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第12話『光の幻獣-1』

「いいかい、まずは一ミリでもいいから敵の体力を削るんだ。ユニコーンは体力が満タンなら攻撃力が大幅に上昇する。そうなればパーティーは壊滅だろう。だから基本はスゥ、君が遠距離からユニコーンの体力を削ってほしい。お願いできるかな?」


「……うん」


 無愛想な返事だがその目には殺意の込められた静かな炎が宿っている。

 戦闘開始はスゥの射撃で始まる。三発の弾丸を打ち込むがユニコーンの体力はごくわずかの量しか減っていない。だが、それで十分だ。オルトの言った通り体力が減った状態のユニコーンの攻撃は強くない。ガラハドは平然とした顔で角による突進攻撃や光の矢を放ってくる魔法攻撃を耐えきっている。

 ユニコーンを前にオルトに言われたことを思い出す。




「俺たちはHPを0にしてユニコーンに勝つ気はない」


 それを聞いてまず口を開いたのがタップスだった。


「……は? いやいや、嘘つくの早くねえか? 勝算ねえじゃねえか」


「いや、嘘はついていないよ。俺たちは『テイム』でユニコーンを倒すんだ」


 今度はガラハドが意見する。


「待ってくれ。いくらノアの捕獲技能レベルが高いからってボスをテイムするのは無理だろ?」


「テイムはできるよ。だって、幻獣はボスモンスターじゃないからね」


「な、嘘だろ……?」


「ユニコーンのステータスを見てみればわかるはずだ。ボスモンスターには名前やレベルの右に『BOSS(ボス)』の表記があるはずだ」


 オルトに促され、全員ユニコーンのステータスを見る。名前はユニコーン、レベルは600。先ほども見た通りの情報が表示されている。その右には何も書かれていない。つまり、ボスモンスターではないということだ。


「マジかよ……」


「ノア、ユニコーンをテイムするにはどれくらいの時間が必要だい?」


「えっと……」


 テイムは自分の捕獲技能レベルと敵のレベルの差で決まる。レベル差を計算し、数々のモンスターをテイムしてきた経験と知恵から時間を推測する。


「およそ……三十分です」




 オルトとガラハドの後ろに隠れ、テイムを開始する。テイムは捕獲するターゲットを三秒間視界に入れることで開始できる。自分の捕獲技能のレベルと相手のレベルが501以上離れているとテイムすることはできない。

 ボクの捕獲技能レベルは現在249、ユニコーンとの差は351だ。このままでもテイムすることは可能だがその場合の所要時間は一時間を優に超える。ここであるアイテムを使う。革製のバッグから皿に乗った白いオムレツを取り出す。このレベルの差は料理を使って縮めることができる。料理技能レベル247で作ることができる『始聖鳥(しせいちょう)のオムレツ』。レベル差を250縮めることができる最高クラスの料理だ。


「……『テイム』」


 これでレベル差は101。

 画面中央上に表示されている敵対勢力を表す赤色のHPバー、青色のMPバーの下に新たに黒色のゲージが表示される。そのゲージの中には『テイム完了まであと30:00』と書かれている。一秒立つごとにその数字は減っていき、それと同時に黒色のバーが徐々に左から紫色に染まっていく。その変化は目を凝らしてようやくわかるほど小さい。

 赤色のHPバーも紫色に染まる黒色のバーと同じように徐々に減っているが三十秒間隔で右端まで戻っていく。


「これが異常な回復力、か。最初聞いたときは無理だろうと思ったが体力さえ削ってしまえば大したことないな。三十分くらい余裕で耐えられそうだ」


「それは頼もしいね。回復のペースはだいたい三十秒……かな。確かにこの調子なら誰も死なずに無事テイムできそうだ」


 余裕の表情で前線で攻撃を受けている二人が笑い合う。


「回復もほとんど使う場面ないし暇ね……。スゥもスキルで使ったMPが自然回復して元に戻っているくらいだしなんとかなりそうね」


「……うん」


 反応するのが遅いスゥでさえも戦闘中に話すくらいの余裕はあるようだ。確かにみんなが言っている通りこのまま首尾よく進めば何事もなく幻獣ユニコーンをテイムすることができそうだ。


「いいよなお前らはやることあって。たった一ダメージでも与えればいいんだからスゥは詠唱時間なしで安全なところからダメージを与えられるし、あのへなちょこな攻撃ならガラハドは倒れることなんてねえし、おめえは気が向いたら回復するくらいの気持ちでいいんだからよ」


 あくびをしながらタップスはテイム中のボクの周りをうろうろしながら後方に話しかける。今回は奇襲の必要もないし削り切れないのは目に見えているからダメージを無駄に出す必要もない。武器も構えずもはやボクたちが戦っているユニコーンの方を向いてもいない。


「あんたも『破壊』の技能があるんだから幻獣と戦った記念に魔法でも撃っておけば?」


 やれやれとタップスは鼻で笑う。


「ふっ、俺の炎魔法はそんな暇潰し程度に使う魔法じゃないのさ。とんでもないピンチが来たときに使うものなんだぜ」


「とんでもないピンチが来たときには詠唱する暇なんて残されてないわよ。敵の能力を下げたり制限したりする『暗黒』技能はまだあんたに合ってそうだけど、威力が高いわりに詠唱時間が長すぎて大人数のパーティーじゃないとまともに使えないような『破壊』技能なんてあんたには向いてないでしょ。どうして取ろうと思ったわけ?」


「なんで二時間程度しか会ったことないくせに向いてるとか向いてないとかわかんだよ!」


「はあ? あんたみたいな単純バカのことなんて一目見ればだいたいわかるわよ!」


「ああん? だったらいいぜ。じゃあ、俺がなんで破壊技能を取ろうと思ったか当ててみろよ!」


「いいわよ、当ててあげるわ! えっと……」


 数秒、いや十数秒待っても答えは返って来ない。時間が経てば経つほど怒りで下がっていたタップスの口角が笑いで上がっていく。ついには我慢できなくなり盛大に笑いこける。


「ふっ、ははははは! ほら、わかんねえじゃねえか!」


 エスパーでもない限り理由まではさすがにわからないだろう。などと、出会ってから常に喧嘩している二人に言っても意味はないだろう。


「ちょ、ちょっと考えていただけよ! 時間制限なんてないんだから考えさせなさい!」


「くっ、素直じゃねえな……。まあ、いいだろう。ただし、どれだけ遅くてもユニコーンをテイムするまでだ!」


 素直じゃないのはお互いの様のような気がするが。どうやら二人の喧嘩はまだまだ続きそうだ。関わらないでおくことにしてユニコーンの前で戦う二人の方に近づく。


「……なあ、オルト。なんかこいつおかしくねえか?」


「……君も気づいたか、ガラハド。今は二秒、三秒程度だが回復の感覚が早くなっていっている。残り二十七分、このままさらに加速していくようであれば……」


 オルトの額から一滴、汗が流れ落ちる。ガラハドの目を見て告げられたその言葉は想像もしたくないものだった。


「――俺たちは死ぬ」

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