第14話『絶望の四分半-1』
「……っ! 『風塵神威』!」
背を向けてユニコーンの突進に気づいていないタップスを庇い、強化されたユニコーンの攻撃をセラフが受ける。壁役のガラハドが一瞬でやられた攻撃だ。いくらガラハドよりもレベルが高いといっても回復職のセラフが耐えられるはずがない。だが、セラフのHPは二割ほどしか減っていない。
「耐えた……?」
「あれは『棒術』技能のスキル、『風塵神威』だ。最大体力の20%を消費することで十秒間、次に受ける攻撃を無効化し、無効化してからも二秒の間無敵状態になって一切の攻撃を寄せ付けなくなる」
オルトが解説している間にもセラフは続けてスキルを使う。
「まだよ……! 『紅蓮舞』、『円波』!」
杖に炎を纏わせて二回、炎が消えた後一回転して合計三回ユニコーンに攻撃する。一回目の攻撃はユニコーンの周りを包んでいる黄白色の障壁に弾かれ、二回目の攻撃でその障壁を砕く。三回目の攻撃でユニコーンの体力を減らして強化を解くことに成功した。だが、すぐにその時はやってくる。ユニコーンの角が輝き体力が全回復し、さらにシールドを得る。
「はあ……、ここまでね」
全回復した状態でユニコーンは突進の構えを取る。もちろん、狙っている対象は一番前にいるセラフだ。その力を前に成すすべなくセラフはため息をついて振り返る。
「聞きなさい、タップス」
「な、なんだよ……」
自分を庇ったせいでセラフが死ぬ。自分の不甲斐なさに怒りを覚え、タップスは拳を強く握りしめる。
「今が――『そのとき』よ」
ユニコーンに突き飛ばされる直前、それだけを残してセラフは青白い魂となった。
「……っ!」
タップスは唇を強く噛み締め、光り輝く幻獣を見上げる。
「お前……よくも俺たちの仲間をやってくれたな……!」
「タップス、ひとまずあいつから逃げないと! ここは抑えるんだ!」
「オルト……悪いが俺はあいつを焼き殺さねえと気が済まねえ。ガラハドもセラフも、あのチート野郎に殺られたんだ! こんな怪物を生み出して運営は何を考えてんだよクソっ……!」
「タップス、気持ちはわかるけどこの状態じゃ何もできな――」
オルトはタップスの肩を抑えて必死で止めているがタップスは聞く耳持たず、肩を振り解こうとする。その二人の間を銃弾が通り過ぎる。その銃弾はユニコーンの横を一直線に通り過ぎ、洞窟の岩壁に着弾する。明らかにその銃弾はユニコーンを狙ったものではない。
「スゥ……?」
銃弾を放った主であるスゥの方向を見る。すると、スゥが銃口を下に向けて小さく頷いた。何かを示しているようだ。よく見ると、スゥとユニコーンの間の地面に何か魔法陣のようなものが描かれている。その魔法陣は間隔を極限まで狭め一直線に並ぶ。
「そうか……! ノア、タップス、急いでスゥのところまで下がるんだ!」
「は、はい!」
その言葉に従い、ユニコーンに背を向けてスゥの方まで走り出す。
「だが俺は……ってうおおおおっ!」
頑なに逃げようとしないタップスの袖を掴み、砲丸投げの要領で遠くに投げ飛ばす。放物線を描いて高く飛んでいき、スゥの足元に頭が突き刺さる。オルトも投げ飛ばすと急いで走り出す。ユニコーンは背を向けて走るオルトに狙いを済まして突進の構えを取る。
オルトのいる位置はユニコーンとスゥのちょうど中間。暗殺術技能の『疾走』を持っていないオルトが追い付かれるのは時間の問題だろう。
ユニコーンが地面を蹴り、光り輝く角をオルトに向けて突進する。風を切り、稲妻の如きそのスピードでみるみるうちに距離が縮まる。スゥの下まではあと十歩以上ある。確実に到着するまでに追い付かれ、その角で身を貫かれる。
「くっ、あと少しだ……! あそこまでいけばっ!」
角が背に触れる直前、オルトはヘッドスライディングをする。ずざざざっと地面を滑り、一つ目の魔法陣の上を通過する。
「オルト……!」
手が届く距離でもないはずなのに反射的に手を伸ばしていた。
地面に転がるオルトに狙いを済まして貫こうとするユニコーン。だが、右の前足が一つ目の魔法陣の上に乗った瞬間、地面に描かれたその魔法陣が光り出した。魔法陣から出た淡い光を放つ緑の茨がユニコーンの足に巻き付いて動きを封じる。
「これは……?」
「ふう……なんとか間に合ったね。狩人技能のスキル『バインドトラップ』だ。踏んだ敵を茨で拘束して移動不可状態にする設置型のトラップだ」
狩人技能、その技能を覚えているのはこの中でただ一人だけだ。スゥが両手を腰に当ててふふんと誇らしげに胸を張っている。
「他にも麻痺、暗闇のトラップが張られているみたいだけど短時間の間に同じ状態異常を受けると抵抗されて効果時間が短くなるからそう長くは持たないだろうね。そこで……」
オルトがタップスの肩を叩く。
「タップス、君の出番というわけだよ。君の破壊技能の魔法攻撃であのシールドを貫通するんだ。罠が残り四つになったら詠唱を開始してほしい」
一度、戦線から離脱したのかタップスは落ち着いている様子だ。大きく深呼吸をし、覚悟を決めたその眼差しでオルトを見る。
「……ああ、それはわかったが破壊技能の魔法は全部詠唱時間が長いぞ。一回目はこの罠で隙を作れているからいいけどよ……二回目となったら詠唱している間に回復されて終わりだ」
「大丈夫、次に魔法を発動するまでの間は俺が時間を稼ぐよ」
オルトはベルトにかけられた漆黒の鞘から剣を抜く。