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第16話『僅か一分の激闘-1』

「『閃光の矢』っ! ……『ルクセンシア・ブラン』!」


 閃光の矢で十本の黄金の矢を同時に高速で放つ。次の回復に合わせて、ルクセンシア・ブランでユニコーンの足元に大きな一輪の花を咲かせる。純白の花の輝きでユニコーンのシールドを全て削り、同時に俺の体力も全回復する。


「……『ジャッジメント』」


 三秒の詠唱で光属性魔法を発動する。洞窟の天井に一本の黄金の剣が出現する。手を上から下に降ろすと同時に剣はユニコーン目掛けて落ちていく。シールドを失い、体力が一でも削られたユニコーンの攻撃は大したことはない。どれだけ突進攻撃を受けても体力はほぼ変化していない。


「おおっ、すげえぞオルト! これならあと一分くらい余裕で凌げるぜ! いけいけオルト!」


 後ろからタップスが応援してくれているがそう簡単に上手くはいかないだろう。

 攻撃を耐えるにはユニコーンのシールドを破壊し、体力を一でも削らなければならない。それには魔法で攻撃する必要がある。今、俺が使える魔法は審判技能の五つの光属性魔法だけだ。いずれも二十秒から四十秒とクールタイムが長く、そうそう連発もできない。

 こんなことならクールタイムが短いお手軽なスキルでも取っておけばよかったな。

 回復するユニコーンを前にはあ、とため息をついて後悔する。

 画面下に表示されているスキルアイコンを見てクールタイムを確認する。九秒後に『ヘヴンズライト』が、十一秒後に『閃光の矢』が使用可能だ。この二つは俺が使える魔法の中でもクールタイムが短い方、といっても他の技能も含めた全魔法スキルの中ではクールタイムの長さは真ん中といったところなのだが。

 審判技能のスキルアイコンが並ぶ一番右に数字が表示されていないアイコンがある。使用可能を表すそのスキルアイコンと自分のMPを交互に見てオルトは目を閉じ、覚悟を決める。


「……MPはまだある。これを使うしかないみたいだね……」


 剣を上に掲げ、集中する。目を開き、真っ直ぐにその剣をユニコーンの額に振り下ろす。


「……『フリューゲルファルナ』」


 その剣が直撃した瞬間、空洞内のあらゆる時が止まる。

 敵単体に攻撃を当てることで発動する剣術技能のスキル『フリューゲルファルナ』。その効果は自分が参加している戦闘に関わる自分以外の全対象の時を止める。時が止まった空間で一撃、二撃とユニコーンに斬撃を浴びせる。剣術技能のスキルの中で最多の攻撃回数を誇るスキルだ。その回数は十二回。

 今やシールドの値が体力の一割にまで増えたユニコーンの白いゲージはこのスキルを以てしても四分の三程度しか削ることができない。だが、このスキルの強みは別にある。

 時間停止の空間の中で続けてスキルを使う。使うスキルは審判技能のスキルアイコンが並んでいた中で唯一使用可能であった魔法。


「これで繋ぐ! 『ヘメラシュトラール』!」


 この魔法は審判技能の中で最も強力でかつ、消費MP量が同威力を誇る他のスキルと比べて少ない。だが、詠唱時間が五秒で敵に接近しなければ使用できないという大きな欠点を抱えたスキルだ。敵の前で攻撃を受けずに五秒間詠唱するなど最前線で活躍できるほどの優秀な壁役がいなければ普通は不可能。しかし、この空間でならそれが可能だ。フリューゲルファルナのもう一つの効果はこの時間停止空間で二倍のMPを消費してスキルを繋ぐことができる。その際、詠唱が終了し、スキルが発動するまで時は止まり続ける。

 時が止まった空間で五秒の詠唱を完了し、再び時が進みだす。

 地面に手を当て、光の柱でユニコーンを打ち上げる。打ち上げたユニコーンは前方に飛んでいき、着地点を狙って再び光の柱で打ち上げる。その後も同じように打ち上げて遠く、さらに遠くに吹き飛ばしていく。

