世界樹と蛇と
「おおーっ…でけーっ」
スライムに乗って暫く、木の根元に到着した。10メートルくらい高さの木が生えており、太さもかなりある。なんかてっぺんはほのかに光っているっぽい感じ。
「さて…着いたはいいが…ここからどうすっか」
到着はしたが木以外なーんにもない。情報がなさすぎて目標を見失ってしまった。
「うーんっ…木に登ってみる?高いところからだとなんか見えるかなあ…っつっても鎧だと登りにくそーだし…」
木はあんまり登りやすそうな枝の配置では無く、鎧も見事な金属製のため登れる気がしなかった。どうするか考えていると…
「んーっ?何故こんなところにモンスターがおるのじゃ?ポップする筈もないし…この領域に入れる筈もなかろうて…」
頭上から声が聞こえた。だが誰も姿は見えない。
「お、誰かいるのか?おーい!」
「聞こえておるわ!…お前は何故こんなとこにおる?ここはヒトしか来れぬ筈なのじゃが…」
ズルズルと言う音と共に現れたのは、真っ黒で首のあたりに飾りのような羽が生えた蛇だった。
「今度は喋る蛇か、これ以上疑問を増やすのは勘弁してくれよ…」
太さは人の腕くらい、長さは1メートルちょっとくらいだろうか。
「妾が質問をしとるのが聞こえぬのか?喋れるということは少しは知恵があるかと思ったのだが…」
やっぱり喋っている。こっちも色々聞きたいことがあった所で都合が良かった。
「何故って言われても…気付いたらここに居たんだよ…ってか何で蛇が喋れるんだ?」
「質問しておるのはこっちじゃ!受け答えはできるようじゃが…んん?何か違和感があるのお…お前何者じゃ?とりあえずどうやってここに来たのか話してみよ」
ここに来てから、来るまでの状況、それから色々質問されて自分の事を色々と話した。
「やっとここに来られる者がおったと思ったら…異世界じゃと?うーむそんなこともあり得なくもないかもしれぬが…しかし…一応ヒトの魂は持っているようじゃ…だがガワはどうみても魔物…コレでもいけるか?何百年待ったか分からんし…間に合うかも分からん…そろそろ時間もない…試してみる価値はあるか…」
「何をぶつぶつ言ってんだ?とりあえずここがどこなのか聞きたいんだが…?」
独り言をぶつぶつ喋る蛇、シュールだなーと思いつつも質問してみる。
「ここは…狭間の世界と言うべきかの…とある世界の2つの領域の隙間に存在する世界じゃ。片方には簡単には行けぬが、もう片方の世界には降りることができる。そなたのやってきた世界とは別の世界じゃ。そっちとは何故繋がったのか、どう戻ればいいのかサッパリ分からん」
蛇の説明からするとここはAという世界とBという世界の隙間に存在する世界でAには行けないがBの方には行くことができる。それとは別に俺が居た地球があり、何故繋がったのかは分からないとのことだった。
「異世界…?そんな御伽噺みたいな…って自分がこんなだからなんでもありな気がしてきた。蛇も喋るし」
夢の世界か、死後の世界か、よく分からんが起こっていることは認めないと進めない。
「まあ、そなたもよく分からんじゃろうが妾も分からぬものは分からぬ。じゃが…ここから出る方法なら知っておるぞよ…?」
「さっき言ってた世界のことか?…うーん…その世界について何か知ってる事があったら教えてくれ。
このままここに居ても何も進まなさそうなので質問してみる。ずっとこの空間は流石にキツイ
「妾も何百年か何千年か…長き時をここにおるから分からんのお…ただし…ヌシのおった世界と違うであろうことはいくつかある。」
そこで聞いたのは魔法らしきものがあること、そして何度か世界が滅んでは再生する。という事を繰り返している事だった
「とりあえず…その世界にならいける、近々滅ぶようなことは無いって事は分かった。夢か現実かはともかく楽しそうだ!…どうやって行けばいい?」
「ヌシ…単純じゃのう…まあ、その方が都合がいいか…それにはな、この木…世界樹と呼ぶのじゃが…天辺にある木の実をもいで来る必要があるのじゃ。2つの実がなっている筈、まずはそれのどちらかを取ってくるのじゃ」
「木の実が出るのにどう関係してるのか分からんが…また大層な名前の木だなあ…この鎧の体じゃあ登れる気がしないし…お前が取ってくるわけにはいかないのか?」
「本人が取らねば意味が無いんじゃよ、残念ながら自力で取ってもらわなければならんの」
どうやら自力でしかダメらしい、他に方法は…考えながら後ろのスライムに腰掛けた。
「と言うか、なんじゃ?そのスライムは、本来あるべき核もないし…む?そのスライム…お主と別個体のようで同個体のようじゃのう?繋がりが感じられるし…かと言って魂のカケラのようなものはある…変なやつじゃ…まあ…そんな個体も居ない事もないが…」
スライムの周りをグルグルと回りながら蛇が喋る。
「またなんか言いだした…ってそっかこいつに乗って登れないか?よっと…」
スライムにまたがり木を登るように念じてみる。するとズルズルとスライムは木を登り始めた。
「よっしゃ行けそう!ってナメクジみたいだな…色も近いし」
ゆっくりとだが確実に登り始めるスライムと鎧。
「ほう…ヌシの意思で動くのか、操り人形に近いの。便利そうだが…何じゃろ、スライムに乗る騎士…雑魚臭が半端ないぞ…コヤツに任せたのは失敗だったか…」
そんな事を言っている間にスライムはズルズルと登り、頂上近くまでやってきた。
「これをもいで降りれば良いんだよな、なんかこんな綺麗な実を取るなんて悪いことしている気分だ…」
そこには吸い込まれそうな紫色をした果実と、黄色で太陽のような暖かさを感じる木の実があった
「それはどちらかしか取れぬはずじゃ、どっちでも良い。モイで降りてくるが良い」
どっちかしか取れない、何も考えず、紫色の方をもいで見ると簡単にもげた
「おっこれで良いのかな?ホントだ黄色い方は千切れない…剣でも切れないや」
両方取れるかなーと試してみたが取れなかった。そうなると何も考えずに取ったのが惜しい気がする。
よし、また降りるか、と思ったところでふと思う。スライムなら取れるかなって。
「あれ?両方取れちゃった。ラッキー。ちゃんと持ってろよーさて、降りよっと」
降りようと思った瞬間木がブルっと震えた、みるみる青い葉は枯れ、枝は細くなり、朽ち果てていく。
「おおおお、バランスが…ヤバっ」
細かい指示はスライムに伝える事は出来ない。崩れていく木の中、体制を立て直せない。
“バキバキッ”支えとなる枝は折れ、そのまま真っ逆さまに…
「あ、流石に鎧でも無理じゃね?これ?」
木の実だけはしっかり握りながらスライムと一緒に落ちていくのであった。
予定より文章って多くなっちゃいますね…
次回で序章は終わり、ようやく本編に入れそうです。