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氷華の舞  作者: 楠 冬野
第2章 鬼姫の涙
31/70

31 麒麟と蛇

   -31-

 深く黒い淀みの中に少年は戻った。

 累の力により在り様を取り戻していたが、微睡むようにゆらゆらと揺れるその空間では輝きを取り戻した麒麟といえども確たる姿を一定に留めたままではいられなかった。だから金色の少年の姿は時折り歪む。


 そんな光輪こうりんに話しかける者があった。

 見れば不安定にゆれる暗闇の中に赤く光る二つの目が彼を見下ろすように見つめていた。


「首尾は上々といったところであるな。だがそれでもまだ歪むか。金色に揺れるその姿はまるで闇夜にポツリと浮かぶほむらのようであるな」

「仕方がありません。未だ呪いは解かれておりませんからね」

「しかしよいのか? あのように芝居じみた遠回しな言い方ではかえってゆい様は混乱なされるのではないのか? 麒麟のくせに人が悪いぞ、おっと人ではなかった。ハハハハハ」


 赤い眼の主は揶揄するように大きな声で笑った。


「良いのですよ皇陣こうじん、嘘は申しておりませぬから。それよりもお力添え感謝いたします。唯様とお話させて頂けたばかりか、お陰様でこのように名まで取り戻すことが出来ました。いやはや思わぬ好事でしたよ」

「いやなに、それは構わぬよ。我等は共に唯様にお仕えする者同士。気脈を貸すことなどどうということでもない」

「かたじけのうございます」


 少年が礼を言う。その後、黒い世界で宙に浮いたまま、嬉しそうに自分の四肢の状態を確かめた。

 皇陣の漆黒の巨体はゆらぐ暗黒の中に同化していた。喜ぶ光輪がその巨大な蛇の周りを飛び回ると金色が皇陣の体を照らし所々の金の鱗を星の瞬きのようにキラキラと浮かび上がらせた。


「しかしのう……我にとっては唯様が金色巫女であれ鬼姫であれそれはどちらでもよいことであるのだがな……」

「なにを仰るのですか。ダメですよ。天啓なき破壊など許せるはずもないでしょう。それともまたあの時のように鬼に加担して神薙達と戯れるおつもりだったのですか?」

「いうな光輪よ、古い話しではないか」

「……まぁそのおかげで、あなたはまんまとあちら側であると認識され名を縛られずに済んでいるのですから何が幸いするかわからないものですけどね」

「お、お前こそ一度ならず二度までも封じられよって」

「仕方ないでしょう、巫女様がお力に目覚められておらぬ幼子の状態ではどうすることも出来ないのですから。それにあなたは巫女様が鬼姫となられても姿を顕現できますが、私にそれは叶わぬ事なのですから」

「であるの……」

「とにかく、今回はどうやら巫女様は金色巫女として目覚められました。そう簡単には自我を失い操られる心配は無いでしょう」

「であるの。しかし、ならばお名前だけでも取り戻させて差し上げればよかったのではないのか。さすればこの忌まわしい呪など易々と破れように」

「忘れたのですか皇陣」

「忘れた? 何を」

「桃花の話ですよ」

「おお、それか、いや忘れてはおらぬぞ。しかしあれは必然というものであろう。我らが如何に動こうとも神々がお決めになられた時の流れが変わる事はないと思うのだがの」

「……だからですか」

「ん? なにがだ?」

「一口鬼をけしかけたことですよ」

「おお、それの」

「――今の加茂樹には荷が重いとは思わなんだのですか? それにあそこには赤と白の巫女もおられるとのこと。未だ未熟な彼女達に何かあればどうなさるおつもりだったのですか?」

「時の必然じゃろ?」

「それでもダメです。今の我らに課せられているのは桃花の、あ、この場合は加茂樹のことですが、その加茂樹に時渡りを遂げさせることです。イレギュラーは不安要素にしかならない」

「イレギュラーのう……」

「そうです。何故神々が人に時渡りをお許しになられたかは分かりませぬが、どちらにしても先代桃花の話によれば、それは必然として起こる事であるという」

「であるな」

「神々は千年という時を費やして奴を打ち滅ぼす準備を整えられました。ならばその時が来るまでは筋書きを守らねばなりませぬ。加茂樹と唯様の邂逅とその身に起きる出来事、これはすべて必然ではありますが極力余計な手出しをしてはなりませぬ」

「うむ……であったな」

「間もなく加茂樹にその約束の時が訪れましょう。あとは賽の目が如何様に転ぶかを見定めなければなりませぬ。元来の加茂樹の中に眠る力は奴を打つためのも。しかし最悪に転べば我らで加茂樹のことを滅ぼさねばなりませぬ。その時の鍵こそ我らの主唯様であり唯様の金鬼きんきのお力なくしては加茂樹の討伐は成りますまい」

「――うむう……なんとも面倒なことであるな」

「加茂樹の力に気付きその力を取り込んで神へ成り上がろうとする朱鬼、そして殺戮を悦とする黄玉の戯事と権謀。これらの思惑による道程を逆手に取ったこれは裏返しの一手。これまで数多の者が、幾度となく相まみえては打ち漏らしてきた奴は利口者です。これは今度こそ奴を完全に舞台に引きずり出して屠らんとする唯一無二の策なのです」

「……世界を一度無に帰す方が簡単であるとも思うがのう……」

「皇陣、また心にもない事を」

「――そうだな」


 大蛇がフッと笑った。


「希望と機会が与えられたということですよ。人にも、人に寄り添う我等にも」

「やれやれ、時を捻じ曲げてでも、加茂樹という博打を打ってでもそれを成せとは……」

「それ程の敵だということですよ」

「しかしのう光輪」

「はい」

「鬼を全て滅ぼすなどとは言わんでくれよ。あの者達は陰の者であるが全て悪という事ではない。それにあの者らも節理の一部を司っておるのだからの」

「あははは、皇陣、この私に何を言っておられるのですか、私は麒麟でございますよ。神獣麒麟は憐憫れんびんと慈しみの象徴にございますればそれは杞憂というものでございましょう」

「お前が普通の麒麟ならばこのような心配などせずともよいのだがな」

「ふふふふ、大丈夫でございますよ皇陣。さあ、時が参りますよ、気概をお示しくださいませ皇陣殿」

「フッ、ぬかすな光輪」


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