 自身の目の前から前方に向けて光の柱を五本打ち上げる。光の柱は順番に昇っていき、対象にヒットするとその対象を斜め上に打ち上げる。打ち上げられた対象はその後の光の柱による攻撃が確定でヒットする。自身に一番近い場所で相手にヒットすれば確定でその後四本の柱が相手を打ち上げる最大五回ヒットする光魔法、それが『ヘメラシュトラール』だ。また、ヒットした回数に応じて味方全体の弱化効果を解除することもできる。

 扱いづらい魔法なだけあって、最大回数ヒットしたときの威力は絶大だ。ユニコーンのシールドを全て破壊し、シールドのない状態では魔法攻撃でダメージを与えにくいにも関わらずHPを一割削ることができた。


「なんだ、今のはよ……。あんな技の組み合わせ方なんてありかよ……」


「すごい……」


 タップスとノアはその光景を見て驚きの声をあげる。

 確かに今までで一番ユニコーンの体力を減らした大打撃を与えることはできたがそれでも一割。三秒もすればまた回復されて何もかも元通りだ。それに、時を止めていたから魔法のクールタイムも未だ間に合っていない。ユニコーンが回復するまでの間、あと三秒の猶予があるとしても『ヘヴンズライト』が使えるのはあと六秒後だ。

 もう魔法攻撃は使えない。しかし、今俺が使える最強の物理攻撃『フリューゲルファルナ』でもシールドを半分しか削ることができない。物理攻撃によるゴリ押しは通じないだろう。最低でもあと二回、全回復したユニコーンの攻撃を凌がねばならない。一撃であれば耐えられるだろうが二撃目ともなれば……。


「……おい、オルト。どうしたんだ?」


 全回復したユニコーンを前にして棒立ちになっている俺を見てのことだろう。後方に下がっていたタップスが心配して歩み寄る足音が聞こえる。


「いや……なんでもない」


 ノアだけではない。タップスやスゥも一人で守らなければならない。これ以上、仲間を失うわけにはいかないのだ。ひとまず不安にさせないように首を振って隠し通す。


「どうした、何か策があるのか? もうすぐユニコーンの攻撃が――」


 言い終える前にユニコーンは既に行動していた。神々しい光に包まれたユニコーンは立派な一角をオルトに向けて地面を蹴る。

 元より一人では耐え切れないのはわかっていた。残り五十秒。無防備な状態でユニコーンの攻撃を受けてもあと六秒程度の時間しか稼げないだろう。最後にこちらに走ってくるユニコーンの姿を目に焼き付け、そっと目を閉じる。

 異変に気付いたのはすぐのことだ。左上に表示されている自分のHPゲージが変化していない。いったい何が。目を開けるとスゥが俺の前に立ってユニコーンの攻撃を受けていた。スゥのHPゲージは全て黒に染まっていた。


「スゥ……!」


 スゥは手をこちらに伸ばす。その手を掴もうとしたがスゥは伸ばした手を握り、その拳で俺の頬を殴った。


「……えっ?」


 何をされたのか理解できず思わず驚きの声をあげてしまう。スゥはしばらくして青白い魂の状態となる。


「はあ、なるほどな……クールタイムで魔法が使えなかったってことか。スゥは全部気づいていたんだな」


 後ろからため息交じりに納得する声が聞こえる。振り返るや否やタップスに襟を掴まれ、タップスの身長に並ぶように膝をつかされる。


「なあオルト、確かに俺たちはお前と違ってレベルも低いし、経験や知識もない。けどな……」


 そのまま襟を引っ張られ、タップスの頭突きを受ける。


「俺たちは仲間だろ! 困ったら頼れ、実力があるからって一人で何もかも抱え込むんじゃねえ! それに、お前が思っているほど俺たちは弱くねえぞ!」


 襟から勢いよく手を放され、尻餅をつく。タップスは短剣も構えずにユニコーンの前に立ちはだかる。


「――よく見とけ、オルト!」

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