第9条 勝手にあだ名をつけてはいけません!
親玉の後について建物の外に向かうと他の男たちもぞろぞろとついてくる。
外は森に囲まれた場所だった。
振り向いて自分が今までいた建物を見ると、茅葺の屋根の上に千木や鰹木がのっており、やはり神社のような建物だ。
社の前から続く道を歩くこと数分。
集落が見えてきた。
建物はどれも木造で、中には壁に穴が開いているものまであり、一目見て貧しい集落だとわかる。
しかし、雰囲気は日本の田舎のようで、見かける人々も汚く古めかしい服装だが日本人のようだ。
本当に別の世界なんだろうか。
どちらかというとタイムスリップしたような気分になってきた。
どんどん歩いていく親玉に続いて、集落の中でも割とマシな家の中に入った。
親玉に促されて部屋の奥の敷物の上に座らされると、私の前に親玉をはじめとした男たちが座る。
「ナカトミ様どうぞお楽になさって下さい」
「私は何をさせられるんですか?」
さっき彼は、私が村のために働くようなことを言っていた。
「神はあなたが村と社のために働いて下さるとおっしゃておられました」
「それ以外のことは、わたくしも何も聞いておりません」
どうやらあの女神は私にこの村のことを丸投げしたようだ。
「そんなこと言われても、私は勝手にここに連れて来られただけで、なにもできることは……」
私の発言が期待と違ったせいか、男達がざわめき出し、視線が私に集まる。
さっき男達に囲まれた恐怖を思い出して背筋が凍る。
余計なことを言ったかもしれない。
私の怯えを察したのか、親玉が男達を睨みつける。
すぐにざわめきが収まり、男達は顔を伏せた。
やはりこの親玉が彼らのトップのようだ。
「ともかく、今日のところはここでお休み下さい、食事は後で運ばせます」
そういうと、親玉達は家を出ていこうとするが、こんなところで一人にされても困る。
呼び止めなくては。
「ちょっと! 親玉さん!」
なんと呼べばいいかわからず。つい、勝手につけたあだ名で呼んでしまった。
自分のことだと気づいたのだろう、親玉が振り向いた。
「わたくしはナシメと申します、ご用があればお呼びください」
それだけ言うと、ナシメは家を出て行ってしまった。