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第9話『フロストプリズン-1』

 紺色の髪の短剣使い、タップスがこほんと咳払いをして自己紹介を始める。


「じゃあ、改めて自己紹介な。俺はタップス、戦闘技能は暗殺術、破壊、暗黒、闘志、合計レベルは82だ。奇襲に魔法で対集団戦も得意、そしてタイマンもできるオールラウンダーだ」


「オールラウンダーって聞こえはいいけどそれ結局のところ器用貧乏じゃない? 魔法って詠唱中に攻撃されたらキャンセルされるからさっきも遠距離攻撃に対して何もできてなかったし」


「あ、あれは隙を伺ってたんだよ! ハイドして闘志の技能で強化して殴りに行く予定だったんだ!」


「闘志って自分の姿さらけ出すし潜んで戦う暗殺術と相性悪くない?」


「そ、それは……」


 タップスの技能の取り方に神官の少女が文句を言っている。必死に取り繕おうとしているが言えば言うほど墓穴を掘るのみ。タップスの額から流れる汗が止まらない。


「タップス、お前の負けだ。潔く諦めた方がいいぞ」


 こげ茶色の髪をした斧使いの男はタップスを指差して話し始める。


「俺はガラハド、こいつの相棒だ。取っている技能は斧術、槍術、騎士道、闘志のいわゆるタンクだな。合計レベルは81だ。もしパーティー組むことがあったら俺がみんなを守るぜ」


「セオリー通りの壁役だね。俺のギルドにも似たような構成の人がいるから頼もしさは実感しているよ」


「へへっ、最強様にそこまで言われると照れるな」


 ガラハドは照れ隠しに鼻柱を触っている。自分とは正反対の評価を受けているガラハドにタップスは嫉妬の視線を送っている。金髪の長髪をなびかせ、神官服の少女が話す。


「じゃあ、次は私ね。私はセラフ。慈愛、棒術、幻惑、祝福のヒーラーよ。レベルは214。よろしくね」


「棒術……物理攻撃タイプのヒーラーか。面白い構成だね」


「ヒーラーに物理攻撃も魔法攻撃もあるのか?」


 感想を述べるオルトさんの肩に手を乗せ、タップスがセラフとオルトさんに質問する。


「はあ……これだから自分の役割一筋の人は……。パーティー組むことがあったら見せてあげるわよ」


「なんだとう? そんな日は一生来ねえよ! で、さっきから無言のこいつはなんなんだ?」


 タップスが腕を組みながら怒り、彼女の隣にいる銃使いの少女に目を向ける。少女は依然として言葉を発さず体育座りをして会話を聞いているだけだ。セラフが彼女に声をかける。


「スゥ、自己紹介。名前言うだけでいいから、S、U、L、Uでスペースね。わかる?」


 少女は小さく頷き、数秒して、


「……スゥ」


 と一言だけ喋った。


「というわけで彼女はスゥ、私の親友よ。技能は確か……銃火、二刀流、狩人、付与で合計レベルが210だったかな。ずっと無言だったのはタイピングが遅くて単に話せないだけよ。話せる言葉といえば自分の名前と『うん』『ううん』くらい」


「……うん」


 純真無垢な少女が相槌を打つようにしてスゥはただ一言そう言った。


「ロボットみたいだな……って、うおっ」


 突如、放たれた銃弾がタップスの頬を掠め後ろの岩壁に吸い込まれる。


「とまあ、こんな感じで行動とかエモートで何かしら答えるからよろしくね」


 またスゥは小さく頷いた。挨拶の動作や喜ぶ動作など感情を表す動作は全てメニューの『エモート』の欄から呼び出せるようになっている。この動作をエモートやエモーションと言うと聞いたことがある。


「……ゲームじゃなかったら死んでたぞ」


 頬を掠めても傷はつかず、同じパーティーにいたこともあって何事もなく終わる。タップスの顔は青ざめ、額から汗が流れ落ちている。


「さて、後はお二人さんだけだな」


 最後に自己紹介するのはハードルが高い。どちらが先にやるのか目を合わせていると心を読んだのかオルトさんは目を閉じて頷く。先にやっていいという意味だと解釈し、一息ついて自己紹介をする。


「えっと、ノアです。戦闘技能は暗殺術、二刀流、弓術で合計レベルは35です。よろしくお願いします」


 話し終えてまた一息つく。ギルドにいたときも何度か自己紹介はしたが、今でも自己紹介は慣れない。


「それに加えて生活技能レベル999か……。生活技能ランキング一位とはもうさすがとしか言えないな」


「ああ、しかもここにはもう一人別方面での一位がいるんだから俺たちはとんでもない光景を目にしているみたいだぜ」


 男二人は拍手しながら感想を述べ、最後にオルトさんの方を見る。


「俺で最後だね。俺はオルト、『4IIIW(フォーミダブル)』のギルマスをやらせてもらっているよ。技能は剣術、武士道、格闘、審判で合計レベルは850。みんなよろしく」


 やはり大きなギルドのギルドマスターは違う。こういった自己紹介には慣れているようでオルトさんは淡々と話している。それを聞いていつも感想やら何やら言う


「……知っているから特に何も言うことがねえな」


「……そうね。ネットの掲示板で何回も名前とか取っているスキルとか見たことあるくらい有名だもの」


 周囲の反応を見てオルトさんは苦笑する。


「ははは……よく言われるよ。さて、フレンド登録もして自己紹介も終わったところだ。そろそろ解散の時間かな。みんなはこれからどうするんだい?」


「ボクは素材集めの続きを……」


「俺たちは本業も捨てたことだし一度街に戻ってレベル上げの準備をしてくるぜ」


「私たちは元々小城探しのついででレベル上げに来てたから少しエリアを戻る予定」


 ボクを含め、各々目的を話し立ち上がる。オルトさんも立ち上がり一度手を叩く。


「よし、じゃあ解散だね。またどこかで会ったらよろしく頼むよ」


 先にセラフたちが歩き始め、その後ろをタップスたちが、さらにその後ろを歩こうとするとオルトに呼び止められる。


「ノア、ちょっといいかい?」


「オルトさん? どうしたんですか?」


「俺のことはオルトでいいよ。素材集めの後、時間があったらでいいんだけどよかったら話をしないかい? 俺と君はどこか似ている気がする。君とは一度ゆっくり話がしてみたいと思っていたんだ」


「似ている……ですか。ボクは全然構わないですよ。そんな大した話もできないですけど」


 素材集めが終わった後の予定は特にない。断る理由もないので了承する。

 自分たちもアーチの下から出ようと足を踏み出すが前から聞こえてくる驚愕の声に反応し歩みを止める。


「ちょ、ちょっとなにこれ……!」


「いったいなんだ……ってどうなってんだこれ!」


 まだ四人ともここに残っていたようで出入り口のまえで立ち止まっている。何があったのかボクとオルトも駆けつける。


「これは……?」


 アーチの下から出ようとするが薄紫色の障壁に阻まれて前に進めない。障壁の出現と同時に出入り口の真ん中に文字が浮かび上がる。そこには赤い文字で『この先侵入不可エリアです』と書かれていた。

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