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第10話『フロストプリズン-2』

「侵入不可エリア……? ここはさっき通ってきたばかりのはず……」


 薄紫色の壁を触り、浮かび上がる文字を見てボクは呟く。


「ああ、間違いなく通れる道のはずだ。何かのバグかもしれない。とりあえず運営には報告しておこう」


 オルトはメニューを開き手馴れた動きでウィンドウを操作している。しばらくしてウィンドウを閉じ、辺りを見回す。オルトは侵入不可エリアの障壁で阻まれた方向とは逆、岩のアーチを潜り抜けた先にある洞窟を見る。

 真っ先に即座に街、もしくは自分の家、登録した場所に戻れる『帰還の羽』というアイテムを使おうとするが『使う』というコマンドが灰色となって表示されている。つまり、この壁を通り抜けることもできなければアイテムで家に戻ることもできないということだ。こんな人を閉じ込める悪質なバグがあるのだろうか。

 オルトも同じことをしていたのだろうか、目が合い、オルトは首を振る。


「参ったな。バグにしては『帰還の羽』も使えないから街にも帰れない、わざと死んでも街に帰れる保証もなさそうだ。運営が対応してくれるまでログアウトするっていうのも厳しそうだ。さすがに自分の家や街以外でログアウトするのは危険だし」


「確か外でログアウトしたらキャラクターがそのまま残り続けてモンスターに襲われるんでしたっけ?」


 よく最初の街から出た先にある平原でもぬけの殻になったようなキャラクターが何人もいるのを見かけたことがある。


「アクティブモンスターがいない穏やかな場所だったらなんてことはないんだけど、この場合はさっきみたいなドラゴンがまた現れて案山子状態の俺たちは焼き殺されて全滅だろう」


「じゃあ、どうするんだ? 直るまでここで籠城作戦か?」


 ガラハドの質問にオルトは首を振る。


「いや、それもありだけど何かのクエストが発生した可能性もある。この先の洞窟に行ってみようと思う。もしかするとそこに脱出するための鍵があるかもしれない」


「よし来た、ダンジョン攻略ってわけだな。死んで逃げるような真似だけは俺のプライドが許さねえ。俺のナイフが火を噴くぜ! ……って言いたいところだがレベル400超えじゃさすがにどうしようもねえよ」


「火を噴くナイフとか聞いたことないわよ。あんた閉じ込められて頭おかしくなったんじゃない?」


「わかんねえだろ。さっきも急に侵入不可エリアの壁が現れたんだ。俺のナイフが火を噴いてもおかしくねえよ」


 先ほどからこの二人は馬が合わないのか何かあればすぐに衝突しているような気がする。喧嘩するほど仲がいいという言葉通りになることを願っておこう。

 オルトはそんな二人を見て微笑ましそうに笑っている。


「ははは、期待しているよ。ダンジョンの方は問題ないよ。レベル500付近までなら五人を守りながら戦える。セラフ、君は確か慈愛の技能を取っていたよね? スキルは何を取ってる?」


「ホーリーライト、ヒーリングチェイン、リジェネレーション、リザレクション、エンジェルソングの五つよ」


 一つ、二つと指で数えながらオルトに伝える。一つの技能で扱えるスキルは五つまで。ボクはレベルが足りないから習得できていないが、一人最大四つの技能を持っているから扱えるスキルは合計ニ十個ということになる。

 セラフの取っているスキルを聞いてしばらくオルトは考える。


「なるほど……それならガラハドも敵の攻撃を耐えられるだろう。俺が一番前、ガラハドはその一歩後ろくらいで敵の攻撃を受けてほしい。セラフ、スゥが後衛、ノアとタップスはガラハドがヘイトを稼いでいる間にハイドで隙を見て攻撃、ハイドが切れたらすぐに退いてほしい」


 四人は頷くがボクはあまり理解することができなかった。


「あの……ヘイトを稼ぐっていうのは……?」


「おっとそうか。戦闘経験がまだ浅いからわからないのも無理はないか。ノア、こういうゲームはどれくらいやったことある?」


「えっと、このゲームが初めてです。あとは幼いときに父がやっているのを見たことあるだけで」


「つまりスラアルが初めてのMMORPGか。それで生活技能レベルカンスト間近っていうのもなかなかすごいな……。ヘイトっていうのは敵からどれくらい憎まれているか。要するにこのヘイトの値が高ければ高いほどモンスターから狙われやすくなるし、低ければ低いほど狙われにくくなるってわけだ」


 流れるように、かつわかりやすくオルトが解説する。


「ガラハドはそのヘイトを集めてモンスターから狙われやすくなるタンク、壁役、盾役ともいわれる役割を担う。いわばモンスターの憎まれ役って感じかな」


「なるほど……」


「もしまだ見たことがないなら『スラアル開拓記!』というウェブサイトを見てみるといいよ。初心者にもわかりやすく書かれているから参考になるはずだ。もちろん、直接俺に聞いてくれてもいいよ」


「スラアル開拓記は私も見ているわ。レベルにあったオススメの狩場とか書いてあるし各種技能のスキルとか詳しく書いてあるもの」


 セラフがオルトの言葉に付け加えて説明する。


「それで、今俺は審判技能のレベル上げの最中だから火力よりもガラハドのサポートにまわる。だから火力はノア、タップス、スゥの三人に任せる。特にタップス、君は敵の攻撃を受けたら間違いなく死ぬ。攻撃よりも回避に専念してほしい」


「へっ、俺を誰だと思ってんだ? 敵の攻撃なんざ三度見れば攻略完了よ。任せときな」


「その自信に甘えて任せるよ」


 タップスのその様子を見てあまりの楽観的な態度に不安になるかと思いきやオルトはむしろ安心している。


「じゃあ、みんな申請送ったからパーティーに入って」


 左上にノア、その下にオルトと表示されていた場所に続くようにセラフ、スゥ、タップス、ガラハドと四人の名前が表示される。四人が加入したことを確認するとオルトが声をかけ、歩き出す。


「……よし、行こう!」


 力、知識、人を引き付けるカリスマ。ボクとオルトは似ていると彼は言ったがそうは思えない。むしろ一番かけ離れていると言っても過言ではないだろう。

 ボクはギルマスに声をかけてもらってギルドに入った。その日からずっと彼女が作った居場所に縋って彼女の後ろを歩いてきたのだ。居場所を作る人というのはきっとギルマスやオルトのような人たちのことだ。ボクは彼のような居場所を作る人になれるとは到底思えない。

 そんなことを考えながら彼の一歩後ろを歩いていた。

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