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第25条 「社」内恋愛は禁止です!

「ありがとうイヨちゃん」


 しばらくイヨに手を握ってもらっていたおかげで、震えはだいぶ治まってきた。


「本当に大丈夫ですか?」


 手を放そうとする私に、彼女はなお気づかわし気な視線を向けてくる。

 

 ああ、いっそなにもかも放棄して、イヨにすがって生きていこうか。

 彼女なら、きっと私の面倒を見続けてくれるだろう。

 夢の異世界ニート生活だ。


「あなたがどんな選択をしてもぉ、私はかまわないわよ~」


 寝転がったままで、フレイアが口を開いた。

 まるで私の心が見えているみたいな発言だ。


 フレイアの言葉に、一瞬本気でイヨとのヒモ生活を想像したが、ニヤニヤと私を見上げる彼女の顔に気がついて我に返った。


 いけない、危うく邪神の甘言にのせられるところだった。

 こんないたいけな少女に寄生して生きていくなんて、許されない。

 それに、役立たずのままでは、最終的に村を追い出されるのは目に見えている。


 こいつ、味方なのか敵なのかわからないな。


 こんな神の思惑通りになりたくないので、自立して生きていこうと心に誓う。


 私が悲壮な決心をしたところで、ナシメが数冊の本を抱えて自分の席に戻ってきた。

 どうやら彼は私達のやり取りに気づいていなかったようだ。


「なにかありましたか?」


 先ほどと空気が変わっているのを察したナシメの問いかけに、何でもないとだけ返して、彼が持ってきた本に目を向けた。


「ナカトミ様、この本はなんの本ですか?」


 彼が持ってきたのは、日本や中国の古い兵法書を解説したものだ。

 神社の資料室には似つかわしくない本だが、恐らく宮司の趣味だろう、よく朝礼で孫子やら武田信玄の名言を偉そうに語っていた。


「それは戦争のやり方を解説した本ですよ」


 あっちの世界の人名なんてどうせわからないだろうから、極めて簡単に説明した。


 農業の本ならともかく、戦争の本なんて興味ないだろう。

 そう思っていた私に、ナシメは意外な反応を見せた。


「やはりそうですか、ではこの地図に引かれた矢印は行軍経路を表しているんですね」


「そんなのに興味あるの?」


 文字が読めないぶん、地図や絵から情報を読み取ろうとするナシメに問いかけると、なぜかフレイアが自慢げに答えた。


「ナシメはね~、もともと騎士だったのよ~」


「騎士って、ナイトの騎士? 将棋の棋士とかじゃなくて?」


「ショウギってなに~?」


「いや、なんでもない」


 将棋の説明がめんどくさくて、フレイアの質問を遮った。


 この世界はなんでも日本風だと思っていたけど、そんなハイカラな職業も存在するのか。

 しかも、このナシメが元騎士だったなんて。


 しかし、彼の引き締まった肉体をみると、確かにそんな風に見えなくもない。

 他の男達と比べて、上品で理性的な振る舞いをするのもこれで合点がいく。

 そもそも、結構高い身分の人だったんだ。


 でも、それじゃあなぜこんな農民のような生活をしているんだろう。


 疑問には思ったが、こんなに落ちぶれるにはそれなりの理由がありそうなので、聞いていいものか迷っていると、先にナシメが口を開いた。


「ナカトミ様、私にこの文字を教えていただけませんか?」


「教えるの? 私が? なんで?」


「また野盗に襲われた時のために、新しい戦い方を学んで置きたいのです」


 彼の答えはしごくもっともなものだった。

 確かに以前の野盗との闘いは作戦負けのようだし、それでなくてもナシメのような人には別世界の戦術は興味深いのだろう。


「いいですよ、その代わりナシメさんはこの世界のことを教えて下さいね」


 私も断る理由がないので快く引き受けることにした、とりあえずこれで村の役に立っているといえるだろうし。


「では、しばらく神社の整備をしつつ、お互い教えあうということでどうでしょう」


 私はナシメの提案にうなずく。


「お二人ともここに通われるなら、私もお手伝いしますね」


 イヨも自ら手伝いを申し出てくれた。


「ナシメもここに通うの!?」


 私たちの会話を聞いて、さっきまで寝転がっていたフレイアが飛び起きた。


「いや~ん、どうしましょう。お菓子は食べつくしちゃったし。あ! 手料理でも用意した方がいいかしら」


「いえ、どうぞおかまいなく」


 急にテンションが上がってはしゃぐフレイアに対し、冷静に答えるナシメだが、彼女の耳にはまったく届いていないようだ。


 「ねえ、イヨちゃん、もしかしてフレイア様って」


 「意外過ぎて今まで気がつきませんでした。というか気づきたくなかったです」


 フレイアがなぜ今日に限って協力的だったのか、その理由を理解した私たちは、ただただ顔を見合わせるしかなかった。

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