第8条 私の名前言いましたっけ?
正直、どうしていいかわからなかった。
部屋に入ってきた男たちは私の前にひれ伏したまま動かない。
それに、この人たちは今なんと言った?
私のことをナカトミ様と呼んだような気がするけれど。
とにかく、動こうとしない男たちを見る限り、この状況は私が動かなければ変わらないらしい。
「あの、あなた方はどなたですか?」
意を決して尋ねてみる。
この様子からして、悪いようには扱われないだろう。
男たちは顔を上げてお互いの顔を見合わせる。
ほどなく、男たちの中でもひときわガタイの良い、いかにも親玉という感じの男が一つにじって前に出て来た。
「わたくし達はこの村の者で代々社を預かっております。昨晩、わたくしの夢の中に女神が現れ、明日の朝に客人が来られるから丁重におもてなしするようにとおおせつかり、こうしてお迎えに上がりました」
親玉然とした男は思いのほか丁寧な話し方で、私に今の状況を説明してくれた。
意外とまともな人なのかもしれない。
それに、夢に出てきた女神というのは私が会った女神と同じ神だろう。
私がこの世界で困らないように取り計らってくれたということだろうか。
とにかく、身の危険を感じる必要は無さそうなので安心した。
「ナカトミ様、ともかく外へどうぞ」
「私はナカトミという名前ではありませんが」
安心した私は、気になっていたもう一つの疑問も聞いてみることにした。
「女神はこうも言いました、客人は今後、社と村のために尽力してくれると、人と神の間に立って働く者を我々はナカトミと呼んでおります」
親玉はそう言うと立ち上がり、外に出るよう促してきた。