第6条 ゆるふわガールなんて嫌いです!
気が付くと私は光の中にいた。
あたり一面真っ白で、乳白色の光に満ちている。境目がわからず、周囲が壁なのか、空間が果てしなく広がっているのかもわからない。
きょろきょろとあたりを見回していると、不意に背後で人の気配がした。
驚いて振り返ると、顔が柔らかいものと衝突して、相手の弾力で弾かれる。
よろめいて2、3歩後ずさりながら、顔をあげると、そこには長身の女性が立っていた。
女性はゆったりとウェーブのかかった金髪で、ギリシャの古代人のような布を体に巻き付けている。しかし胸元は無防備に大きく開き、豊かな谷間をのぞかせていた。
私はあれにぶつかったのか。
なんとなく不愉快な感情が沸き上がってきて、女性をねめつけた。
しかし、目の前の女性は私の視線など意に介した様子は無く、にこにこと聖母のような微笑みを浮かべて私に話しかけてきた。
「ようこそ~、私たちの世界に~」
「とーいところからよく来てくださいましたぁ」
「ここは?」
「ここはぁ、あなたが住んでいた世界の隣の世界ですー」
「あなたの世界の神から~、あなたを私たちの世界に移住させて欲しいと言われたのでぇ、この世界の女神である私が迎えに来ました~」
なにが楽しいのか、自称女神の女性は満面の笑みで説明してくれた。
しかし、間延びしてるうえに、なんとも癪に障る喋り方だ。
男に媚びを売っている時の同僚を思い出す。
「これからぁ、あなたにはぁ、私の神社で暮らして貰いますねー」
よくわからないが、私は二人の神によって、異世界に移住させられそうになっているらしい。
うちのご祭神が、私の願いをどう勘違いしたのか知らないが、こんなムカつく女神の神社など願い下げだ。
元の世界に返してもらおう。
「ねえ、女神様」
「なんですか?」
「元の世界に返して欲しいんだけど」
女神はなにを言われたのかわからないというように、私の顔をしばらく眺めてから。
「それは無理です~」
と、相変わらずテンポの悪い話し方で答えた。
「何でよ! 神様ならできるでしょ?」
「だって、私にそこまでの力はないですからぁ」
「あなたがこちらに来られたのは、向こうの神様の力なんでぇ、私があなたを戻してあげることはできませーん」
「じゃあ私はあんたの世界で、これから暮らしていかなきゃならないってこと!?」
「そういうことでーす、じゃあ行きましょうか」
「え! ちょっとまっ」
体が宙に浮かんだような感覚がよみがえり、またもや私は神を制止することができず、気を失った。