第4条 これはホラー小説ではありません!
事務所から廊下に出ても、まだぼんくら息子が追いかけてきた。
「今日はしつこいな……」
とりあえず資料室に逃げ込んで扉を閉めた。途端に降り積もったほこりが舞い上がり、せき込んでしまう。
むせびながらも鍵をしめると同時に反対側から、ガチャガチャと乱暴にドアノブを回される。
おかしい、いつもならここまでしつこくない。お酒が入りすぎているからだろうか。
「もうやだ、別の世界に行きたい」
うんざりしていると、ぼんくら息子はさらにドアを激しく叩き、怒鳴り散らしてきた。
ドアの向こうから聞こえる罵声に身をすくめ、後ずさると、足になにか柔らかいものが触れた。
振り返るがなにも無い、視線を落とすと、そこには10歳ぐらいだろうか、男の子が立ってこちらを見上げている。
ふつう、こんな暗い所に、見ず知らずの子供がいれば、恐怖で絶叫してもおかしくないはずなのに、不思議と怖いとは感じなかった。
それは、その子の顔が人間とは思えないほどかわいらしかったのもあるだろうが、なにより、その服装があまりにも現実離れしていたからだろう。
その男の子は、神職が着る平安貴族風の服装で、冠や烏帽子はつけず、髪は後頭部から垂直に伸ばしてまとめている。もとどりという髪型で、これも平安時代ごろの髷の結い方だ。
(普通の子じゃないんだろうな)
仮にも神社に努めている身だ。人間とは違う存在も、きっと世の中にはいるんだろう。その程度には神の存在は信じていた。
「……ね」
「ん? なにか言った?」
「あんな子孫でごめんね」
「なんのこと?」
「あんなのでも僕の子孫だから……」