禁断の果実
助かった…木から落ちながらスライムに念じてみたのだ、空気を含んで膨らむようにと。うまいことクッションになって助かった。それでも結構吹っ飛んだけど。
「ヌシ…何をやったらこんなことになるんじゃ?世界樹が枯れるなど聞いた事もない」
木からかなり離れてしまった、そこにスルスルと蛇が近づいてくる。
「いや…木の実をもいだら急に枯れ始めたんだよ…危機一髪。あっぶねー」
吹っ飛びながらもしっかり木の実は掴んだまま、目的は果たせている。
「身をもいだら枯れた…?もいだところを見た事はないが…枯れるのか…?…まあ良い、無事手に入れられたようじゃからな」
木の実を嬉しそうに眺める蛇、尻尾をクネクネさせている。
「で、この木の実をどうすれば良いんだ?木の実で本当にここから出られるのか?」
「簡単な事よ、その紫色の木の実は『知恵の実』と言ってな。その実を喰らうことでこの狭間の世界には居られなくなる。この世界にとって異物とみなされるんじゃよ。自動的に世界に弾き出される」
この木の実は別の世界から一部が生えてきてしまっているらしい。その実を食べるとその身体が作り変わり、この世界のモノでは無くなってしまうらしい。この狭間の世界に来ている時点で何らかの要因で狭間の世界のモノだと世界に認識されている。だが、別の世界のモノになるとここからは追い出される。との事。
「成る程、って…俺、鎧なんだが…どうやって食えと?」
「ヌシ…自分の身体のことも分からんのか…まあ、それを食ったら分かるようになるから説明は省く。ヌシ…空っぽの鎧と言うておったな。中を開けると核が有るじゃろう。そこに近づけてみい。喰らえるはずじゃ」
「ああ…あの光るホタル石みたいなやつか…よく知ってんなあ」
鎧を外さなきゃいけなさそうだ。えーっとどうやって外すんだっけか。
「ヌシはちょっと違うようじゃが…動く鎧動く鎧系は大体そうじゃからの。ヌシはヒトの魂も混ざっとる上、スライムと繋がっているからよく分からんが多分そうじゃろ…っとそういえばお主、スライムはどうした?」
「確かこうやって…ん?ああ、スライムならクッションになって飛び散ったから、今戻れーって命令してる。終わったら来るよ」
世界樹の残骸近くでウゴウゴとしているスライムがあった。破片を探しているらしい。
「やはり随分と変わっておるのお。そんな事も出来るのか。」
「やってみたら出来そうだったからさ。単純な命令1つ2つなら出来るっぽい。っと開いたっ。ここに近づければ良いんだよな。」
鎧の前部分を外し、中から怪しく光る石が覗いた。相変わらず、黒い靄のようなものが出ている。
「そうじゃ、それでお前の身体が木の実を喰らうことができ、無事に狭間の世界から脱出出来る」
「ほーうっ、それっ」
近づけると黒い靄がツルのように伸び、紫の実は瞬く間に呑み込まれてしまった。
「なんも変わった気はしないけど…?」
「焦るでない、その実が体に馴染むまでちょっとかかるだけじゃ、時期飛ばされる」
「んっ、じゃあ待ってりゃ良いのね、おっスライムも帰ってきた。」
ポヨンっポヨンっと跳ねながら白いスライムが近づいてくる。
「そういえば、お前はここから出なくて良いのか?ここなーんもないだろ?」
「妾はここから出られんのじゃよ、この身体は仮初めのものでな…幽霊みたいなものじゃ、触りも食う事もできん。大体、木の実は1つしか取れんじゃろう。木も枯れてしもうたしのう…後はこの身が消えるのを待つのみじゃ」
少し、寂しそうな声で蛇は言う。何百年もここで1人でここにいて消えるだけ…そう思うと胸が詰まった。胸ないけど。
「まあ、どの道この身体はそろそろ持たんかったのじゃ。この木の実を託せて良かった。遅かれ早かれこれで一矢報いられる可能性がある。ヌシ次第ではあるがの。」
「なんかよく分からんが…お前は無理なのか…残念だな、せっかく会えたのに。っていうか、実は2つ取れたぞ?使い道はないかもしれんが。」
スライムの上には黄色の実が乗っている。木の実をスライムでくるんでいたのが功をそうしたようだ。
「むっ!?何故じゃ!?1人に1つしか手に入れられないはずの木の実を何故2つ手に入れておるっ!?」
「いやーっ、自分じゃ取れなかったんだけどさ、なんかスライムで取ったら取れたんだよね、よく分からんけど。」
「魂のカケラがある事で別個体とみなされたのか?本来この狭間の世界は肉体を持つものは1人しか存在できぬ。よもやこんな裏技があろうとは…だが2つの木の実など例がない…」
「あれ…2つ目は食べられない。なんで?なんか反発してる。」
どうせ蛇には食べられないんならと、2つ目も食べようとしたのだが、黒い靄が近づこうにも、磁石のように反発して食べることができない」
「なんとも面白い事をしでかしてくれる奴じゃのう…じゃがそれはダメじゃ、その黄色の実は『生命の実』と言ってな。その実を作ったものが2つは食べられないようにした。言うなれば理この世のルールじゃ。まさか理にそんな抜け道があるとは思わなかったがの。」
尻尾で木の実をつつきながら蛇は言う。
「そうなのか…なんか身体は欲しがってる気がするんだけどなあ…」
「2つが揃う事で完全になれるからの、じゃが不完全であるからこそ意味があるのじゃ。しかし不完全では完全に及ばぬのも事実。まっこと憎き理よ。」
憎たらしそうに呟く蛇をよそにゆっくりと近づくスライム。うまそうな木の実だと思ったのが原因か、その身体をニューと伸ばし黄色の実を取り込んでしまった。
「あっ」「あっ」
目の前でじわじわと溶けて無くなる木の実。それは溶けてなくなり吸収されスライムと一体化してしまった。
白かった身体は綺麗な黄色い半透明に、そして何故かボコボコとしている。
「何とっ!別の肉体とみなされたじゃと?1つでも2つでもない半端者だからこそ抜けられたと言うことか!?じゃが…反発も起きておる。これなら…いけるやもしれんっ!」
ぼこぼこし始めたスライムに飛び込む蛇、蛇もスライムに溶かされ、混ざり合い溶け合ったかと思った瞬間
ものすごい反発力を感じ、世界の一部が裂け、そこから覗く黒い空間に俺は投げ出されていった。
とりあえず序章終わりです!
次回から本編ですが、大筋以外考えてないのでちょっとずつ書いていきます。
次回から能力とか判明しますが、とりあえず明日どっかで投稿で!