第11話『フロストプリズン-3』
壁や床に埋まった水晶が自ら光を発している。羽を含み体が全て水晶でできた玩具の小鳥のようなモンスターを倒しながら洞窟の中を進んでいく。
「ふう、回復魔法が身に染みるぜ。やっぱ魔法のエキスパートといえばエアーだよな」
作戦は順調だった。オルトが審判技能の魔法で敵にダメージを与えつつガラハドを支援、体力が減ればセラフが回復、スゥが遠距離から二つの銃で攻撃し敵の左からタップスが、右からボクがハイドで近づきナイフで切り刻む。洞窟内には何体ものモンスターたちが徘徊しているが巻き込んで同時に戦闘しないよう一体ずつ片付けていく。一体であればそれほど危険になることなく二十秒ほどで一戦闘が終わる。
戦闘終了後、傷を癒してもらっている途中でガラハドが呟く。
「公式設定ではそうだけど、実際戦士職のエアーもいるからそうでもないわよ」
慈愛技能の回復魔法で傷を癒し終え、セラフが一息つく。
「エアー……?」
「ん、ああ、種族よ種族。ゲーム始めたときに選んだでしょ。全部で七種類だったかしら。私はエアー、こいつがスウォート、あなたはハーフアストで他がアルターね」
こいつ、と指を差されたタップスがむっと怒っている。
「ノア、ファンタジー系の小説とかゲームとかしたことは?」
一番前を歩いていたオルトが後ろを振り向く。
「えっと、それなりには」
「実際名前が違うだけでそこまで大差はなくてアルターが人間、エアーがエルフ、スウォートがドワーフ、ハーフアストが半獣人だという認識で大丈夫だと思うよ。他にも獣人のアスト、あとはハーフ系でハーフエアー、ハーフスウォートって感じだね」
長い耳と知恵が特徴的で自然を大切にしているエルフ、小柄な体型と屈強な力が特徴的な鍛冶、工芸に長けたドワーフ、確かに二人を見れば外見の特徴は一致している。
「それにしても種族も用語も知らないのによくあんな動きができるわね……。さすがにまぐれで済まされるようなものじゃないわよ」
「確かにさっきの戦いでも多少のミスはあったけどいい動きしていたね。少なくとも戦闘経験が浅い人の動きとは思えなかったよ。どこで身に着けたんだい?」
「えっと、ゲームを始めたときにパーティーを組んでた師匠がいてその人に動きを教えてもらったんです」
「へえ、俺も先生と呼べる師匠がいたからなんだか懐かしく思えてくるよ。なるほど……師匠か」
それを聞いてオルトは腕を組んで考える。よほど真剣に考えているようでその眼差しはどこか遠い闇の中を見ているようだった。
「……オルト、さん?」
名前を呼んで我に返ったのかオルトは笑って誤魔化す。
「はは、いやなんでもない。ただ、君と似たような戦い方をする人が知り合いにいたような気がしてね。ところで俺のことは呼び捨てでいいって言っただろう」
「ごめんなさい、まだ抵抗が……」
呼び捨てで呼べる人は二年半過ごしたギルドの中でも半数程度だ。
「わかった。いつか友達のように気軽に接してくれる日を楽しみにしているよ」
道中の敵を難なく倒しながら洞窟を進んでいく。下に下に、だんだんと地下深くまで降りていく。水晶の光はより増していく。今まで一方通行だった洞窟もついに大きな空間に続く道を見つける。通路と同じように壁、床に無数の水晶が突き刺さっている大部屋。その部屋の真ん中に何か大きな姿がある。
「――さて、あれが例の子か。元々ここには来る予定だったからある程度予想はしていたけど……」
部屋の前からその姿を覗き見る。白銀の馬、その額には薄灰色の立派な一角が生えている。大きさは現実にいる馬と変わらないほどだが異常なまでの聖の気を感じた。
タップスが口を覆い、気づかれないよう今にも消えてしまいそうなほど小さな声で話す。
「おい、あれ見たことあるぞ……。三年前にVer2.0の大型アップデートで追加されたやつじゃねえか。当時、いろんな攻略サイトで画像と情報が載せられていたはずだ」
「そのレベルで三年前のことを語るってあんたらどれだけプレイしていたのよ」
「これでも俺らは復帰勢で昔は中の上くらいの強さだったんだ」
オルトも唾を飲み込み、頷く。
「ああ。タップスの言う通りあれは三年前に追加され、未だ誰も倒したことのない六幻獣の一体、ユニコーンだ」
「あれが……ユニコーン」
画面中央上に敵の情報が表示される。名前にはその名が、レベルは600。この洞窟、フロストプリズンの推奨レベル475を大きく上回っている。
「さすがにレベル600は勝てねえだろ……。それもあの幻獣だろ?」
「いや、ユニコーンは特殊でレベルの割にはほとんどのステータスが低い。下手をすればレベル100にも満たないほどのステータスだ」
それを聞いてガラハドはオルトとユニコーンの方を交互に見る。
「ん、え? じゃあ、なんでそんな弱いのに今まで倒せなかったんだ?」
「弱いといってもHPと防御力以外のステータスだけだよ。その二つはレベル600の域を超えている。それに加えて一定時間内に削り切れなければHPを全回復される。それ故についたあだ名が訓練用人形」
説明を聞くだけで戦う気がなくなる。と、ガラハドはため息をつく。
「はあ……それで、勝算はあるのか?」
「勝つ、とは少し違うかもしれないけどあるにはある。そのためには君の力が必要だ、ノア」
オルトのその言葉で一瞬、思考が停止する。
「え、ボク……ですか?」
ギルマスから貰った装備があるとはいえそれでも下の方から数えたら早い程度の戦闘能力だ。いったい、そのボクがあの幻獣相手に何ができるのだろうか。