第15話『絶望の四分半-2』
右下に表示されている藍色のタイマーを見る。
「……残り四分か」
このタイマーはゲーム内にあらかじめ用意されているもので、ノアがテイムを開始したときにあらかじめセットしておいたものだ。
ようやく四分。いや、まだ四分だ。
ガラハドとセラフが欠け、残っているメンバーは全てアタッカーだ。俺とタップス、スゥでテイムして無防備な状態になっているノアをあと四分間、守り切らなければならない。
スゥが仕掛けた罠は残り六つ。罠の内訳は移動不可が一つ、麻痺が二つ、暗闇が二つ、そして彼女に一番近い場所に設置されている属性共鳴の罠が一つとなっている。属性共鳴という状態異常は他の三つと違い、相手の行動を制限する効果はない。属性付きの攻撃を相手に与えた際に自動的に発動するものだ。
ユニコーンが麻痺の罠にかかる。思うように身動きが取れず、突進しようと足を蹴ろうとするが痺れて動いていない。残りの罠は五つ。
二秒ほどで麻痺が治ると今度はユニコーンが暗闇の罠にかかる。視界を奪われ、敵がどこにいるかもわからずあたふたとするユニコーン。その攻撃を避けるのは容易い。これも二秒ほどで効果が切れる。そして、残りの罠は四つだ。
「タップス!」
「おう!」
タップスは詠唱を開始する。だんだんと赤い魔力の粒が彼に集まっていく。四秒の詠唱時間でその魔法は完成する。
「よし、行くぜ! 今俺が使える最強の炎魔法だ……『インフェルノ』!」
発動した瞬間辺り一帯が溶岩の海と化し、アーチ状の炎がユニコーンを焼き尽くす。HPの七パーセントほどを占めている白いゲージが残らず吹き飛び、ミリ単位の変化ではあるが赤色のゲージを減らした。ユニコーンを覆っていた光が消え、突進攻撃を受けるも俺の体力はほとんど変化していない。
「……よっしゃ! 次の魔法まで頼んだぜオルト!」
「ああ!」
頷き、目の前で立ちはだかるユニコーンを見上げる。タップスが必死で削った体力も三秒もすれば全回復し、HPの七パーセント強のシールドを獲得する。どうやら今度は回復の間隔が短くなっているのではなく、シールドの量が増えていっているようだ。
「ユニコーン……まさかこんなに厄介な幻獣だったなんてね……。でも、俺たちも負けるわけにはいかない!」
剣を右上から振り下ろし、続いて左上から振り下ろす。剣術技能で最初に覚えるスキル『クロススラッシュ』だ。ただ相手を二回攻撃するという単純な技だが、単純故にクールタイムが短く消費MP量が少ない。レベル850の攻撃力と二番目に高いレアリティである英雄等級の片手剣、『霊剣ホロウブレイブ』の攻撃力を合わせてもユニコーンのシールドを半分しか削ることができない。
「硬いな……」
俺よりレベルが低いタップスの魔法で大幅に削ることができたが、俺の斬撃はその半分以下のダメージしか与えられていない。だが、シールドを獲得する以前はスゥの攻撃はある程度削ることができていた。つまり、ユニコーンはシールドを獲得している状態では物理攻撃に対して強く、シールドを獲得していない状態では魔法攻撃に対して強いということだ。
「そういうことなら……『ヘヴンズライト』!」
光の柱が自分とその周囲を包み込む。審判技能は主に光属性の魔法攻撃を扱う。魔法攻撃力はあまり上げてはいないがユニコーンのシールドを削り切ることはできるはずだ。案の定、ユニコーンの白いゲージは全て無くなり、一割の半分にも満たない程度だがユニコーンのHPも減らすことができた。
ユニコーンが回復するがそれと同時にタップスの火属性魔法がユニコーンのシールドを吹き飛ばす。
「へっ、どうだよ俺の破壊魔法『ゼクスルージュ』を味わった気分はよ!」
だがそれも三秒もすればまた全回復する。ゆっくりと休む暇もない。ユニコーンが再び動き出そうとするが体に電気が走って上手く身動きが取れていないようだ。麻痺の状態異常、誰がやったのかは誰もがわかっていた。
「スゥ!」
スゥは親指をぐっと立てている。スゥも狩人技能のトラップスキルが使えるようになればすぐに設置しているようだ。三人でノアの前に立ち、順調にテイム中のノアを守っていく。だが、スキルを使用するにはMPを消費する。当然、そんな戦いは長くは続かなかった。
タイマーは残り一分を切ったところ。左に表示されているパーティーの情報を見れば二人が限界に近いことはわかっていた。スゥのMPは残り一割、タップスのMPはほぼゼロに等しく何のスキルも使えない状態だ。俺のMPも半分を切っており、ここから一分間ユニコーンの体力を削り続けることは難しい。
「……はあ、くっそ……もうマナポーションもゼロだ。悪いがもう魔法を撃てそうにねえ……」
タップスは膝に手を乗せ息を切らしている。スゥも申し訳なさそうに首を振る。
「……わかった、二人ともありがとう。ここからは俺が何とかしてみせるよ」
無理だからといって簡単に諦めるわけにはいかない。汗を拭い、光り輝くユニコーンに一人で立ち向かう。