第18話『テイム完了』
テイムが完了したのを確認すると即座にガラハドの下へと駆けつける。まだ魂は残っている。急いでメニューからアイテム欄を開き、ウィンドウいっぱいに並ぶアイテムの行列から『不死鳥の羽根』を選択する。それをガラハドの魂の上に乗せて復活させる。
「おお……ノア、ありがとな。蘇生の待ち時間が残り五秒だったからもうダメかと思っていたところだ」
辺りに点々と散らばる四つの魂。そのうちの一つ、セラフの魂はオルトが復活させている最中だ。その光景を見てガラハドが何やら深刻そうな顔をする。
「復活させてもらったことは感謝しているが、いいのか?」
「いいって……?」
「いや、『不死鳥の羽根』って市販でも他プレイヤーとの取引でも超高い価値が付いているだろ。当然、俺たちはそんなアイテム持っていないしレベル500超えのベテランプレイヤーでも一つ、二つしか持っていない貴重なアイテムだ。それをせいぜい三時間程度しか会ったことのない俺たちに使っていいのか?」
ガラハドは自分の胸に手を当てる。
「それに、俺は今日だけで不死鳥の羽根を使ってもらったのは二回目だ。蘇生される度に申し訳なくて胃が痛くなるんだよ」
「不死鳥の羽根なんてまた作ればいいだけだから気にしないでよ。それに、仲間を助けるのに道具を選ぶ必要なんてないから」
ガラハドはその返答に何か戸惑っている様子だった。
「お、おう……そうか。ノア、お前なんかこの戦闘で変わったな」
「……え?」
「いや、気にしないでくれ、その方が俺も接しやすい。さあ、他の奴らを助けに行こうぜ」
「う、うん」
結局何のことだかわからずガラハドについて行き、他の仲間も同じように不死鳥の羽根で蘇生させた。
「――ふう、終わった終わったあ。はあ、超疲れたぜ」
タップスが大きく背伸びをする。セラフがボクとオルトの前に立ち、丁寧にお辞儀をする。
「またあなたたちに助けられたわね。ありがとう」
その隣でスゥも頭を下げる。
「いや、それを言ったら俺たちも助けられたよ。礼を言うのはこちらも同じだ、ありがとう」
オルトとセラフは互いに笑い合い、信頼の握手を交わそうとしたとき、それを遮るようにしてタップスが二人の間に立つ。
「そうそう、俺にも感謝してくれよ。あと、勝負は俺の勝ちだぜ」
「え、勝負……? ……あっ! そんなくだらないこといつまで覚えて……。それで結局、あんたが破壊技能取った理由ってなんだったのよ!」
「くだらないことならわざわざ聞かなくてもいいだろ! おい、引っ張るんじゃねえって、動けねえだろ――」
セラフがタップスの襟を掴んで前後に揺らしている。神官服を身に纏っているとは思えないほど野蛮な行動にボクとオルトはやれやれとため息をつく。ガラハドが二人の肩をポンと叩いて仲裁に入る。
「まあまあ、二人とも落ち着け。あの幻獣をテイムしたんだ。その姿くらいはみんなで拝もうぜ」
その言葉で互いに落ち着きを取り戻し、ボクたち六人は一列に並んでユニコーンを見上げる。当然、戦闘の意志はなく、悠々と立ち尽くしてこちらを見下ろしている。
「あれが……ユニコーン」
最初にユニコーンを見たときも同じ言葉を言ったが今回は緊張よりも希望を感じている。新しいモンスターとの出会いに胸を高鳴らせる。
「……なあ、なんか光ってねえか?」
タップスの言う通りユニコーンの体が光に包まれている。やがてその光は形を変化させ人の形を模すようになる。そして、光が完全に消えたとき、そこに立っていたのはボクと同じくらいの可憐な少女だった。
「――初めまして。私は六幻獣の一匹、いや今は一人と言った方がいいですね。光の幻獣ユニコーンのアニスです。よろしくお願いします、マスター」
透き通る銀の柔らかな長髪、宝石のような蒼の瞳。額には馬の姿で持っていた立派な一角、ふさふさの銀の尻尾が残っている。白い無地のワンピースの裾を持ち上げて彼女は一礼した。
「しゃ……」
皆が口を開けて呆然としている中、セラフが声を出す。その声はひどく震えていた。
「喋ったあああっ!?」
「お……お、お、おいおいおいおい! どういうこった。喋るモンスターなんざ聞いたことないぞ!」
その流れに乗るようにタップスも混乱している。
「……人の姿を模してみたのですが何か間違えているのでしょうか。マスター、私は何か間違えていますか?」
マスター、と呼ばれて手を握られる。
「えっと……どこも間違えてはいないと思うけど……」
周りで四人があたふたしている中、隣に立つオルトが顎に手を当ててユニコーンの少女を見る。
「……驚いたな。ユニコーンが人の姿に、そして人の言葉を話す上に自分の名前まで持っている。さらには他のモンスターとは違う自ら考えて行動し、発言できる意思も持っているとは……」
全員がこの状況を受け入れるのに二分を要した。