちは三回目の射撃で追いつくことができるがハイドと短剣に切り替えた近接戦闘で少年に振り回されている。ついには短剣使いの男のHPはなくなり、青白い魂の球体となって力尽きる。


「あ、一人やられちゃったみたい。これはさすがに決着ついたかな?」


 もう走り続けながらの観戦も終わりだろうと思っていたのも束の間、再び戦闘中の二人は走り出す。


「……まだまだ続きそうね」


 道中で先ほど倒された男の青白い魂を発見する。いわゆる死亡待機状態というものだ。この状態でできることはその場に留まり続けて辺りを見回すか即座に街に帰るかの二つしかない。また、死亡してから五分経過すると自動的に街に戻される。

 このゲームにおいて死にデメリットはない。だが、最寄りの街からここまで移動するのに約一時間半もかかる。公共の移動手段や生活技能『操縦』による車での移動であればさらに短くなるが、前者に関してはこのエリアは通らないし、後者に関してはレベルが高くなければ話にならない。

 そんな苦痛を味わわないための手段ももちろん存在する。それは、街に戻らない、つまり蘇生だ。


「まあ、観戦料として蘇生くらいはしておきますか……。『リザレクション』っ!」


 戦闘技能『慈愛』にのみ許された蘇生魔法。男の魂が黄色く輝き、人の姿に戻っていく。


「おお、あんたヒーラーだったのか。助かったぜ、ありがとよ」


「どういたしまして。でも、一度死んだんだから今更乱入するのはなしよ」


「ああ、わかってるさ。ここで相棒の勇姿を目に焼き付けておくさ」


 一対一の決闘を観戦する三人の横を何者かが通り過ぎる。


「な、なんだあ?」


「あれは……」


 伝説等級アイテム『王者の赤マント』を羽織ったその背には見覚えがあった。いや、実際に見たわけではない。ネットで彼の名前を検索すれば嫌というほどその画像が出てくる。

 彼のキャラクターにカーソルを合わせてクリックし、画面中央上に表示される名前を見て驚く。自分は幻覚でも見ているのではないかと。


「オルト……! なんでこんなところに……!?」

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