第21条 男女共同参画って知ってます?
翌朝、家の戸を開けるとナシメが待ち構えていた。
昨日と違い、今日は朝食を食べてからの出発にしたのだが、待たせてしまっただろうか。
恐る恐る彼の顔色をうかがうが、元々が仏頂面なので判断がつかない。
「ではナカトミ様、行きましょうか」
ナシメは待たされたことは気にしていないようで、淡々と話を進める。
それはまあ良い、しかし、先日から気に入らないことがあった。
「そろそろナカトミ様って呼ぶのやめてもらえませんか? 私の名前は……」
「さあ、ナカトミ様! 行きましょう、今日もお供しますよ!」
イヨが話の途中で割り込んできた。
初めて会った時の表情とは比べ物にならない、満面の笑顔だ。
ずいぶん懐かれたものだなと思う。
その点は嬉しいのだが、二人からの呼び名はすっかりナカトミ様で定着してしまったようだ。
正直この呼び名は気に入らないのだが、イヨの笑顔を見ていると文句を言う気も湧かないので、ひとりでさっさと歩いていくナシメを追いかけることにした。
神社へと続く道沿いには民家に加え、田んぼや畑がまだらに点在している。
田畑ではすでに村人達が農作業にいそしんでいるのだが、おかしなことに気がついた。
彼らは各々畑を耕したり、種を撒いたり、水を汲んだりと動き回っているのだが、不思議なことに女性の姿が見えないのだ。
そういえば、この村に来てからフレイアとイヨ以外の女性を見ていない。
「まさかね」
かつてここの村人は野党に襲われ大勢が殺されたと、ナシメは言っていた。
まさかその時に、他の女性が全滅したなんてことはないだろうけど。
聞いていいことか少し迷ったが、気になって仕方がないので、思い切ってナシメに尋ねてみることにした。
「他の女達ですか? いますよ」
よかった、皆殺しにされたとかではなさそうだ。
「この地域では女は外に出て働きません。家の中で家事をしたり、内職をしたりが普通ですな」
どうやら土地柄の問題らしく、嫌な予感が的中しなくて安心した。
そういえばイヨが女性は神社に入れないと言っていたし、この地域の女性は村のことにあまり関わらせてもらえないようだ。
生活が苦しいなら、男も女も総動員して働けば良いんじゃないだろうか、などと考えていると、いつの間にか道は森の中に入っていた。
程なく神社の正面までたどり着く。
扉を開けてくれたナシメが中に入るよう促すが、私はイヨのことが気になって入れなかった。
「イヨちゃんも一緒に入れませんか?」
昨日同様入り口で待たせるのはかわいそうだ。
ナシメは一応周囲を気にしてから。
「まあ、良いでしょう」
と、特に問題視する様子もなくイヨの昇殿を許可した。
昨日から感じていたが、彼は他の村人と考え方が大分違うようだ。
線を引いていると言った方が良いかもしれない。
言葉遣いや振る舞いも、この辺りの男達に比べたら格段に上品だ。
もしかしたら彼も、元々はこの村の住人ではなかったのかもしれない。
恐縮して足が震えているイヨの手を引いて御殿に入る。
薄い板の床に踏み込んだ時、実はもう一つあった心配事が無駄だったことに気がついた。
なぜなら、ここに来るまでの道すがら、あのなかなか出て来ない神様をどうやって呼び出してやろうかと思案していたのだが、今日はすでに、奥の扉の前に現れていたからだ。




